四食目 ーー 自分のために作ってる、よな。 ーー (4)
不安はつい続いてしまう。
大丈夫だと確信がないから。
4
スーパーで福原を上手くごまかせたのかは、今でも疑問である。
あのときは心臓が破裂しそうで限界だったので。
今思うと、福原は麦飯の袋を不思議そうに見ていた気もする。
だからだろうか、おにぎりを眺めて感心する福原だけど、僕を見る目が疑っているようにしか感じられない。
「ねぇ、これって、中身何が入っているの?」
ドキドキしていると、首を伸ばしてきた大野がおにぎりを指差した。
今日も二種類のおにぎりが並んでいた。
一つは麦飯ご飯に白ゴマが混ぜられてあり、焼き海苔を淵に巻かれたシンプルな三角おにぎり。具は見えていないが明太子を入れておいた。
僕は焼きたらこのパサパサ感が苦手なので、生で入れてある。
もう一つも麦飯にいるのは白ゴマが混ぜられているのは同じで、また趣向を少し変えておいた。
混ぜご飯にシラス、そしてみじん切りにした青じそを混ぜ込んでおいた。
それを三角に握り、こちらはしその香りが立つので、こちらには海苔を巻かずにいた。
「これ、なかに何が入っているの?」
「あぁ、明太子。こっちにだけだけど」
「へぇ、それにしてもなんか健康的だね」
「そうかぁ?」
意識はしていない。そうなのだろうか。
苛つくことだが、やはり姉を意識しているのだろうか。
認めたくない……。
その日はつい寝坊をしていた。
原因はわかっている。昨日、ついスマホを使いすぎていたのである。寝る前、ついスマホゲームに夢中になってしまった。
気がつけば、夜中の一時を回っていた。
これは危険だと、アラームを普段よりも多く設定していても、睡魔には敵わず、深い眠りに誘われていた。
……仕方がないな。今日はコンビニで何か買うか。久しぶりにパンもいいな。
ふと、僕を茶化してくるなかで、大野がパンを食べていたことを思い出し、気分転換にそれもあり、だと考えてしまう。
しかし、すぐに足が重くなってしまう。
それはそれでどこか敗北感な苛まれてしまうのである。
これまでおにぎりを作ってきた使命感からか、パンにすることに申し訳なくなってしまう。
「あれ、今日は遅かったのね」
着替え終え、リビングに出ると、すでに三人が支度をしていた。珍しく僕が最後であった。
「ヤバい。寝すごした……」
寝起きなのに、すでにフルマラソンでも完走したのか、と疑いたくなるほどに声が詰まり、覇気を失われていた。
体が重い。
「今日はお弁当どうするの?」
毎朝、コーヒーを飲んでいて、母親が入れてくれている間に聞かれる。僕は「はぁ」と返事が重くなる。
コーヒーを入れてくれるならば、弁当も作ってくれよ、と声にならない願いが胸の奥で握り潰される。
キッチン、テーブルと見渡しても、完成された弁当はない。やはり期待はできない。
重たい頭を動かし、時計を眺めた。もう八時をすぎている。コーヒーを飲む余裕は多少あっても、これからおにぎりを作る余裕はない。
「もう時間がないし、コンビニでーー」
そこで最大の問題が残っていることに気づいた。
姉の存在である。
僕が寝すごしたからと、姉が代わりに弁当を作るなんて希望は皆無である。
それどころか、どんな雷が落とされるかわからない。
相当な怒鳴り声を覚悟し、テーブルでパンを食べている姉に視線を向けた。
「ま、たまには仕方ないんじゃない」
ーーえっ?
嘘だろ、とつい声がもれそうになって目を丸くした。
姉は普段と変わらず、穏やかにパンを食べている。いつも僕よりあとに家を出ているので、多少の余裕はあるだろうけど、あまりに穏やかすぎる。
もっと「早く起きろ」と責められるのを覚悟していたので、多少拍子抜けしてしまった。
「私も今日はコンビニか食堂で済ませておくわ」
僕を気遣ってか、それとも後ろめたさなのか、姉は静かに言う。
いや待て、違うっ。
安堵しようとする僕は、すぐに気を引き締めてた。
姉は一切、僕と目を合わそうとしなかった。それはわざと背けているように。
やはり、怒っているのか?
「ーーいいのか?」
恐る恐る聞いてみた。
「まぁ、たまにはね」
そこで姉が初めて目を合わせ、相槌を打った。普段と変わらないから、逆に僕が目を逸らしてしまう。
もしかすれば、夜に爆発して怒鳴られそうだけど、ここは素直に引き下がってくれたことに感謝した。
僕も時間が限界だったので。
ーーん? そもそも、僕が感謝するものなのか?
姉に責められなかったのは不幸中の幸いではあるけど、しっくりとはこない。
やはり背徳感はある。
姉に対してではなく、自分に対して。
ここまで自分でおにぎりを作っていた自負、意地のようなものがあり、一回でも抜けてしまったのが悔しかったのである。
こんな感情を抱くほど、僕の心情は変わってしまったのか……。
だからなのか、今日抜けてしまった穴埋めをしたくなり、また変わったおにぎりを作ってみたいと考えてしまっていた。
使命感に駆られてしまった。
だからなのか、学校に着いてついおかずのレシピを検索していた。
見たのは、チクワの磯辺焼きにゴボウの金平。レシピを見ていると、意外にも簡単なものから手の込んだものと、いろいろとある。
やはり手の込んだのはできそうにないな。
嘲笑するように鼻で笑い、スマホを机の上に置いた。
やはり無理である。
安心していいのか?
どうなんだ?
疑うべきなのか。




