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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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28/41

 四食目  ーー  自分のために作ってる、よな。  ーー (4)

 不安はつい続いてしまう。

 大丈夫だと確信がないから。

           4



 スーパーで福原を上手くごまかせたのかは、今でも疑問である。

 あのときは心臓が破裂しそうで限界だったので。

 今思うと、福原は麦飯の袋を不思議そうに見ていた気もする。

 だからだろうか、おにぎりを眺めて感心する福原だけど、僕を見る目が疑っているようにしか感じられない。

「ねぇ、これって、中身何が入っているの?」

 ドキドキしていると、首を伸ばしてきた大野がおにぎりを指差した。

 今日も二種類のおにぎりが並んでいた。

 一つは麦飯ご飯に白ゴマが混ぜられてあり、焼き海苔を淵に巻かれたシンプルな三角おにぎり。具は見えていないが明太子を入れておいた。

 僕は焼きたらこのパサパサ感が苦手なので、生で入れてある。

 もう一つも麦飯にいるのは白ゴマが混ぜられているのは同じで、また趣向を少し変えておいた。

 混ぜご飯にシラス、そしてみじん切りにした青じそを混ぜ込んでおいた。

 それを三角に握り、こちらはしその香りが立つので、こちらには海苔を巻かずにいた。

「これ、なかに何が入っているの?」

「あぁ、明太子。こっちにだけだけど」

「へぇ、それにしてもなんか健康的だね」

「そうかぁ?」

 意識はしていない。そうなのだろうか。

 苛つくことだが、やはり姉を意識しているのだろうか。

 認めたくない……。



 その日はつい寝坊をしていた。

 原因はわかっている。昨日、ついスマホを使いすぎていたのである。寝る前、ついスマホゲームに夢中になってしまった。

 気がつけば、夜中の一時を回っていた。

 これは危険だと、アラームを普段よりも多く設定していても、睡魔には敵わず、深い眠りに誘われていた。

 ……仕方がないな。今日はコンビニで何か買うか。久しぶりにパンもいいな。

 ふと、僕を茶化してくるなかで、大野がパンを食べていたことを思い出し、気分転換にそれもあり、だと考えてしまう。

 しかし、すぐに足が重くなってしまう。

 それはそれでどこか敗北感な苛まれてしまうのである。

 これまでおにぎりを作ってきた使命感からか、パンにすることに申し訳なくなってしまう。

「あれ、今日は遅かったのね」

 着替え終え、リビングに出ると、すでに三人が支度をしていた。珍しく僕が最後であった。

「ヤバい。寝すごした……」

 寝起きなのに、すでにフルマラソンでも完走したのか、と疑いたくなるほどに声が詰まり、覇気を失われていた。

 体が重い。

「今日はお弁当どうするの?」

 毎朝、コーヒーを飲んでいて、母親が入れてくれている間に聞かれる。僕は「はぁ」と返事が重くなる。

 コーヒーを入れてくれるならば、弁当も作ってくれよ、と声にならない願いが胸の奥で握り潰される。

 キッチン、テーブルと見渡しても、完成された弁当はない。やはり期待はできない。

 重たい頭を動かし、時計を眺めた。もう八時をすぎている。コーヒーを飲む余裕は多少あっても、これからおにぎりを作る余裕はない。

「もう時間がないし、コンビニでーー」

 そこで最大の問題が残っていることに気づいた。

 姉の存在である。

 僕が寝すごしたからと、姉が代わりに弁当を作るなんて希望は皆無である。

 それどころか、どんな雷が落とされるかわからない。

 相当な怒鳴り声を覚悟し、テーブルでパンを食べている姉に視線を向けた。

「ま、たまには仕方ないんじゃない」

 ーーえっ?

 嘘だろ、とつい声がもれそうになって目を丸くした。

 姉は普段と変わらず、穏やかにパンを食べている。いつも僕よりあとに家を出ているので、多少の余裕はあるだろうけど、あまりに穏やかすぎる。

 もっと「早く起きろ」と責められるのを覚悟していたので、多少拍子抜けしてしまった。

「私も今日はコンビニか食堂で済ませておくわ」

 僕を気遣ってか、それとも後ろめたさなのか、姉は静かに言う。

 いや待て、違うっ。

 安堵しようとする僕は、すぐに気を引き締めてた。

 姉は一切、僕と目を合わそうとしなかった。それはわざと背けているように。

 やはり、怒っているのか?

「ーーいいのか?」

 恐る恐る聞いてみた。

「まぁ、たまにはね」

 そこで姉が初めて目を合わせ、相槌を打った。普段と変わらないから、逆に僕が目を逸らしてしまう。

 もしかすれば、夜に爆発して怒鳴られそうだけど、ここは素直に引き下がってくれたことに感謝した。

 僕も時間が限界だったので。

 ーーん? そもそも、僕が感謝するものなのか? 



 姉に責められなかったのは不幸中の幸いではあるけど、しっくりとはこない。

 やはり背徳感はある。

 姉に対してではなく、自分に対して。

 ここまで自分でおにぎりを作っていた自負、意地のようなものがあり、一回でも抜けてしまったのが悔しかったのである。

 こんな感情を抱くほど、僕の心情は変わってしまったのか……。

 だからなのか、今日抜けてしまった穴埋めをしたくなり、また変わったおにぎりを作ってみたいと考えてしまっていた。

 使命感に駆られてしまった。

 だからなのか、学校に着いてついおかずのレシピを検索していた。

 見たのは、チクワの磯辺焼きにゴボウの金平。レシピを見ていると、意外にも簡単なものから手の込んだものと、いろいろとある。

 やはり手の込んだのはできそうにないな。

 嘲笑するように鼻で笑い、スマホを机の上に置いた。

 やはり無理である。

 安心していいのか?

 どうなんだ?

 疑うべきなのか。

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