四食目 ーー 自分のために作ってる、よな。 ーー (3)
いつものおにぎりであっても、日々、変化はするものである。
3
次の日の昼休み。
「……なんだ、今日はやけにあっさりしているな」
またか、と藤田のおにぎりへの指摘に、僕はげんなりしてしまう。
「まあ、どうせ「寂しい」とか言うんだろ」
もう歯向かうのも疲れるので、僕はぞんざいに応えると、藤田は「いや」とかぶりを振る。
「いや、寂しくはないんだ。なんか違うんだよ。な」
「あ、ほんとだ。いつもと少し雰囲気が違う」
藤田が話を振ったのは大野。もう彼女らに話しかけるのは定番となっていた。
もちろん、そこには福原もいる。昨日のこともあるので、ちょっと気まずい。
「あ、これ麦飯?」
福原は昨日のことは一言も触れず、おにぎりを眺め、すぐさま当てた。
「それでちょっと見た目が変わってるんだよ。だよね?」
「あ、うん」
と濁してしまったが、ちゃんと理由はある。決して話すわけにもいかない。
話せない。
一昨日の夜のことは……。
「ちょっと、飽きた」
「ーーハァッ?」
仕事から帰り、空になった弁当箱をキッチンのシンクに置きながら言う姉に、僕は眉間にシワを寄せた。
ソファーに座ってテレビを見ていたけど、つい背筋を伸ばして姉を睨んだ。
まずは感謝を寄せるべきではないのか。
これまで作らせておいて、恩を仇で返すつもりなのかと睨んでも、姉にはまったく通用せず受け流され、無駄になってしまう。
「なんかさ、最近のおにぎりって、見た目は変わっていても、具が一緒だったり、ツナマヨが多かったりしない?」
「仕方ないだろ。ツナマヨは僕が好きなんだから」
ソファーの背もたれに肘をかけ、体を反らして姉の方を向いた。姉は悪びれず続ける。
「だったら、もう自分で作れよ」
そうだ。まだ立場は僕の方が上である。こちらはいつでも切り捨てる武器を持っているのだ。殿下の宝刀を。
「何、言ってんの。もう弁当の当番はあんたでしょ。それを破るなんて、何考えてんのよ」
一振りすれば、天をも裂けると思って背を反らしたのに、姉の前では錆びた刀、もしくは竹刀でしかなく、脆く崩れてしまった。
「何? それともあんたって、約束も守れないような小さな男なわけ?」
それどころか、胸の前で腕を組み、横柄な態度で睨み返してきた。
「ねぇ、どうなの?」
あたかも自分が正論を話していると、言わんばかりに、責め立ててくる。しかも。語尾からして本気で怒りかけている。
……ったく。どれだけワガママなんだよ。
これまで似たような場面で反論し、何度も逆ギレさらたことがある。それはそれで嫌なので、渋々、渋々ではあるのに、爆発しそうな文句を無理矢理喉の奥に戻しておいた。
そして昨日、姉が文句を言わずに納得するものはないかと、放課後にスーパーへと足を向けていたのである。
それでも、的確な具材は見つからず、とりあえず普段から使える具材をカゴに入れたとき、目に留まったのが麦飯であった。
陳列されているのを見ていると、ご飯自体を変化させれば、と閃いた。
だからと、五目などの炊き込みご飯は、朝から炊くのは手間がかかるし、玄米にするとまた具が難しくなる。
その点、具を混ぜることも麦飯ならばできると考え、麦飯を買うことにしたのである。
ちょうど、このときである。福原に声をかけりたのは。
手法を変えるには、腹立たしい理由があるのである。
従うしかないけれど。




