四食目 ーー 自分のために作ってる、よな。 ーー (1)
最悪なことは、なぜか重なってしまう。
気分転換をしたいものである。
四食目
1
姉の分のおにぎりを作るようになって二週間。
それは地獄の日々にも思えたけど、この日は特に最悪と感じる日であった。
一限目から英語の小テストがあり、単語のスペルが浮かばず、つい上の空になっていた。
結果的に最悪なことになったのは明白であった。
姉からは日々、ワガママな要望に頭を抱えていたところにだったので、最悪である。
もちろんというべきか、藤田に今日も疑われたままであり、ついていけなかった。
きっとそのせいである。明日のおにぎりの具が浮かばないのである。何かバリエーションはないか、と久しぶりにコンビニのおにぎりを見に来ていた。
だが、じっくりとおにぎりを眺めることができなかった。時間帯が悪かったらしく、棚にほとんど残っていなかったのだ。
「お前、何にするんだ?」
声を弾ませながら聞いてきたのは藤田。
こいつも、買おうとしていたものがあったらしく、一緒にコンビニへ来ていた。
満面の笑みを崩さないまま寄ってくる藤田に呆れてしまう。
その右手にエクレアが乗せられていたので。
「お前、昼間にシュークリーム食ったところだろ」
今日の昼休み、藤田の弁当の横にしっかりと置かれていたスイーツを指摘すると、藤田は唇を尖らせた。
「シュークリームとエクレアと大した違いなんてないだろ」
「何、言ってんのさ。チョコレートがコーティングされてるだろ。これがある、ないは大きな違いだぞ」
もう言葉が出てくれない。藤田は目を輝かせながら、さらにバームクーヘンまでも買いそうな勢いであり、僕は圧倒されてしまう。
「ーーお前、まだ買うのか?」
「当然だろ。好きなものはいくらあっても、邪魔じゃないの」
「……なんだよ、それ……」
「って、なんか俺が変みたいに言うけどさ、お前だって何かはあるだろ、好きなもの」
釈然としないまま聞かれ、考え込んでしまう。そんなものがあっただろうか?
「ーーないの?」
顎に手を当てて考えてしまうと、「本当か?」と目を丸くする藤田。どうも嘲笑っているようにしか見えない。
いや、お前のスイーツ好きが異常なんだ、とは喉の奥で押し殺しておいた。
「うん。やっぱ、今はないのかな」
すぐに浮かぶものはなく、結論づけた。
最近はおにぎりの具材ばかり考えていたから、そんな余裕はどこか忘れていたらしい。
何か虚しいしムカついてしまう。藤田にバカにされているようで。
「今はないだけだ、今はっ」
どこか茶化して笑う藤田に、強く断言してやった。
自分の好きなものすら、浮かばない……。
重症か、これは。




