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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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25/41

 四食目  ーー  自分のために作ってる、よな。  ーー (1)

 最悪なことは、なぜか重なってしまう。

 気分転換をしたいものである。

           四食目



            1



 姉の分のおにぎりを作るようになって二週間。

 それは地獄の日々にも思えたけど、この日は特に最悪と感じる日であった。

 一限目から英語の小テストがあり、単語のスペルが浮かばず、つい上の空になっていた。

 結果的に最悪なことになったのは明白であった。

 姉からは日々、ワガママな要望に頭を抱えていたところにだったので、最悪である。

 もちろんというべきか、藤田に今日も疑われたままであり、ついていけなかった。

 きっとそのせいである。明日のおにぎりの具が浮かばないのである。何かバリエーションはないか、と久しぶりにコンビニのおにぎりを見に来ていた。

 だが、じっくりとおにぎりを眺めることができなかった。時間帯が悪かったらしく、棚にほとんど残っていなかったのだ。

「お前、何にするんだ?」

 声を弾ませながら聞いてきたのは藤田。

 こいつも、買おうとしていたものがあったらしく、一緒にコンビニへ来ていた。

 満面の笑みを崩さないまま寄ってくる藤田に呆れてしまう。

 その右手にエクレアが乗せられていたので。

「お前、昼間にシュークリーム食ったところだろ」

 今日の昼休み、藤田の弁当の横にしっかりと置かれていたスイーツを指摘すると、藤田は唇を尖らせた。

「シュークリームとエクレアと大した違いなんてないだろ」

「何、言ってんのさ。チョコレートがコーティングされてるだろ。これがある、ないは大きな違いだぞ」

 もう言葉が出てくれない。藤田は目を輝かせながら、さらにバームクーヘンまでも買いそうな勢いであり、僕は圧倒されてしまう。

「ーーお前、まだ買うのか?」

「当然だろ。好きなものはいくらあっても、邪魔じゃないの」

「……なんだよ、それ……」

「って、なんか俺が変みたいに言うけどさ、お前だって何かはあるだろ、好きなもの」

 釈然としないまま聞かれ、考え込んでしまう。そんなものがあっただろうか?

「ーーないの?」

 顎に手を当てて考えてしまうと、「本当か?」と目を丸くする藤田。どうも嘲笑っているようにしか見えない。

 いや、お前のスイーツ好きが異常なんだ、とは喉の奥で押し殺しておいた。

「うん。やっぱ、今はないのかな」

 すぐに浮かぶものはなく、結論づけた。

 最近はおにぎりの具材ばかり考えていたから、そんな余裕はどこか忘れていたらしい。

 何か虚しいしムカついてしまう。藤田にバカにされているようで。

「今はないだけだ、今はっ」

 どこか茶化して笑う藤田に、強く断言してやった。

 自分の好きなものすら、浮かばない……。

 重症か、これは。

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