三食目 ーー このまま慣れていくのか? ん? ーー (7)
神経が休まることがない。
家でも、学校でも。
鋭い眼差しが飛んでくるから。
7
今日は朝からどっと疲れた気になっていた。父親の提案のせいだ、と学校に来ても気持ちは鎮まらなかった。
時間が流れていくことで落ちつくと思っていたのに、昼休み、目の前にいる藤田に、また神経が研ぎ澄まされてしまう。
そうだ。まだこいつがいたんだ、と。
後悔している最中、自分の弁当を広げながら、藤田が疑わしく僕の顔を見ていた。
何度もおにぎりと見比べて。
おにぎりは二種類。ヒジキの混ぜおにぎり、シラスと白ゴマ混ぜおにぎり。
今回は海苔は巻かないでいた。テーマとしては「和」が上手くできたと納得している。
「やっぱ、おかしい」
食べる前におにぎりを眺めていると、藤田が静かに呟いた。
「何がだよ」
「やっぱり、それ女っぽくないか?」
「またそれかよ」
また昨日みたいな押し問答を繰り返しそうになり、呆れてうなだれてしまう。
今日こそは嘘を暴いてやる、といきがる藤田。何か手段を握っているのか、おにぎりをマジマジと眺めている。
黒いフレームのメガネが憎い。
「女の子っぽいって。んなことないだろ。ただ混ぜているだけなんだから」
そう。意識なんてしていないさ。まさか、そこまで深読みするか。
まだ気が休まりそうにないな、と諦めておにぎりを眺めてしまう。
でも確かに、冷蔵庫にはまだツナが残っていた。
僕の好物なのに、なんで使わなかったんだ? 別に毎日でも飽きないのに。
なんでシラスを選んで、青じそがないことを悔やんだ? そんなに好きではないし、なくても問題はないのに。
疑問を浮かべていると、不意に姉の顔が浮かんでしまう。あの、ニヤニヤと笑いながら、弁当箱を渡してきたときの。
あれ? 姉ちゃん、香りの強いやつとか好きだったよな。パクチーや柚子それに青じそも……。
待て、待て……。
もしかして、僕は無意識のうちに、姉の好みに合わせていたのか?
いや、そんなことは断固としてない。冷蔵庫のなかにあるのを選んでいただけだ。それだけだ。
釈然としない。踊らされているみたいで気分が悪い。
「なんだよ、そんな怒らなくてもいいじゃんかよ」
頬杖を突き、頬を歪めていると、藤田は驚いたのか、弱々しくぼやく。
ハッとして顔を上げると、かぶりを振って苦笑した。
「いや、昨日嫌なことがあって、ちょっとそれを思い出していただけだよ」
「なんだよ、彼女とケンカでもしたか?」
「違うよ」
まぁ、“女”という指摘には、あながち間違いではないが、振り回されている感覚に気分は優れない。
おにぎりで忘れようと、ヒジキのおにぎりに箸を入れた。
無意識のうちに、好みに合わせていた?
んなバカなっ。




