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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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22/41

 三食目  ーー  このまま慣れていくのか? ん?  ーー (6)

 認めたくない物体がキッチンにある。

 視界から離れてほしいのに。

           6



 昨夜のことは悪夢であったと、今朝起きたときに襲った頭痛に言い聞かせた。

 そう、ただの聞き間違いだと。

 部屋を出て大きくあくびすると、頭痛を退かすけど、キッチンに辿り着いたとき、目眩が起きそうになり、足が止まった。

 あの黄色の弁当箱がシンクに置かれていたのである。

 昨日、苛立ちからソファーの前にあるローテーブルに置き去りにしていたはずなのに、である。

 考えられるのは姉しかいない。夜中にでも嫌味を込めてここに置いたのだろう。僕に対して。

 そして、確実に目につくところに、といやらしさも込めて。

 そんなことをしても、絶対に作りはしない。

 弁当は無視をして作業に移っていた。ご飯はすでに炊けている。

 空のボールを取り出してから、冷蔵庫を開いてみた。

「……今日は何にするべきか……」

 鮭、シラス、昆布、もう一通りの食材は試していたので、あまり乗る気にはなれない。

 あまり浮かばず頭を掻いてしまうと、チルド室にある白い小皿に目が留まった。

 小皿を取り出すと、ラップに覆われていた。それを捲ってみると、ヒジキの煮物が入っている。

 これは昨日の夕食の残りであった。

「……残り物か……」

 そういえば、前に母さん言っていたな。残り物は使ってもいいって。

 以前、姉が母親に懇願しているなかで、そんなことを言っていたことを思い出した。

「……よし、使ってみるか」

 小皿をカウンターへと置くと、再び冷蔵庫と睨み合った。もう一種類は何にするべきか。

 また梅? それともツナマヨ? いやそれともシンプルに塩にぎりにするか?

 いや、それならまた見た目が寂しいか……。

 頭のなかで数個のおにぎりを握ってみても、どれも上手く噛み合ってくれない。

「一つがヒジキだから、もう一つは……」

「ーーおっ、やってるな」

 具材が決まり、ヒジキの横に置いていると、起きて来た父親が声をかけてきた。

 今日も父親が一番らしい。ってか、もうそんな時間か。

 おはよ、と声をかけつつ、準備に動く僕を父親は黙って感心して見ていた。

「ーーん? なんだ、この弁当箱? お前のにして派手だな」

 すると、例の弁当箱を見つけて不思議がる。僕は瞬時に眉をひそめる。

「姉ちゃんだよ。僕についでに自分の分も作れって。昨日の夜に持ってきた」

「へぇ~。恵那の分も作るのか。お前、偉いな」

「まさか。作んないよ、面倒だし」

 感心する父親を裏切るように即答し、二つのボールを取り出した。

 僕の反応に父親は「えっ?」と首を傾げた。

 そんなことより、おにぎりである。

 まずは炊飯器を開き、炊きたてのご飯をほぐす。炊きたての温かい湯気がいい香りを運んで、僕の頬を綻ばせた。

 このご飯をボールに移すと、残り物であったヒジキの煮物を投入。ヒジキに人参、コンニャクに油揚げ。具材としては充分だし、味付けもすでにあるので、このまま混ぜればいけるだろう。

 そしてもう一つは……。

 今日は気持ち「和」でいってみよう。

 小さく自分に言って頷くと、パックに入った“シラス”を手に取った。

 冷蔵庫には豆腐もあったので、父親の酒のアテとして買っておいたのだろう。

 豆腐の上に乗せて食べるつもりだったのだろう。

 それを拝借しよう。

 ヒジキとは別のボールにご飯を入れ、そこにシラスを入れる。

 う~ん。これだけじゃ物足りないな。これだったら、青じそも買っておいてもよかったな……。梅干しでも入れるか?

 シラスに合う具を探して迷ってしまう。

 カウンターを指で突きながら考えていると、ふと指が止まる。

 引き出しを開き、調味料から白ゴマを出し、ボールへと入れた。

「手際よくなってきたな」

 それまで黙っていた父親が話しかけてくる。

「ただの慣れだよ」

 ぞんざいに応えながらしゃもじで混ぜていく。真っ白だったご飯に色が差し込んで華やいでいく。

 まぁ、悪い気はなく、ちょっと顔は綻んでしまう。

「それだったら、恵那の分も作ってやりなって」

「だから、嫌だって」

 まったく、どうしてそこまで甘いんだか。

 憎らしく父親を睨んでみると、「どうだ?」と問いかけるみたいに、じっと僕を見ていた。

「……ったく。面倒なんだって」

 なんでそんなに甘くなるんだ、まったく。

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