三食目 ーー このまま慣れていくのか? ん? ーー (4)
疑われている。
疑われてしまっているのだけど……。
4
最近の藤田の反応は薄かった。
初めておにぎりを作ってみたときは「寂しい」と茶化し、それ以降は時折バカにしていたのに、今は成りを潜めている。
時折、バカにするのとはまた違う、茶化した眼差しをおにぎりにではなく、僕に向けてはいるが。
真意は掴めないけど、それが決して賞賛の眼差しでないことは一目瞭然であり、僕を苛つかせていた。
こいつの視線が気になり、見返してやろうとおにぎりの具材を必死になって探していた僕がバカみたいではないか。
ただ、今日はまた物珍しそうに、藤田は僕のおにぎりを眺めていた。
「なんだよ、なんか変か?」
恐る恐る聞くと、マジマジと舐めるように交互に睨まれ、逆に僕が身構えてしまう。
「お前、女できたか?」
動いていた視線がスッと僕に定められたとき、ポツリと藤田はつぶやく。
「ーーはぁっ?」
突拍子のない言葉に、僕は間の抜けた返事をしてしまう。
気にもしていなかった問いに硬直していると、それを勘違いした藤田の目が細くなり、口角を上げた。
それは心に土足で踏み込むような、不敵で気味の悪い笑みであり、背筋が寒くなった。
「なんで、そんな話になるんだよ」
嘆きながら聞くと、藤田はおにぎりをじっと睨んでいた。つい、弁当箱を手前に引き寄せた。
「ーーそれ、お前の母さんが作ったものじゃないだろ」
予想にもしていなかった、ストレートを脇に見事に喰らった。「うっ」とうめき声はでなかったけど、面喰らってしまう。
なんだ? なんでいきなりそんなことを……。
確かに母親が作っていないのは当たっている。だからこそ、すぐに反論できない。
「いや、いや。そんなことないだろ」
動揺から声が上擦りそうになる。懸命に平静を装い反論をーー
「いんや、絶対にそうだろっ」
「どこがだよ」
「だって、そうだろ。ここ一週間ぐらいかな、お前の弁当、おにぎりだけになってるし、段々上達していってるじゃん。それって、普段弁当を作ってる親じゃないってことじゃないのか?」
なめていた。
普段のこいつは決して秀才って奴じゃない。知能指数も僕と同じぐらいだ。それなのに、なんだこの洞察力は。
憎らしいが当たっている。
「それって、女ができて、それで弁当を作ってもらってるんだろ」
「どこをどう取ればそんな飛躍した結論になるんだよ、まったく……」
こうなれば白状するべきか? 僕が作っているって。でも、それは恥ずかしいからな……。
「なんだろうな。前に言ったけど、寂しかったのが華やかになったっていうか……」
「あ、それはわかるっ」
藤田の勢いについていけずにうなだれていると、同町内する弾んだ声がして、慌てて顔を上げた。
「ーー大野?」
隣から首を伸ばしていたのは大野。手にサンドイッチを掴みながら、楽しそうに目を輝かせている。
「最近のやつ、やけに綺麗になってるなって思ってたんだ」
思わぬところからの援護に、僕はあたふたとしてしまう。
「あ、だから私に聞いたの? 大変かって。それでそれを彼女に言うために」
今度は福原までもが加わってきた。
違う。それは断じて違うのである。
「なんか、すごい手が込んでるなぁ、ってときもあったんだよね」
「うん。さすがに私もちょっと考えたもん。みんなが作ってるんなら、作ろうかなって」
茶化されているのだが、弁当を褒められているので、複雑で、「違う、違う」と言葉が詰まってしまう。
「すごいよね。自分のだけじゃなくて、恋人の分まで作るなんて。相当自信がないと無理でしょ」
二人してあらぬ想像を膨らませてしまう。いや、だから違うのである。
「いや違うぞ。これは絶対に素人だ。多分、こいつで実験して試してるんだよ。それで今は上達したんだ」
盛り上がる女子二人に、藤田が加わる。右手の人差し指を突き立て、ニタニタと笑いながら断言してみせた。
ふざけるな。勝手な推測で話が進められてしまう。福原らも納得して嬉しそうに、僕の顔を見てきた。
あぁ、藤田の顔を殴りたい。憎らしい鼻を折ってやりたい。机の下で拳をギュッと握り締めてしまう。
まぁ、実際は殴る勇気はないのだが……。
もうバラしてしまうか? バラす方が茶化されずに済むから楽になるのか?
「…………」
いや、違うな。きっと水を得た魚となって、もっと酷く茶化してくるのは明白だ。
それだけは耐えられない。
「だから、違う」
恋人がいない、と断言するのは虚しいが、ここは引き下がれない。
三人に両手を見せて強く断言した。
勝手な推測をするな。
絶対に違うんだ。




