三食目 ーー このまま慣れていくのか? ん? ーー (3)
毎日考える?
毎日も?
考えられる……?
3
この一週間、弁当を作る大変さは身に沁みて実感している。福原から大変だと聞くと、より強く。
でも、止めるわけにもいかず、放課後、またスーパーに足が向かっていた。
入り口近くの野菜を眺めていると、ふと考えてしまう。
福原もこうして考えながら、買い物をしているのだろうか、と。
「いや、いや、いや。そんなわけないだろ」
つい小声が出てしまい、かぶりを振って否定すると、足を進めた。
自分はおかずを考えていないから、悩むのは半分で済んでいるんだと考えながら、すれ違う買い物客のカバンやカートをふと眺めた。
すると、カートを使い、野菜やパン、生活用品と山盛りに入れている客や、最小限の食材の食材だけを入れているだけの客と、様々であった。
なかには「カレー」だな、とわかる食材が入っている客もいて、ちょっと楽しかった。
客を観察しつつ歩いていると、精肉コーナーで鶏の胸肉が目に留まる。
これの照り焼きとか好きだったな。
不意に母親が作ってくれていたころのおかずが頭をよぎる。
そういえば、アスパラの肉巻きもあったな。
鶏肉の隣にあった薄切りの豚肉のトレイを手に取り、そんな料理があったことを思い出した。
顔を上げ、一瞬宙を眺めて時間が止まってしまう。
ややあって、瞬きをすると、思い立ったようにトレイを戻して、野菜売り場に足を戻した。
ほかにはいんげん豆のごま和え、まぁ、これはさほど好きではなかったけど。それにゴボウのきんぴら、ピーマンの肉詰めってのもあったな。
気づけば、店内をうろうろと歩き、記憶の淵で残っていた弁当のおかずたちを引き上げていた。
ほかにはナポリタンにハンバーグもあった。
そこで冷凍食品売り場に差しかかると、陳列された商品を眺めた。
春巻きにミンチカツ。それに焼売。
春巻きの商品を手に取り、指先に伝わる冷たさに、変な考えがよぎってしまう。
おにぎりだけにこだわらないほうが、「弁当」としてのバリエーションが増えるじゃないか、と。
いや、無理だ。
すぐさまかぶりを振る。
今でも朝起きる時間が早くなっている。体が慣れてきたとはいえ、おかずまで作るものなら、もっと早くに起きなければいけない。それは厳しい。
じゃぁ、夜に下準備するか?
いや、それも無理だ。
静かに浮かんだ案をうなだれ、溜め息をこぼしながらかき消した。
目蓋を閉じりと、「大変」と即答した福原の声と笑顔が重くのしかかった。
……ほんと、すごいな、あいつ。
平然としていた福原に感服して、冷凍食品を戻していると、また視線が止まった。
冷凍食品を眺めていると、自分が食べたことのある商品が少ないことに気づいた。
スーパーの品数が少ないわけじゃない。むしろ数は多いし、新商品ばかりでもない。小学校のころから見る商品も少なくない。
でも、食べたことのある商品が少ない。
疑問に苛まれていると、ふと思い出してしまう。
そうだ、母さん、あまり冷凍食品を買っていなかったんだ。
弁当のおかずになりそうなのに、買っていない。それは……。
そこで今朝の父親との会話が甦った。
母さんが料理好きだと。
今ならわかる。こうした冷凍食品は弁当のおかずには重宝するのだが、母親はあまりしていなかったのだ。
ほとんどを自分で作っていたのだと。
冷凍食品を棚に戻したとき、僕の心は強く締めつけられた。
今さらながら、そのすごさに感服し、感謝してしまう。
僕には絶対に真似ができない、と。
やはり、自分では無理である。
絶対に真似はできない。




