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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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19/41

 三食目  ーー  このまま慣れていくのか? ん?  ーー (3)

 毎日考える? 

 毎日も?

 考えられる……?

        3



 この一週間、弁当を作る大変さは身に沁みて実感している。福原から大変だと聞くと、より強く。

 でも、止めるわけにもいかず、放課後、またスーパーに足が向かっていた。

 入り口近くの野菜を眺めていると、ふと考えてしまう。

 福原もこうして考えながら、買い物をしているのだろうか、と。

「いや、いや、いや。そんなわけないだろ」

 つい小声が出てしまい、かぶりを振って否定すると、足を進めた。

 自分はおかずを考えていないから、悩むのは半分で済んでいるんだと考えながら、すれ違う買い物客のカバンやカートをふと眺めた。

 すると、カートを使い、野菜やパン、生活用品と山盛りに入れている客や、最小限の食材の食材だけを入れているだけの客と、様々であった。

 なかには「カレー」だな、とわかる食材が入っている客もいて、ちょっと楽しかった。

 客を観察しつつ歩いていると、精肉コーナーで鶏の胸肉が目に留まる。

 これの照り焼きとか好きだったな。

 不意に母親が作ってくれていたころのおかずが頭をよぎる。

 そういえば、アスパラの肉巻きもあったな。

 鶏肉の隣にあった薄切りの豚肉のトレイを手に取り、そんな料理があったことを思い出した。

 顔を上げ、一瞬宙を眺めて時間が止まってしまう。

 ややあって、瞬きをすると、思い立ったようにトレイを戻して、野菜売り場に足を戻した。

 ほかにはいんげん豆のごま和え、まぁ、これはさほど好きではなかったけど。それにゴボウのきんぴら、ピーマンの肉詰めってのもあったな。

 気づけば、店内をうろうろと歩き、記憶の淵で残っていた弁当のおかずたちを引き上げていた。

 ほかにはナポリタンにハンバーグもあった。

 そこで冷凍食品売り場に差しかかると、陳列された商品を眺めた。

 春巻きにミンチカツ。それに焼売。

 春巻きの商品を手に取り、指先に伝わる冷たさに、変な考えがよぎってしまう。

 おにぎりだけにこだわらないほうが、「弁当」としてのバリエーションが増えるじゃないか、と。

 いや、無理だ。

 すぐさまかぶりを振る。

 今でも朝起きる時間が早くなっている。体が慣れてきたとはいえ、おかずまで作るものなら、もっと早くに起きなければいけない。それは厳しい。


じゃぁ、夜に下準備するか?

 いや、それも無理だ。

 静かに浮かんだ案をうなだれ、溜め息をこぼしながらかき消した。

 目蓋を閉じりと、「大変」と即答した福原の声と笑顔が重くのしかかった。

 ……ほんと、すごいな、あいつ。

 平然としていた福原に感服して、冷凍食品を戻していると、また視線が止まった。

 冷凍食品を眺めていると、自分が食べたことのある商品が少ないことに気づいた。

 スーパーの品数が少ないわけじゃない。むしろ数は多いし、新商品ばかりでもない。小学校のころから見る商品も少なくない。

 でも、食べたことのある商品が少ない。

 疑問に苛まれていると、ふと思い出してしまう。

 そうだ、母さん、あまり冷凍食品を買っていなかったんだ。

 弁当のおかずになりそうなのに、買っていない。それは……。

 そこで今朝の父親との会話が甦った。

 母さんが料理好きだと。

 今ならわかる。こうした冷凍食品は弁当のおかずには重宝するのだが、母親はあまりしていなかったのだ。

 ほとんどを自分で作っていたのだと。

 冷凍食品を棚に戻したとき、僕の心は強く締めつけられた。

 今さらながら、そのすごさに感服し、感謝してしまう。

 僕には絶対に真似ができない、と。

 やはり、自分では無理である。

 絶対に真似はできない。

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