三食目 ーー このまま慣れていくのか? ん? ーー (2)
一体、何を基準にして、弁当を作っているのか。
興味はある。
2
おかずを作るつもりはさらさらない。けれど、父親の提案に心も揺れてしまう。
授業中、何がいいのかと頭を働かせてしまった。
数学の数字の横にハンバーグ、英語の英文の横に魚、とまったく不釣り合いな言葉が乱列してしまい、不協和音として頭に忍び込み、グルグルと回っている。
昼休みの直前、結論が出た。
無理だな、うん。
ずっと考えていた。きっと、今日の午前の内容はまったくと言っていいほど入っていない。
やはり、おにぎりを考えるだけで限界であり、頭の周りを飛び回っている具材を振り払うため、目蓋を閉じ、頬杖を突いた。
みんな、どんなふうに考えているんだ?
不意に疑問が浮かぶと、目を開き、隣の席の福原を眺めた。
弁当を作っているのはバレたくない。けれど、やっぱりどんなことを考えて作っているのかが知りたかった。
聞いてみようか……。
ま、作っていることは黙っておいて、と。
昼休みになり、すぐさま藤田が席にやって来て、周りを騒がせていた。
「なんか、お前最近おにぎり多いよな。なんか理由でもあんの?」
自分の弁当を広げ、まずはお茶を飲んだ藤田が僕の弁当を見て聞いてきた。
藤田の弁当の横には、今日はシュークリームが置かれている。
これだけ毎日、甘いものを食べていて太らないのは不思議である。
「別に理由なんてないよ。ただ、おかずを作るのが面倒なんだろ」
あくまで、母親が作ったという体で答えた。
今回、藤田はおにぎりに対して、文句を言うことはなかった。僕としては、もう少しおかずがあってもよかったとも思うのだが。
五目のおにぎり、一つはおにぎりを丸々焼き海苔で包む形として、もう一つは三角の淵に海苔を巻き、変化をつけるようにした。
今日はおかずとして玉子焼きのほかに、細く切ったキュウリをチクワの穴に入れただけの簡単なものを入れておいた。
小さな山が二つに黄金色が広がっていた。
見映えを気にしてしまったけど、一週間前なら、そんなことは気にもしていなかった。
「そうなのか? なんか俺には、変なこだわりがあるように見えるんだけどな」
「ない、ない」
やけに深読みする藤田を手を振って笑った。そう。ただおかずを作るのが嫌なだけである。
あっ。
厚めに切っていおいた玉子焼きをはしで半分に切っていたときである。大事なことを思い出した。
「なぁ、福原ってさ、自分で弁当を作ってるって言ってたよな?」
隣の席で大野杏と二人で弁当を食べていた福原に唐突に声をかけた。
二人して「何?」とこちらの席に顔を向けた。
僕が声をかけたことに、藤田も驚いていた。
「福原ってさ、弁当作るときって、何を基準にして考えてるの?」
「なんだよ、それ。急だな」
自分でもそれは痛感していまが、聞かずにはいられなかった。
「ちょっと、気になってさ。前、母さんが難しいって言っていたから。毎日作るのって、どう考えているのかって、不思議になってさ」
「あぁ、それは私も気になる。私も自分でってなると無理だから」
半分は嘘だったので、どう繋げるか悩んでいると、大野が食いついてくれ、目を輝かせていた。
僕にとっては、大きな助け船である。
「う~ん。やっぱり、色彩かな? なんか、おかずが単色だったらもったいないじゃん」
「そっか? 俺は好物が入っていたら、それで充分なんだけどな」
藤田はご飯を一口、口に入れ、自分の弁当を見せた。
「俺、こういうプチトマトとかいらないもん」
弁当にはプチトマトが入っており、それを箸で掴むと眉間にシワを寄せた。
「お前の好みでってなったら、ご飯にスイーツになるだろ。そんなの食べられないって」
プチトマトを食べ、口をすぼめる藤田に一言添えてやった。それでも藤田は「ダメ?」と目を丸くした。
「嘘だろ」
「それはないって」
「太るよ~」
一斉に藤田にツッコミが入り、三人が笑ってしまった。藤田だけがキョトンとしている。
「あとは、栄養も考えてるよ。できるだけ野菜も入れるようにしてる。煮物とか、炒め物とかで」
ふざける藤田をよそに、福原は続ける。
「それって大変じゃないの?」
「大変っ」
即答する福原。でも、すぐに目を細める。
「でも、それを含めて楽しいよ」
「やっぱ、福原ってすごいわ」
「ーーそう? どこのお母さんも、みんなそうだと思うよ」
「いやいや、美里はすごいよ」
控えめに謙遜する福原に、三人の賞賛の眼差しが注がれる。すると、福原は恥ずかしげに目を伏せた。
そっか、やっぱ大変なんだな。
大変なのをわかっていて作るとは……。
すごいの一言である。




