二食目 ーー 作る? 作るべきなのか? ーー (5)
前回のことを踏まえ、今回は少し考えてから行動しなければ。うん。
5
華やかになるものは何があるのか?
冷蔵庫を開き、冷気を頬に受けながら食材と睨み合っていた。
今日は眠気もどこかに去ってくれている。
しかし表情は浮かないまま、これといった具材が見つからず、視線を忙しなく泳がせてしまう。
まぁ、海苔は巻き方を変えればいいし、あとは、これかな……。
とりあえずやってみよう。うん。
冷蔵庫を閉じ、今日の具材が決まると、力強く頷いた。
さぁ、始めよう。
ご飯はすでに炊きあがっている。あとは昨日と違い、ちょっと手を加えよう。
まずはボールに炊きたてのご飯を入れる。
ほわほわと温かい湯気が冷えた頬に触れ、緩んだ。
そこに入れるのは鮭の身にしよう。
ビンに入った鮭フレーク。きっと、初めからおにぎりの具として買っていたのだろう。使わせてもらう。
鮭フレークをご飯の入ったボールに入れ、それを混ぜていく。
白いご飯にサーモンピンクがまんべんに混ざりだす。真っ白な画用紙に太陽の光が広がるみたいに。
そこで不意に手が止まる。
「何か寂しいか……」
ふと、キッチンを見渡し、手前の引き出しを開けた。そこには調味料の類が入っている。
そこから白ゴマを取り出すと、少量をボールに混ぜ込んだ。
「ーーよし。これで一つは終わり、と」
混ぜ終えたボールを脇に置き、まな板を用意する。
あとは冷蔵庫から取り出していた高菜の漬け物を置き、それを細かく切っていく。
おそらく、これは晩ご飯のつけ合わせに買っていたのだろう。少し拝借させてもらう。
切り終えると、新たに用意したボールに先ほどと同じ量のご飯を入れ、そこに切った高菜を入れる。
「さすがにこれに白ゴマはダメだな。こいつには……」
手を止め、再び引き出しを開けた。今度は…… 一味唐辛子と。
ボールに一味唐辛子振り入れる。今回は控えめに。
すべてを入れ終えるとかき混ぜていく。
これで二種類のご飯の完成と。
それをあとは握るだけ。
ラップを手の平に広げたとき、ふと時計を眺めた。
午前七時三分。そろそろみんなが起きてくるころだろう。何か茶化されるのも面倒だ。早く作っておこう。
ラップの上に混ぜたご飯を乗せ、握っていく。今日はしっかりと三角形になるように気をつけて。
「……あんた、やけに早いじゃん」
今日は綺麗に三角形になる。顔の辺りまで手を上げて、小さな緑の生い茂った山をマジマジと眺めてしまう。にやけていると、奥から突如声をかけられた。姉である。
「あ、おはよ」
声をかけられ振り返ると、咄嗟的に応えた。すると、首を傾げてしまう。
出勤の支度の終えた姉が物珍しそうに僕を見て目を丸くしていた。
「なんだよ、変な目で見て」
舐めるようにいかがわしい眼差しの姉に、僕は訝しげに睨み返した。
「いやぁ、まさかと思って。そんな恰好でしているとは思わなかったから」
僕の容姿を見て驚いているようである。
「仕方ないだろ。時間がかかって、忙しなくなるのが嫌だから、先に着替えてんの」
制服姿にエプロンな僕を見て、茶化しているようなので吐き捨て、作業に戻った。
三角形のおにぎりに、最後は焼き海苔を巻くだけ。昨日ははみ出た具を隠すためにベタベタと巻いていたけど、今日は変えよう。
今回の具ははみ出しなんて気にすることはない。だから淵に沿って巻き、三角の面が見えるようにする。
「へぇ~。意外とちゃんとやってるのね」
「どうせ、バカにしてんだろ」
「な~に? 感心してんじゃん。褒めてんのよ」
完成したおにぎりを、どこか尊敬の目で見てくるのを、ぞんざいに払い除ける。
それよりも、今日はこれを弁当箱に入れてみよう。
ちゃんと容器に入れれば、一段と見映えもよくなるだろうから。
キッチンの上部にある棚から、適当なサイズの弁当箱を取り出した。おにぎりの大きさから考えると、普段使っていたものより小さくなるが、それもいいだろう。
黒色の楕円形の弁当箱を見つけ、取り出している間も、姉はおにぎりをまだ眺めていた。
「そういえば、姉ちゃんどうしてんのさ、結局」
あれだけ母親に直談判していたのを思い出し、ふと聞いてみた。
「まぁ、コンビニと近くの食堂のループかな。ほんと、キツいんだから、もう」
「なるほどーーって、食うなよ」
並べられたおにぎりを狙い、今にも手を出しそうな雰囲気を醸し出す姉を牽制する。
「食べないわよ。そこまで酷くないって」
手の平を見せて否定する姉。不敵に唇をつり上げる姿に僕は警戒心を高め、鋭く睨んだ。
「食うなよ」
ここは釘を刺しておく。
もう少しで両親も起きてくるだろう。どうやら両親がいなければ、おにぎりが奪われそうな心配が生まれてしまった。
せっかくできたおにぎり。奪われたくはないさ。
牽制して当然だ。




