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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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14/41

 二食目  ーー  作る? 作るべきなのか?  ーー (5)

 前回のことを踏まえ、今回は少し考えてから行動しなければ。うん。

            5



 華やかになるものは何があるのか?

 冷蔵庫を開き、冷気を頬に受けながら食材と睨み合っていた。

 今日は眠気もどこかに去ってくれている。

 しかし表情は浮かないまま、これといった具材が見つからず、視線を忙しなく泳がせてしまう。

 まぁ、海苔は巻き方を変えればいいし、あとは、これかな……。

 とりあえずやってみよう。うん。

 冷蔵庫を閉じ、今日の具材が決まると、力強く頷いた。

 さぁ、始めよう。

 ご飯はすでに炊きあがっている。あとは昨日と違い、ちょっと手を加えよう。

 まずはボールに炊きたてのご飯を入れる。

 ほわほわと温かい湯気が冷えた頬に触れ、緩んだ。

 そこに入れるのは鮭の身にしよう。

 ビンに入った鮭フレーク。きっと、初めからおにぎりの具として買っていたのだろう。使わせてもらう。

 鮭フレークをご飯の入ったボールに入れ、それを混ぜていく。

 白いご飯にサーモンピンクがまんべんに混ざりだす。真っ白な画用紙に太陽の光が広がるみたいに。

 そこで不意に手が止まる。

「何か寂しいか……」

 ふと、キッチンを見渡し、手前の引き出しを開けた。そこには調味料の類が入っている。

 そこから白ゴマを取り出すと、少量をボールに混ぜ込んだ。

「ーーよし。これで一つは終わり、と」

 混ぜ終えたボールを脇に置き、まな板を用意する。

 あとは冷蔵庫から取り出していた高菜の漬け物を置き、それを細かく切っていく。

 おそらく、これは晩ご飯のつけ合わせに買っていたのだろう。少し拝借させてもらう。

 切り終えると、新たに用意したボールに先ほどと同じ量のご飯を入れ、そこに切った高菜を入れる。

「さすがにこれに白ゴマはダメだな。こいつには……」

 手を止め、再び引き出しを開けた。今度は…… 一味唐辛子と。

 ボールに一味唐辛子振り入れる。今回は控えめに。

 すべてを入れ終えるとかき混ぜていく。

 これで二種類のご飯の完成と。

 それをあとは握るだけ。

 ラップを手の平に広げたとき、ふと時計を眺めた。

 午前七時三分。そろそろみんなが起きてくるころだろう。何か茶化されるのも面倒だ。早く作っておこう。

 ラップの上に混ぜたご飯を乗せ、握っていく。今日はしっかりと三角形になるように気をつけて。

「……あんた、やけに早いじゃん」

 今日は綺麗に三角形になる。顔の辺りまで手を上げて、小さな緑の生い茂った山をマジマジと眺めてしまう。にやけていると、奥から突如声をかけられた。姉である。

「あ、おはよ」

 声をかけられ振り返ると、咄嗟的に応えた。すると、首を傾げてしまう。

 出勤の支度の終えた姉が物珍しそうに僕を見て目を丸くしていた。

「なんだよ、変な目で見て」

 舐めるようにいかがわしい眼差しの姉に、僕は訝しげに睨み返した。

「いやぁ、まさかと思って。そんな恰好でしているとは思わなかったから」

 僕の容姿を見て驚いているようである。

「仕方ないだろ。時間がかかって、忙しなくなるのが嫌だから、先に着替えてんの」

 制服姿にエプロンな僕を見て、茶化しているようなので吐き捨て、作業に戻った。

 三角形のおにぎりに、最後は焼き海苔を巻くだけ。昨日ははみ出た具を隠すためにベタベタと巻いていたけど、今日は変えよう。

 今回の具ははみ出しなんて気にすることはない。だから淵に沿って巻き、三角の面が見えるようにする。

「へぇ~。意外とちゃんとやってるのね」

「どうせ、バカにしてんだろ」

「な~に? 感心してんじゃん。褒めてんのよ」

 完成したおにぎりを、どこか尊敬の目で見てくるのを、ぞんざいに払い除ける。

 それよりも、今日はこれを弁当箱に入れてみよう。

 ちゃんと容器に入れれば、一段と見映えもよくなるだろうから。

 キッチンの上部にある棚から、適当なサイズの弁当箱を取り出した。おにぎりの大きさから考えると、普段使っていたものより小さくなるが、それもいいだろう。

 黒色の楕円形の弁当箱を見つけ、取り出している間も、姉はおにぎりをまだ眺めていた。

「そういえば、姉ちゃんどうしてんのさ、結局」

 あれだけ母親に直談判していたのを思い出し、ふと聞いてみた。

「まぁ、コンビニと近くの食堂のループかな。ほんと、キツいんだから、もう」

「なるほどーーって、食うなよ」

 並べられたおにぎりを狙い、今にも手を出しそうな雰囲気を醸し出す姉を牽制する。

「食べないわよ。そこまで酷くないって」

 手の平を見せて否定する姉。不敵に唇をつり上げる姿に僕は警戒心を高め、鋭く睨んだ。

「食うなよ」

 ここは釘を刺しておく。

 もう少しで両親も起きてくるだろう。どうやら両親がいなければ、おにぎりが奪われそうな心配が生まれてしまった。

 せっかくできたおにぎり。奪われたくはないさ。

 牽制して当然だ。

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