二食目 ーー 作る? 作るべきなのか? ーー (3)
クラスで誰が自分の弁当を作っているって、言うんだ?
3
信じられない。
嘘だろ? 今日のおにぎりだけでも結構疲れたんだぞ。
声に出せないまま、つい驚きからボトルをギュッと握ってしまう。
「試しに聞いてみるか? なぁ、福原?」
戸惑う僕を尻目に、藤田は隣の席で弁当を食べていた女子生徒に声をかけた。
何? とこちらに振り向いたのは福原美里。
黒髪が耳の辺りまでボーイッシュな子で、目がクリッとした子である。
話の流れから、つい弁当に目が行ってしまう。
ご飯とおかずが別々の二段になっている赤い弁当箱。中身が少し見えたが、玉子焼きやプチトマトといった、昨日ネットで見た弁当とよく似ている美味しそうな中身であった。
まさに女の子らしい弁当だ。
また、藤田と同じように前の席の椅子を借りて福原と一緒に弁当を食べている大野杏もキョトンとしていた。
彼女は福原とは対照的で、おっとりとした子であり、どこか幼く頬が丸い子供っぽい雰囲気の子であった。
大野の手には、コロネのパン。机上にはメロンパンとカフェオレがあった。
「何、どうしたの?」
「なぁ、お前らってさ、自分の弁当って自分で作ったりとかするの?」
「何それ、急に」
それはそうだろ。突然、そんなことを言われても困るだろ。
唐突すぎる問いをする藤田。メガネの奥の目が笑っているからこそ、真剣さが伝わらず、当然ながら福原と大野は戸惑い、首を傾げた。
「いや、こいつと自分の弁当なんて作る奴いないだろ、って話になってさ、俺の姉ちゃんは作るって言ったら驚いてさ。そういう奴もいるだろってなって。福原とかはどうかなって」
藤田は僕を指差して伝えた。なんか利用されているようで睨み返すが、まったく相手にされなかった。
「作んないだろ、普通」
呆れて聞いてみる。何か余計なことまで言われそうなので。
「あぁ~。私は無理かな。やっぱりお母さんに頼っちゃう」
大野は恥ずかしそうに笑いながら、顔の前で小さく手を振った。
うん、うん。だよな。絶対そうだと僕も思う。
「私は作ってるよ」
勝ち誇った思いで、ツナマヨのおにぎりを頬張ったとき、予想外の返事に動きが止まってしまう。
おにぎりを口に入れたまま「ほんとに?」と目で訴えると、福原が「うん」と目を細めた。
「じゃぁ、それも?」
「そだよ」
藤田が福原の弁当を指差すと、少しして頷いた。
そこでようやく僕は一口呑み込んだ。
「それって、すごくない?」
驚嘆の声がもれてしまう。
「美里は特別だよ。ほんとすごすぎなの」
同調するように感心する大野に、僕も「うん、うん」と頷いた。
「そんなことないよ。ただ作るのが好きなだけなんだし」
今朝の一日のことだけでも、謙遜している福原が輝いて見えてしまった。
「すげえな、それ。でも、大変じゃないの。なんで作ってんの。親に頼めばいいじゃん」
もっともな意見を藤田が言うと、福原は苦笑した。
「そういえば、何がキッカケだったの? 美里って結構前からお弁当自分で作ってるって言ってたよね」
福原に注目が集まるなか、大野が素朴な疑問を聞いた。
確かに気にはなる。なんで毎日作るようになったのかが。
平静を装いながらも、つい耳を立ててしまう。
「う~ん。中学のときかな。一度、お母さんが熱出してお弁当作れない日があったんだ。ウチね、両親と私と弟の四人でさ、お母さんが倒れると、結果的に私しか家事する人がいないんだ。まぁ、典型的なやつだけど」
そこでちょっと目を逸らし、
「それで簡単な晩御飯を作って。その流れでお弁当も作ってみようと思ったのがキッカケかな」
「やっぱ、すごいわ。普通そうなったらコンビニとかで済ますだろ」
自然な声がもれてしまう。三人の感心した頷きによって、少し静まってしまう。
「あ、そんな重く取らないでよ。そんな複雑な家庭じゃないから」
話からして誤解を生んでしまったと感じた福原は、懸命に笑いながら手を振って否定した。
「お母さんもただの風邪だったから、なんの問題もないんだし」
「んでね、意外と楽しかったんだ、作るのが。元々、私も料理が好きだったしね。それからたまに自分で作るようになって、高校に入ってからはできるだけ作るようになったの」
なんだろう、福原の表情がより明るくなっていた。嘘を言っていない。無理をしておらず、本気で楽しんでいるみたいだ。
「大変じゃないの?」
「ううん、全然。楽しいよ私は。お母さんに「助かる」とは何度か言われたことはあるけどね」
プチトマトをはしで掴み、口に運んだ。なんだこの完璧な対応は。
完敗としか言えない。
「えぇ、マジで? 俺、そんなの一度も言われたことねぇよ」
福原の話に、藤田が信じられないと頬を歪めた。
「だったら、藤田くんも一度、自分で作ってみたら? 褒められるかもよ。実際、おかずを考えるのが大変って聞いたことあるし」
茶化すように提案する大野に藤田はかぶりを振り、
「そんなの絶対に嫌だね。ってか、お前も作らねぇんだろ」
「まぁね。私も無理」
そこから藤田と大野の「やれ」「やらない」の押し問答が続くと、次第にそれは笑い声に変わっていた。
そこに僕も「作れ」加わって藤田を茶化し、必死になる姿を楽しんだ。
止まらない攻撃にふてくされる藤田の顔を楽しんでいると、ふと頭の隅でちょっと違うことがよぎった。
弁当を作ることは大変なのか?
それとも楽しいことなのか、と。
……いた。
マジなのか?
やっぱり、目の前で言われると、どこか信じられない。




