二食目 ーー 作る? 作るべきなのか? ーー (2)
自分でおにぎりを作ったことは、当然ながら黙っていることにする。
それは絶対に。
2
やはり朝が早くなると、眠気は居座っているようで、午前中は何度かアクビを我慢していた。
それは昼休みになっても静まってはくれず、米神を指で押さえたり、瞬きでごまかしていた。
「どうした? やけに眠そうだな」
いつものように前の席来た藤田に茶化され、「ふんっ」とごまかしてやった。
言うわけにはいかない。朝に“おにぎり”を作るために早く起きたなんて。
最大の理由として、恥ずかしいからである。
そう。自分で作ったことは黙っておくべきである。
お茶は校売で買っていた。しかし、ちょっと緊張してしまう。今朝作ったおにぎりを机上に出すのは。
本当はそのままカバンに入れようとしたのだが、一応普段、弁当箱を入れている紺色の巾着袋に入れておいた。
「あれ、今日も弁当なしか?」
「うん、まぁね」
「なんだ、コンビニじゃないのか」
巾着袋を開くと、二つのおにぎりが現れる。加減がわからなかったので、コンビニのおにぎりよりも一回り大きくなっていた。
冷蔵庫で具を探していると、最初ということもあり、基本的な梅とツナマヨにしていた。うん。ツナマヨはどうしても外したくなかった。
形としては三角形にできるだけ寄せていた。このときにちゃんとご飯で具を隠そうとしていたので、意外にも大きくなってしまったのである。
それでも上手く具を隠すことができなかったので、そこを焼き海苔で隠すようにした。
ツナマヨに至っては、欲張りすぎたらしく、海苔の部分が多くなっていた。
改めて見ると、より無骨な巻きになっていた。
まぁ、いわゆる銀シャリとは違うので、見た目では寂しくないだろう。
まずはお茶で喉を……。
「ーーん? どうした?」
ボトルのキャップを開こうとしていると、前にいた藤田がメガネの奥から、不思議そうにおにぎりを眺めていた。
「いやぁ、なんかいつもと違うなって思って。ほら、おかずがないし」
鋭いな。
まぁ、食べれば大丈夫だろ。マジマジと眺めながら弁当を食べ始める藤田を受け流しておいた。
うん。僕も食べよう。
「あぁ、そうだ。なんか寂しいんだ」
「なんだよ、それ」
「まぁ、ハッキリ言うと、なんか親が作ったやつに見えないんだな」
赤いウインナーを食べながら指摘する藤田。その顔は何か獲物を見つけた獣みたいに輝いている。
まったく、なんでそんなに鋭いーー
いや、待て。そうじゃない。
藤田は触れれほしくない傷に塩を塗り込むように、不敵な笑みで見ているんだと気づいた。
多分、僕が作っている、という疑いじゃない。また違う視線で見ている。
何も言わずにマジマジと眺めながら、お米を食べている。疑いは確信になったのか?
話を逸らさなければ、作ったことがバレる以上に恥ずかしい思いに襲われそうである。慌ててお茶を飲み、気持ちを整えた。
まだ藤田の様子も変わらない。
「んなわけないだろ。大体、だったら誰が作るってんだよ」
「そりゃ、やっぱーー」
「ーーバカらしい……」
当たりだ。一瞬、藤田の口角が不敵なつり上がるのを見逃さなかった。だからこそ、すぐに遮断してやる。
「大体、弁当なんて朝早くに起きたりしなきゃいけないんだろ。そんな面倒なことする奴なんか、いないだろ」
今日のちょっとした経験も絡んでいるのかもしれないが、本心から言ってしまっていた。言ってしまっていた。
「いや、そうでもないかもよ」
確信を持っていたのに、それは即答する藤田に打ち砕かれる。
「だって、俺の姉ちゃん、たまに作ってるし」
えっ、えっ、と声が出る間もなく、藤田は淡々と言い、おかずに箸を進めた。
「ーーそうなの?」
目を点にしてキョトンとする僕に、藤田は箸をくわえたまま「うん」と迷わず頷く。
「だから、この学校の女子でも、意外といるんじゃないの。自分で作ってる子とか」
自分で弁当を作っている人がいる?
あり得ないはずだ、そんなの。




