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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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11/41

 二食目  ーー  作る? 作るべきなのか?  ーー (2)

 自分でおにぎりを作ったことは、当然ながら黙っていることにする。

 それは絶対に。

            2



 やはり朝が早くなると、眠気は居座っているようで、午前中は何度かアクビを我慢していた。

 それは昼休みになっても静まってはくれず、米神を指で押さえたり、瞬きでごまかしていた。

「どうした? やけに眠そうだな」

 いつものように前の席来た藤田に茶化され、「ふんっ」とごまかしてやった。

 言うわけにはいかない。朝に“おにぎり”を作るために早く起きたなんて。

 最大の理由として、恥ずかしいからである。

 そう。自分で作ったことは黙っておくべきである。

 お茶は校売で買っていた。しかし、ちょっと緊張してしまう。今朝作ったおにぎりを机上に出すのは。

 本当はそのままカバンに入れようとしたのだが、一応普段、弁当箱を入れている紺色の巾着袋に入れておいた。

「あれ、今日も弁当なしか?」

「うん、まぁね」

「なんだ、コンビニじゃないのか」

 巾着袋を開くと、二つのおにぎりが現れる。加減がわからなかったので、コンビニのおにぎりよりも一回り大きくなっていた。

 冷蔵庫で具を探していると、最初ということもあり、基本的な梅とツナマヨにしていた。うん。ツナマヨはどうしても外したくなかった。

 形としては三角形にできるだけ寄せていた。このときにちゃんとご飯で具を隠そうとしていたので、意外にも大きくなってしまったのである。

 それでも上手く具を隠すことができなかったので、そこを焼き海苔で隠すようにした。

 ツナマヨに至っては、欲張りすぎたらしく、海苔の部分が多くなっていた。

 改めて見ると、より無骨な巻きになっていた。

 まぁ、いわゆる銀シャリとは違うので、見た目では寂しくないだろう。

 まずはお茶で喉を……。

「ーーん? どうした?」

 ボトルのキャップを開こうとしていると、前にいた藤田がメガネの奥から、不思議そうにおにぎりを眺めていた。

「いやぁ、なんかいつもと違うなって思って。ほら、おかずがないし」

 鋭いな。

 まぁ、食べれば大丈夫だろ。マジマジと眺めながら弁当を食べ始める藤田を受け流しておいた。

 うん。僕も食べよう。

「あぁ、そうだ。なんか寂しいんだ」

「なんだよ、それ」

「まぁ、ハッキリ言うと、なんか親が作ったやつに見えないんだな」

 赤いウインナーを食べながら指摘する藤田。その顔は何か獲物を見つけた獣みたいに輝いている。

 まったく、なんでそんなに鋭いーー

 いや、待て。そうじゃない。

 藤田は触れれほしくない傷に塩を塗り込むように、不敵な笑みで見ているんだと気づいた。

 多分、僕が作っている、という疑いじゃない。また違う視線で見ている。

 何も言わずにマジマジと眺めながら、お米を食べている。疑いは確信になったのか?

 話を逸らさなければ、作ったことがバレる以上に恥ずかしい思いに襲われそうである。慌ててお茶を飲み、気持ちを整えた。

 まだ藤田の様子も変わらない。

「んなわけないだろ。大体、だったら誰が作るってんだよ」

「そりゃ、やっぱーー」

「ーーバカらしい……」

 当たりだ。一瞬、藤田の口角が不敵なつり上がるのを見逃さなかった。だからこそ、すぐに遮断してやる。

「大体、弁当なんて朝早くに起きたりしなきゃいけないんだろ。そんな面倒なことする奴なんか、いないだろ」

 今日のちょっとした経験も絡んでいるのかもしれないが、本心から言ってしまっていた。言ってしまっていた。

「いや、そうでもないかもよ」

 確信を持っていたのに、それは即答する藤田に打ち砕かれる。

「だって、俺の姉ちゃん、たまに作ってるし」

 えっ、えっ、と声が出る間もなく、藤田は淡々と言い、おかずに箸を進めた。

「ーーそうなの?」

 目を点にしてキョトンとする僕に、藤田は箸をくわえたまま「うん」と迷わず頷く。

「だから、この学校の女子でも、意外といるんじゃないの。自分で作ってる子とか」

 自分で弁当を作っている人がいる? 

 あり得ないはずだ、そんなの。

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