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おにぎり日和   作者: ひろゆき
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 ーー いただきます ーー

 お弁当ーー

 昼に食べるそれは、人それぞれの形があると思います。

 何気ないお昼のこと。

 その毎日の時間の流れの物語となります。

 よろしくお願いします。

 

      ーー いただきます ーー



 炊飯器から湯気が噴き出ると、ピーッと声を上げた。

 眩い音が眠気を妨げ、僕の意識を鮮明にしてくれる。

 キッチンに立ち、一度腕を上に伸ばして背伸びをした。

 ふと窓の外を眺めると、朝日がカーテンの隙間から射し込んでいる。

 今日も、よく晴れそうである。

 さて、ご飯は炊けたし、蒸らしている間に……。

 あくびを堪えながら冷蔵庫を開ける。

「さて…… 今日は……」

 顎を擦りながら、目的の物を探す。さて、標的は。

 冷気が睡魔を撃退してくれて視界が晴れ、自然と口角が上がってくれる。

「こいつにこれ、あとは…… これだな」

 キッチンのカウンターの上に品物を並べ、よし、と頷くと扉を閉めた。

 卵にウインナー、そして玉ねぎが一つ。今日の食材はこれぐらいでいけるだろう。

 よし。

 まな板と包丁を出すと、気持ちを入れ直した。

 昨日買った玉ねぎは意外にも大きいので、四分の一で充分であろう。

 まずは玉ねぎをみじん切りにして。

「ウインナーもそれぐらいでいいだろうな」

 続けてウインナーも同じぐらいの大きさに刻んでおく。

 さてと、じゃぁ始めるか。

 まずはフライパンを熱して、そこに玉ねぎを放り込む。しばらく炒めて色が変わってきたところでウインナーも入れて、と。あとは塩コショウを。

 ウインナーにも火が通り、香ばしい香りが鼻を刺激すると、ふと手を止めた。

 不意に顔を上げて、壁にかけられたお玉を眺め、つい瞬きをしてしまう。

「うん。そうだな」

 唐突に思い立つと火を止め、体を反転させて棚から小皿を取り出し、炒めていたものを半分移しておいた。

 冷蔵庫から出しておいたケチャップを手に取る。

 確か、先に入れておく方がいいって、テレビで言っていたよな。

 小さく頷き、再び火を点しフライパンにケチャップを入れてかき混ぜる。

 具とケチャップが馴染んでくると、そこでフライパンを火から放し、

 ご飯、ご飯と。

 炊き立ての炊飯器の蓋を開いた。温かい湯気が僕の顔を包み、頬が緩む。

 慌てずまずはご飯をしゃもじでほぐす。さらに湯気が立ち、食欲が増してしまう。

 本来なら、このままで食べるのが一番かもしれないけど……。

 白く輝くお米に多少の罪悪感を背負いつつ、ご飯をすくいフライパンへと移した。

 すかさずご飯を混ぜていくと、まんべんなくお米にケチャップがコーティングされていく。よし。

「ま、鶏肉を入れてもよかったけど、これでいいよな」

 少し残っていた迷いを言い聞かせて納得させると、そのケチャップライスをまた小皿に移し、先ほど避けていた具材をフライパンに戻した。

「今度は……」

 また冷蔵庫の前に移り、カレー粉を取り出した。

「一種類ってのも寂しいからな」

 カレー粉のラベルを眺めながら戻ると、フライパンに先ほどと同じ量のご飯を入れ、具材と混ぜていく。

 まんべんなく混ざったところで、カレー粉を投入。またかき混ぜる。

 うん。やはり、カレーの方が香りは立つな。

 なんだろう、カレーの匂いに気分が上がってしまう。

 皿に移しながらそんな疑問とぶつかってしまった。まぁ、美味しそうなのでいいけど。

「これで半分、と」

 まだ戦いは終わっていない。今度は卵だ。

 休む間もなく、卵をボールに割り入れた。

 子供のころ、テレビ番組でコックが片手で卵を割っているのがかっこよく見え、懸命に練習をしていた。

卵を片手で割れるのは、数少ない僕の特技である。

 卵は甘い方が好きなので、砂糖も加えた。おっと、ここでフライパンに火を入れておこう。

 玉子焼きなら油でいいけど、今日はバターにしよう。

 バターが熱で溶けていくのを横目で確認しつつ、素早く卵をかき混ぜた。

 溶けたバターをフライパンに広げると、卵を流し入れた。

 取っ手を握り、卵を広げていく。焦げないように火加減に気をつけて。

「……よしっ」

 作るのは薄焼き卵なので、さほど時間はかからない。

 焼けた卵を破けないように慎重にすくい、まな板の上に移した。



「あんた、ほんと早いわね」

 予定していた枚数の薄焼き卵ができたところで、間の抜けた声が背中にかけられた。

「仕方ないだろ」

 ぞんざいに返事をして振り返ると、だらしなく大きく口を開け、あくびをしている姉、谷口恵那がいた。

 普段起きてくる時間より早く、ボサボサの髪を撫で、目をしょぼしょぼとさせていた。

「いい匂いがすると思ったら、今日はカレーなの? んで、こっちはオムライス?」

「カレー風味。カレーそのものを持っていけるわけないだろ。って、食うなよ」

 先ほどのご飯を見つけると、物欲しそうに匂いを嗅ぐ姉を牽制し、お皿を取り上げた。

 警戒する僕をケタケタと笑い、姉はシンクからコップを取り、冷蔵庫から牛乳を取り出して入れた。

「しかし、あんたもよくやるわね。朝早く起きて、制服を着てお弁当作る男の子なんて、珍しいと思うよ」

 冷蔵庫に凭れ、牛乳を飲みながら喋る姉。それは褒められているというより、茶化しているとしか取れなかった。

 ただ、姉の指摘に反論できない。

 実際、今僕は高校の制服を着た上からエプロンをして、キッチンに立っていたのだから。

 半ば姉を無視して作業に戻った。

 ラップを手の平に広げ、そこに先ほどのケチャップライスを乗せると、ギュッと握った。

 形は今日は三角でいいよな。

 一つが三角形の“おにぎり”の形になる。

 続けてカレー味のものも同じように握る。

 そして、もう冷めた薄焼き卵。

 この一枚に今のご飯を乗せ……。

「ふ~ん。卵を海苔代わりにしたんだ。ほんと、凝ってるわね。朝からご苦労さま」

 丁寧に卵を巻いていくのを眺めて感心する姉。それも無視、無視である。

 よし、卵も焦げなかったから、見映えも悪くない。まぁ、本当はラップを取りたいけど、海苔みたいにご飯につかないので、ここは妥協して置いておこう。

 あとはこれを弁当箱に詰めれば完成だ。

「しかし、飽きないわね、あんたも。毎日そうやってお弁当を作っているんだから」

「弁当ってより、“おにぎり”だよ」

「いいじゃん。やっぱ、あんた料理好きなんだね」

「ま、嫌いじゃないけどね」

 作業は終わり、残るは後片付けだけ。

 シンクにフライパンや皿を起き、水を出す。

ふと時間を眺めた。午前六時四十分を回ったところ。うん。今日も大丈夫であった。

 そう。今日も。


 朝、おにぎりを作ること。

 それが毎日の日課になっていた。

 僕、谷口貴樹が学校に持っていく弁当として。

 普通、高校生の弁当といえば、母親が作っているだろう。

 もちろん、例外だってあるのはわかっている。でも、大半はそうだと思う。

 けど、僕の家では僕が作っている。

 別に料理をすることは嫌いじゃない。

 ただ…… そのことを学校のみんなには黙っていた。

 理由はただ一つ、恥ずかしいからである。

 今回の主人公、谷口貴樹。

 彼は自分で弁当を作っている。

 そんなある日の一コマ。

 なぜ“おにぎり”にこだわるのか。

 彼にとっての何気ないおにぎり日和。

 子らからよろしくお願いします。

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