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<質量操作>

戦闘を書くの難しい……

 ()()()()()()()()()()()、ファニーナの剣は手から離れ宙を舞った。


 感じる違和感。手ごたえがなさすぎる。


「ぐっ……」


 腹に衝撃を受け、数メートル飛ばされる。


 蹴りだ。至近距離から放たれた蹴り上げが俺の胴体を直撃していた。


 彼女はわざと剣から手を離したのだろう。一瞬の間に、俺が使う魔術が固有魔術だと判断してカウンターを仕掛けたのだ。


 彼女は追撃してこなかった。地面に刺さっている剣を引き抜いて構えなおしている。


「なるほど。それがあなたの固有魔術なのね」


 そう言って彼女は不敵な笑みを浮かべる。


 今までのは小手調べといったところだろうか。彼女には余裕がある。手加減をしているわけではななくても、本気でもないのだろう。


 だが、その余裕に付け入る隙がある。彼女は<質量操作>の魔術を見て、理解した気になっている。しかし、<質量操作>の本質、応用の仕方まで果たして理解が及んでいるだろうか。そうでないならば、彼女の余裕は命取りとなる。

 

 今度は、こちらから攻める。


 <投槍>を発動する。時間差をつけて放たれた10本の金属の槍がファニーナを襲うが、彼女は身動きもしない。


 槍は彼女に到達する直前で、青白い粒子となって消えた。自然に消えたわけではない。彼女に消されたのだ。


 魔術によって魔素から作られた槍そのものに働きかけ、魔素に還元する。物質化を解除された魔素は彼女に何の影響も与えない。


 高等魔術<魔素還元>。防御系の魔術としては、最上位に位置する。


 上級生を含めて、この学校の学生のほとんどは使うことすらできないだろう。彼女は実戦レベルでそれを使える上に、高速で飛翔する槍を完全に無効化したのだ。


 彼女が大英雄ドゥルーグだという事実に、もはや疑いはなかった。


 先ほどとは打って変わって彼女は接近してこない。<質量操作>の魔術を高速発動できる俺に接近戦は危険だと判断したか?


 遠距離攻撃する魔術のほとんどは<魔素還元>に阻まれてしまう。突破できるのは、魔術の発動が間に合わないほどの高速攻撃。分解しきれないほどの大質量攻撃。あるいはそもそも魔術で生成されていない物質での攻撃。


 電撃、光で目くらまし、火炎放射。<魔素還元>では防げない魔術を試してみるも、いずれも通じない。すべて、魔術の準備段階で察知され、別の適切な防御魔術で防がれてしまう。


 悔しいが、魔術師としての総合力は、間違いなく彼女の方が上だ。


 高威力の魔術が使えない以上、遠距離戦ではらちが明かない。魔術を長い間連続使用していれば、精神が疲弊し、ろくに魔術が使えなくなる。俺と彼女どちらがそうなるのが早いかはわからないが、俺の方が早いと考えるべきだ。


 彼女は戦いなれていて隙が無い。勝ちの目があるのは、やはり近距離戦。<質量操作>の魔術で片を付けるしかない。


 彼女から放たれた金属の槍を剣ではじく。


 彼女は冷静に俺のすきを窺っている。何とかして近づきたいが、さてどうするか。


 師匠の言葉を思い出す。


 実力が上回る相手に接近し、<質量操作>による必殺の一撃を食らわせるにはどうすればいいかを聞いたとき。師匠は「それができれば苦労しない」と言っていたが、同時にこうも言っていた。「君には<質量操作>の魔術がある。相手が知らない未知の魔術。虚をつくにはうってつけだ。使い方を、教えてあげよう」


 師匠には<質量操作>は使えない。だが、師匠には知識があった。有効活用するための知識が。まだ魔術を習い始めていたばかりの当時の俺にはなかったものだ。


 ファニーナのもとへ向かって全速力で駆け抜ける。


 彼女は慌てず、ひたすら冷静に対処してくる。


 襲い来る金属の槍。それを俺は避けない。防がない。ただ愚直に前進し続ける。


 直撃するが、無傷。彼女の眉が怪訝にひそめられる。


 しかし、それでも彼女は冷静さを失わない。<投槍>が効かないと判断すると、次は巨大な鉄の球をつくり、それを発射する。速さは金属の槍に劣るが、威力は比べ物にならない。直撃すれば、<身体強化>を使っていても大けがは必至だ。


 ()()()()()()()


 腕を振るう。まるでそよ風に吹かれる綿のように、鉄球の軌道はいともたやすく変えられて、明後日の方角へ飛んで行った。


 ここにきて彼女の表情は一変した。理解できないものを見る目だ。


 やはり彼女は、俺の固有魔術の本質を理解していない。


 答えは単純だ。槍や鉄球の質量を小さくしただけ。だが、限りなく小さくしている。それこそ、感覚として巨大な綿を相手にするようなものだった。


 衝突の威力は、速さと質量で決まる。その一方である質量を極端に小さくすれば、ダメージは負わない。


 ついに剣の間合いに入る。


 そこからは彼女は防戦一方だった。


 彼女は常に<質量操作>の魔術を警戒しなければならない。それに加えて、彼女はいまだ<質量操作>の全容を把握しておらず、こちらが何をしてくるかわからないという恐怖がある。


 だが、こちらも安易に使えるわけではない。当てることができなければ、質量が増加した剣の制御を失う。相手が警戒している今は、使いどころが見出せない。


 しばらくは決定打に欠ける戦いが続いた。


 じれったいが、相手にも焦りが見える。精神的により追い込まれているのは、彼女のはず。攻めの手を休めてはいけない。


 彼女は必死の表情だった。絶対に負けられないという強い意志を感じる。彼女の気迫に飲まれそうになるが、ここで引けばやられる!


 剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。一つのミスが勝敗を分けるこの状況では、<質量操作>以外の魔術を発動する余裕も時間も無い。


 <身体強化>と、純粋な剣術による勝負。<質量操作>の札をちらつかせるこちらの方が有利なはずだが、彼女の技量と気迫はそれを覆す勢いだ。


「おおおおっ!!」


 俺も、負けない。


 <質量操作>の魔術を発動する。


 警戒した彼女は、少し強引に身をひねって俺の剣をかわした。俺は剣の制御を失うどころか、通常以上に素早く返しの攻撃を放つ。剣を軽くするのみで、彼女が避けることを見越して重くすることはしなかったのだ。


 彼女は、これも身をひねってかわした。しかし、予想外の攻撃を無理にかわしたせいで体制が完全に崩れている。


 勝機。


 そのはずなのに背筋には悪寒が走る。直感を信じ、逸る気持ちを押さえ身を引く。


 少し前まで俺の頭があったところを、彼女の足先が通り抜けていった。彼女は、体勢が崩れながらも蹴りを放っていたのだ。


 そのまま突っ込んでいたら危なかった。死角から放たれた蹴りが直撃していたら、形勢が逆転していたかもしれない。


 倒れこむ彼女に、立ち上がる時間を与えず剣を突き付ける。


 のど元に剣を当てられた彼女は、固められたように硬直した。


 俺の、勝ちだ。


 突きつけられた剣を複雑な表情で見つめていた彼女は、ふと全身の力を抜いて地面に身を預けた。彼女の戦意はなくなっている。


 試合は、俺の勝利で終わった。



 

やっぱり地の文にも魔術にルビを振った方がいいのか……? 

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