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魔物

 この世界には、魔物と呼ばれる生き物が存在する。


 魔術を使う動物。故に魔物。


 ただし人間とは違って、魔物は本能的にいくつかの魔術を使うのみである。


 そのほとんどが、人間の住処や畑を荒らしたり、人間を襲う危険生物だ。魔術を使う魔物は、一般人が対処するのは難しい。


 魔物による被害を減らすため、帝国魔物ハンター協会という団体が国の出資のもと、魔物の駆除に取り組んでいる。魔物ハンターたちは各々魔物を討伐し、討伐した分だけ報酬が与えられる。


 イーレン魔法学校生は自動的に協会員となり、魔物ハンターとして魔物を駆除することが期待される。危険も伴うが、実戦は実力を伸ばす絶好の機会でもある。特に平民の学生は、学費や生活費を稼ぐために活動することが多い。


 俺は、協会員でもある師匠の紹介から協会員となり、入学前から魔物ハンターとして活動していた。


 今日も金と修行のために、学校がある街の外の森で魔物を狩っている。今日は午前中に一つしか授業がなく、午後にこの森を訪れ、夕がたには町に戻るつもりだ。


 前方に、ゴブリンが4匹いるのが見えた。


 ゴブリンがこちらに気づく。俺の手に持っている剣を見て一瞬ひるむが、逃げられないとみてこちらに突撃してくる。

 

 ゴブリンの使う魔術は基本的には<身体強化>のみ。たまに<投槍>などの簡単な魔術を使う個体もいるが、単体では魔物の中でも最も弱い部類だ。


 こちらはすでに<身体強化>の魔術は発動している。ゴブリン4体の攻撃を受け切り、すれ違いざまに切りつける。


 二体は即死。残りの二体は重傷と軽傷。


 腕を負傷している、軽傷のゴブリンの方から片付ける。


 距離を詰め、胴体を一刀両断する。<身体強化>によって跳ね上がった膂力は、それを容易にさせた。


 最後の一体は完全に戦意を無くして逃げようとしているが、その動きは遅い。

 

 狙いをつけ、<投槍>の魔術を発動する。魔術で生成した、先をとがらせた金属の棒が発射され、ゴブリンの胴体を貫通する。ゴブリンが倒れ、槍が粒子となって空中に消えていく。


 こんなものか。


 戦闘するのは久しぶりだったが、動きは問題ない。


 ゴブリンの死体から右耳をはぎ取る。これは討伐証明部位として、報酬を得る際に代わりに差し出す必要がある。


 そのあともゴブリンの集団に出会い、狩ったゴブリンは10体分になった。そろそろ街に戻ろうかと思ったとき……遠目にオーガの姿が見えた。


 3メートルにも届こうかという背丈に、筋骨隆々とした肉体。<身体強化>と合わせて、その膂力は凄まじい。加えて、攻撃力だけではなく防御力にも優れる。分厚い筋肉の鎧は、生半可な攻撃では突破できない。今までにも、多くの魔物ハンターがオーガに返り討ちにされてきた。


 先制攻撃を仕掛ける。<投槍>魔術を発動。5本の金属の槍がオーガを襲う。


 オーガは攻撃に気づいても全く動じなかった。一歩も動かず、巨木の幹のように太い腕で顔を覆い槍を防ぐ。


 5本の槍は一つも外れることなくオーガに命中したが、すべて弾かれた。皮膚が裂かれて少し出血しているくらいで、ほとんどダメージを与えられていない。


 攻撃を放った者に気づいたオーガは、怒りの形相でこちらに突進して来る。足が地面を踏むたびに、大地が震える。


 接近してきたオーガは、手にするこん棒を力任せに上から下に振り下ろしてきた。まともに受けるのはまずいと思い、回避する。


 振り下ろした隙に、オーガの背後に回り込み、背中を切りつける。傷が浅い。まるで巨大な鉄塊を切り付けたかのような手ごたえだ。


 振り向きざまにオーガから放たれた拳を身をひねって回避。再び距離をとる。


 やはりオーガはゴブリンのようにはいかない。オーガ一匹で、ゴブリン数十匹分くらいの戦力はあるだろう。ゴブリンでは、相手にならなかったところだ。丁度いい。


 攻撃をかわされ、傷をつけられ。ついに怒り心頭になったオーガは鼓膜を震わす叫び声をあげながら突進してくる。


 迫力はあれど、直線的な突進は躱すのは容易い。すれ違いざまに至近距離で爆発を起こす。鉄片がオーガの体中に突き刺さり、オーガが苦悶のうめき声をあげる。


 オーガは本当にタフだ。まだ致命傷には至らず、戦意も衰えていない。


 ()()()()()()()()()()()()


 オーガが再び突進してくる。直線的に突進してくるばかりで能がない。


 魔術を発動する。


 ()()()()()()


 軽くなった剣を、全力で振る。こん棒と当たる瞬間、再び魔術を発動する。()()()()()()()()()()()()()


 慣性に任せた剣はこん棒を容易く両断し、オーガの巨大な体までをも一刀のもとに切り伏せた。


 剣を振って血を払い、鞘に納める。


 真っ二つになったオーガから討伐証明部位をはぎ取り、帰路についた。





 帝国魔物ハンター協会支部の建物に入り、受付で身分証、イーレン魔術学校生であることを証明する学生証を見せる。


「イーレン魔術学校の学生さんですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「魔物を狩ってきた。報酬と交換したい」


「はい、それではこちらに討伐証明部位の提出をお願いします」


若い受付嬢が広げた布の上に狩ってきた魔物の討伐証明部位を載せる。


「ゴブリンが13匹に、オーガが一頭ですか。これを、お一人で?」


「そうだ」


 オーガを狩った後、帰る途中にもゴブリン3匹と遭遇したので討伐した。


「さすがですね……。こちらが、討伐報酬になります。ご確認ください」


 金額が正確であることを確認し、財布にしまう。


 そのまま帰ろうとしたところ、受付嬢に呼び止められた。


「あの! 最近、ハンターの死亡数が不自然に多いみたいです。これから調査を行う予定ですが、気を付けてください。危険な魔物が遠くからやってきたせいかもしれません」


「ああ。気を付けておく」


 受付嬢の言葉を胸にとどめつつ、建物を後にした。


 


 

帝国魔物ハンター協会は、いわゆる冒険者ギルドみたいなものです。壊滅的なネーミングセンスをどうにかしたい(笑)

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