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襲撃⑸

日付は過ぎているけど、何とかもう1話投稿できました! ストック? 知らない言葉ですね

 ファニーナが、氷の魔術を操る男に蹴られて吹き飛ぶ。


 ファニーナと男の戦いは一方的だった。ファニーナは傷だらけだが、男は無傷だ。


 男がファニーナのもとへと歩いていく。


 二人のところへと急ぎながら、魔術の準備を進める。魔素が活性化し、周囲が青白く輝く。


 男は氷の剣を振りかぶったが、突然こちらを振り向いて後退する。


「なんだ、てめえ」


 男はこちらを警戒している。男の周囲で魔素がゆらめいている。


「ディルグ……」


 ファニーナは、茫然とした顔で俺を見ている。近くで見ると、より痛々しい姿だと感じられた。制服はところどころ破けていて、血がにじんでいる。あの男に散々痛めつけられたようだが……何とか間に合った。


「お前を、倒す」


 一言、そう宣言する。


「は、ははっ。意気がいいねえ。やってみろよ」


 左手で剣を構えて、目の前の男を見据える。


 剣を握る手に力がこもる。


 大丈夫、俺は冷静だ。感情的になってはいけない。師匠にそう教えられた。


 <投槍>を発動。


 普段に数倍する大きさの金属の槍が15本生成され、男のもとへと向かう。


 対して、男は氷の壁をつくってこれを防ぐ。


 俺は槍を放った途端、前方に駆け出していた。瞬時に相手との距離を詰める。


 氷の壁を迂回して、側面からの攻撃を仕掛ける。剣に<質量操作>の魔術を載せて、上段からの振り下ろし。


 男は氷の剣で俺の一撃を受け止める。


 質量が数百倍に膨れ上がった剣は容易く相手の受けを押し切り、体を切り裂いた。


 手ごたえがあまりない。男は剣どうしが接触する直前に、一歩後ろに下がっていた。加えて、氷の剣でわずかに軌道をそらされた。慣れない左手で剣を振ったことも大きい。


 男の顔には、驚き。そして怒りの感情がないまぜになっていた。

 

 こちらの魔術を事前に知っていたわけではない。予測できない魔術に備え、何が起きても対処できるようにしていたのだろう。


 言葉に反して、敵は慎重だ。油断は誘えないだろう。


「いってえなあ!」


 拳大の氷の(つぶて)が襲い来る。<質量操作>で質量を極小化して、無力化する。


 直撃しているのに無傷の俺を見て、怒りに傾いていた男の表情が驚きに塗りつぶされる。


「はあ? なんだそりゃあ」


 接近戦は分が悪いと見たか、男が距離をとろうとする。

 

 逃がさない。


 追いすがろうとしたが、巨大な氷の壁に阻まれる。前に進めない。


 先の特異種キメラ以上に魔力が凄まじい。男の氷の魔術は、俺の<質量操作>に勝るとも劣らないほどの発動速度だ。

 

「お前が使う謎の魔術。ほかに比べて発動速度が異常だな。俺と同類……? いやまさかな」


 男の発言が引っかかる。同類とはどういう意味だ? 男も、生まれながらにして魔術が使えるのか?


「お前は何者だ? 何が目的なんだ?」


 特異種キメラを操る人間の存在。大英雄ドゥルーグに匹敵する強さ。この未知の脅威はもはや俺個人の興味の範囲を超えて、帝国にとっての一大事だ。


「俺が何者かって? そんなこと、わざわざ教えてやるわけねえだろうが!」


 男が生成するのは、今までと比べてはるかに巨大は氷塊。氷塊から数多の欠片がはがれる。欠片といっても腕ぐらいの大きさはある。無数に分離したそれらが豪雨のように降り注ぐ。


 一つ一つには対処できない。()()に対して<質量操作>を発動させる。


 俺を覆うように展開された魔素が、領域に入った氷をことごとく無効化する。それこそ雨が当たるような衝撃しか感じない。


 数十秒にもわたる攻撃が止み、氷一色だった視界がクリアになる。


 空間を指定した<質量操作>は相応に時間がかかるが、今の敵の大魔術には予備動作があり、対応できた。


 ほとんどの物理攻撃は、俺に通じない。


 これだけの攻撃を放ってなお無傷の俺を見て、男は理解できない表情を浮かべた。


 放心状態になった一瞬の隙を見逃さず、大地をける。<質量操作>を使い、体重を軽くすることで瞬く間に距離を詰める。


 剣戟が打ち交わされる。


 相手は<質量操作>を警戒している。避けられると、剣の制御を失いこちらが自滅する。安易に使うことはできない。


 だが、純粋な剣戟ならば、俺の方が有利だ。相手には、技術がない。動きに無駄が多く、剣の振りが力任せだ。その膂力、反射神経には目を見張るものがあるものの、それだけでは問題にならない。


 慣れない左手で戦う不利はあるが、それを加味しても総合的には俺の方が上だ。


 実際、今は俺が押している。相手の力任せの剣を受け流し、返しに一撃入れる。相手の<硬化>の魔術によって防御されて、皮膚が浅く裂ける程度の傷しかつかないが、上出来だ。


 相手は苛ついている。大きな隙ができたときに、<質量操作>を使った一撃をたたきこんでやる。


「ちいっ!」


 相手が生成したのは、水だ。


 水?


 水がかけられる。動きづらく不快だが、別にどうということはない。相手の意図が理解できずにいると、水が急激に凍り始めた。


 制服が凍りつく。冷気によって体温も奪われていく。


 <冷却>だ。俺の着ている服に相手が触れもしていないのに直接魔術を及ぼすことは難しいが、魔素によって自分が生成した水を冷却することは可能だ。


 男から距離をとる。


 <加熱>で抵抗しながら、凍った水が魔素に戻るのを待つ。


 冷気にあてられた部位が、焼けるように痛い。肌が凍傷になっている。とっさに発動した<加熱>では相手の魔術には到底及ばなかった。


 相手の魔術そのものは消えたが、肌の痛みは消えない。


 今の攻撃は<質量操作>では防げない。


 男は声を上げて笑っていた。


「ははははは。どうやらこの攻撃は通るみたいだなあ」


 <質量操作>が通じない攻撃は非常にまずい。相手の魔術の発動速度に対抗できるのは<質量操作>だけだ。それ以外では対処しきれない。


 あの冷却攻撃は標的が男の魔術の干渉範囲内にいないと使えない。有効範囲はおそらく、半径5メートルほど。近接戦は望めない。

 

 であれば、遠距離で仕留めるしかない。


「逃げんなよ」


 今度はこちらが追われる番だ。相手の遠距離からの攻撃は<質量操作>で無効化できる。


 牽制として放たれる氷槍に対処しながら、後退する。


 相手をしとめるには、生半可な威力では不十分だ。<硬化>がかかった氷の壁による防御を突破して、相手に確実に致命傷を与えられる魔術。


 ()()ならば、要件を満たせるか。

 

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