襲撃⑴
短くてすみません…… 今日の夜にもう1話上げます。
イーレン魔術学校の校門の前に、一人の男が立っていた。
短く刈った茶色の髪に、肉食獣を思わせる獰猛な黒色の瞳。だが、何より特徴的なのはその背丈だろう。身長は2メートルに届こうかといったところで、その巨躯は決して貧相ではない彼の体を細長く見せていた。
「これが学校かあ」
男が歩みを進める。
男が校門をくぐると、横の小屋から男を呼び止める声が発せられた。
「えー、どちらさんで?」
応対用にくりぬかれた窓から中年の男が顔を出す。この学校の来客の出入りを管理する人物だと察せられた。
「ん~?」
背の高い男が小屋の中を覗き込む。中には中年の男のほかに二人いる。二人は武装しているが、カードに興じていた。二人はちらりと背の高い男に目を向けた後、またすぐカードに目を戻した。防備のために兵士が配置されているのだろうが、実際に脅威が来るとは思っていないのだろう。緊張感のかけらも感じられなかった。
「ははっ」
男が兵士の緊張感のなさを笑う。目の前に敵がいるのに、のんきに遊んでいるのがおかしくてたまらないといった風に。
男が突然笑い出したのを見て、中年の男は眉をひそめた。
「なんだ、あんたは。今日は客が来る予定はないよ。関係のない奴はさっさと出て行ってくれ」
「のんきだな。まあそれもしょうがねえか」
男の周囲で魔素が活性化する。兵士の二人がそれに気づき武器を手に取ろうとした時にはすでに、小屋の中の3人は氷漬けにされていた。
男は物足りなさそうな顔をしていた。
「本当はもっと時間をかけていたぶりたいところだが、そんな時間はないもんなあ。これからいくらでも殺せるから、我慢だ我慢」
固まった3人が微動だにしないのを確認し、男は悠然と歩みを再開した。大規模な魔術行使の準備を進めながら、ゆっくりと校舎に近づいていく。
ほどなくして魔術は完成し、魔素によって物質が形作られていった。
現れたのは、巨大な氷塊。それが、3つ宙に浮かんでいる。
「景気よく派手にぶちかまそうか」
家一軒ほどもあるそれらが、複数ある校舎のそれぞれに向かって放たれた。
大質量が校舎に激突する。轟音が鳴り響き、校舎が氷塊によって掘削される。氷塊が魔素になって消えると、そこには校舎にぽっかりと空いた穴が残されていた。倒壊こそは免れたものの、校舎は甚大な被害を受けている。
男は首をかしげた。
「あ? 崩れ落ちると思ったんだが、威力の調整をミスったか。それとも思ったより校舎が頑丈なのか?」
男は少しの間考え込んでいたが、どうでもいいという風に頭を振って、こうつぶやいた。
「まあいい。即死じゃつまらねえからな? たっぷり恐怖を感じて、絶望のうちに死んでいけ」
再びの魔術行使。前のには劣るものの、それでも十分巨大な氷の槍が生成される。
一方、激突音を合図として近くで潜伏していた3体の特異種が動き出し、学校に向かって進撃を開始した。
2020/10/11 キメラの数を2体から3体に修正しました。