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前兆

今回は実験のため投稿時間を朝に変えてみました! …………はい、すみません書くのが間に合わなかっただけです……。 

「何だあ、これは?」


特異種(キメラ)の死体かと」


「んなこたあ、わかってるよ。俺が聞いてんのは、なんで死んでんのかってことだろうが、グズ」


 ファニーナ、ディルグと特異種(キメラ)が戦った跡地に「人」が二人いた。高圧的に話す「人」は背が高く、身長は2メートルに届こうかというところだった。もう片方は、背の高い男よりも頭一つ分以上背丈が低く、顔はフードに隠れていて性別は確認できない。


「この街にこいつに勝てる奴なんていたか? 俺はお前からそんな話聞いてねえぞ」


「……すみません。私が把握できていませんでした」


「はあ?」


「ッッ……!」


 背の高い男がもう片方の頬を殴る。フードを被った「人」はよろめき、片膝をついた。


「本当にお前は使えないなあ。情報収集すらろくにできねえのか」


「……すみません」


「あー、あー、聞き飽きたよその言葉。謝ることしか能がねえのか? チッ、念のためあいつに連絡しとくか。今の戦力じゃあ、万が一があるかもしれないからなあ」


 男はだいぶ苛立っていた。頬を押さえ、片膝をつく「人」に目を向け、無造作に蹴る。


 フードを被った「人」は腹を抱え、うずくまった。苦しそうに呻いている。


 対照的に男はすっきりとした様子だった。


「ふー。……さて、特異種(キメラ)のことが向こうにばれたってんなら、うかうかしていられねえな。大英雄ドゥルーグの化け物どもとやりあうのは勘弁だ。あいつが到着したら、すぐに攻めるぞ。お前はそれまで、学校でママゴトでもやっておけや」


「……了解しました」


「そんじゃあさっさと消えろ、目障りだ。それともまた殴られてえのか?」


「……」


 逃げるようにしてフードの「人」はその場から離れていった。残ったのは背の高い男ただ一人のみ。


 男は笑う。


「ようやく、か。ようやく大手を振って人をぶち殺せるってわけだ。()()()が楽しみだな」


 男は一人、そうつぶやいた。







 ……眠い。


 俺は今、何とか眠気をこらえながら授業を受けている。


 頬杖をついて頭を支えているが、時折意識が薄れて首がカクカクと動く。倒れそうになって、意識が戻る。その繰り返し。


 これは眠気との戦いだ。


 一瞬でも気を抜いた瞬間に意識が持ってかれる。


 起きているところで結局授業は全く耳に入っていないが、そういう問題ではない。完全に眠ってしまうことだけは何としてでも避けたい。


 授業は終わるまで、この責め苦は続く。


 気を紛らわすためにファニーナの方を見ると、彼女はしっかりと授業を受けていた。


 なぜだ。


 森の探索と特異種(キメラ)との戦いで疲れたのは同じなのに。むしろ高等魔術を使った彼女の方が疲弊していてもおかしくないのに。


 いや、彼女も疲れてはいるようだ。眠たそうにあくびをしている。


 しかし、この差は解せない。俺は授業を聞いている余裕などない、と、いう、のに…………。


 はっ。また眠ろうとしていた。


 眠気との戦いが続く。


 永遠とも思える時間が過ぎたころ、やっと授業が終わり、教師が講義室を出ていった。


 終わったあー。


 大きく伸びをする。薄れていた意識が、はっきりとしてきた。授業が終わると、なぜか眠たくなくなる。教師の言葉は子守唄か?


「ディルグ。君は何でそんなに眠たそうにしているんだい」


 ヴィクターから呆れたように声を掛けられる。


「まあ、いろいろあってね……」


 力なく返す。


「昨日の休日に外出していたことと関係あるんだろ?」


「そんな感じだな……」


 森での出来事は、他人には話せない。


「……何があったかは聞かないけど、無理はしない方がいいよ?」


 ヴィクターが心配そうにこちらを見つめる。


「肝に銘じておくよ」


「ほんとかい? 僕は先に次の授業が行われる講義室にいくからね。遅れるなよ」


 ヴィクターが席を立ち、講義室を出ていく。


「ディルグ。何情けない顔してんの」


 叱咤する声が耳に入る。声の主はファニーナ。いやお前が言うなよ……。


「しょうがないだろ。昨日あんなことがあったんだから」


「一晩ぐっすり寝る機会があったじゃない」


「一晩ぐらいで回復するかよ。なんでファニーナはそんなに元気なんだ」


「私? 別にこれが普通じゃない?」


「ええ……。昨日、あんな威力の焔の魔術を使っておいて?」


「<獄炎渦流(ジャオレイ・ザル)>のこと? まあ、得意な魔術だからね」


 その魔術は知っている。実際に見たのは昨日が初めてだが。


 数千度の焔を放つ高等魔術。直撃すれば、特異種(キメラ)であってもひとたまりもない。


 上級魔術師でも使いこなせるのは一握りだろう。


「得意、ねえ。<獄炎渦流(ジャオレイ・ザル)>の前に使っていた、風を押し返した魔術はなんていうんだ?」


 それを聞くと、彼女は得意げな顔をしてこう言った。


「あれはねえ、<反射(リフレイト)>よ」 


「だろうな」


 <反射>は、魔術師に向かってくる飛翔体に、運動する向きと逆向きの撃力を加えて跳ね返す魔術だ。

本来は<投槍>などに対するカウンターとして使われるが、<鉄壁>などと比べて使い勝手が悪く、知名度は低い。


 彼女は空気分子に対して<反射>を適応し、暴風を跳ね返したのだろう。膨大な空気分子一つ一つに魔術を使用したわけではないだろうが、それでもかなり集中力を必要としただろう。


 その<反射>の直後の<獄炎渦流>だ。俺には同じことはできない。


「あれ? 驚かないの?」


 ファニーナは、自身が何の魔術を使ったかわかっていないだろうと思っていたようだ。調子が外れた変な声を出している。


「ちょっと考えればわかるさ」


「なんだ。つまんないの。もうそろそろ移動しましょ。次の授業が始まるわ」


「ああ、今行くよ」


 重い腰を上げ、席を立った。



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