表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/29

特異種

今日初めて評価をいただきました! 何回も確認するくらい作者はご満悦のようです。

「そっちに2匹行ったわ!」


 手斧を携えたゴブリンが2匹やってくる。ファニーナは3匹仕留めているが、うち漏らしがあったようだ。


「ああ!」


 剣を振る。<質量操作>を使うまでもない。ゴブリンの体が両断され、上半身が宙を舞う。


 続けざまに、もう一匹のゴブリンの首をはねる。


 今、俺とファニーナは街のはずれの森にいる。森の異変を調査するためだが、数時間たってもいまだ何の成果も得られていない。朝から調査をはじめて、太陽は今ちょうど真上にある。


「大丈夫? けがはない?」


 近づいてきたファニーナに声を掛けられる。言葉とは裏腹に、心配しているような口ぶりではない。


「あるわけないだろ」


「まあそうよね。……ねえ、ちょっと変じゃない? 魔物が全然いないわ」


 数時間探索して、見つかったのはゴブリン5匹の集団のみ。魔物以外の動物もほとんどいない。あり得ないというほどではないが、どうにも怪しい。


「もしかして、ドラゴンがいるのかも」


 ドラゴンは魔物の中でもとりわけ強い。ドラゴンが近くにいるとなれば、他の動物や魔物は逃げるだろう。


「巨大なドラゴンが近くにいたら、さすがにわかると思うけどな。それとも今は寝てるのか?」


 成体となったドラゴンは、全長10メートルを超えることも珍しくない。それだけ大きければ、行動は遠目からでもわかってしまう。


「可能性は低いけど、調査隊が全滅となると、ドラゴンくらいしか考えられないわよね……」


 ドラゴンは知能が高く、人里に近づくことはほとんどない。そもそもの絶対数も少ない。


「大規模な犯罪者組織かもしれないぞ」


「確かにそれもあるけど……いずれにしろ、そう簡単に隠れられないわ。探せば、見つかるはず」


「見つかるのか?」


 成果が得られなくても、夕方には帰ることになる。この森全体を見回るには一日では足りないが、はたしてドラゴンは見つかるのか。そもそも異変の元凶は本当にドラゴンなのか。


「さあね。休憩はここらにして、探索を再開しましょうか」


 ファニーナの後を追う。


 黙々と歩き続けて、さらに一時間ほど経過したとき。ファニーナが口を開いた。


特異種(キメラ)という可能性はないかしら? 聞いたことがあるの。西の国境を越えて、特異種(キメラ)が帝国の内部まで入ってきたことがあるって」


 帝国の西には人間が住んでいない。帝国の西部が海に面しているわけではない。西の国境付近では、特異種(キメラ)と呼ばれる生物が出没するのだ。一応は魔物というカテゴリに区分けされるが、他の魔物とは全く異なる生き物だと言っていい。


 特異種(キメラ)は恐ろしいほどに強い。実際に見たことはないが、ドラゴンよりも強いそうだ。帝国軍が存在する理由の半分くらいは特異種(キメラ)に対処するため、とも言われる。


 彼女の話は、俺も聞いたことがある。帝国民ならほとんどが知っているだろう。それほどまでに、特異種(キメラ)は危険視されている。


「ないわけじゃないが、考えたくないな。それに特異種(キメラ)だって図体はでかいだろ。キメラの存在を仮定しても状況は変わらない」


 特異種(キメラ)は大きさにばらつきがあるが、小さくても5メートルほどはある。活動していれば、必ず目立っている。


 そこからさらにしばらく歩くと、遠目に動くものを発見した。


「ファニーナ。あっちに何かがいた。大きさは人くらいだったからドラゴンやキメラじゃないだろうが、魔物か、ただの動物か、それとも人間か。まだ分からない」

 

 動くものが見えた方を指差しながら、ファニーナに小声で話しかける。


 ファニーナは無言でうなずき、音を殺しながら見えた方角へ向かう。俺もそれに倣って静かにファニーナの後を追う。


 距離が数十メートルほどとなったころ、動くものの全貌が見えた。


 思考に空白が生まれる。


 なんだ、これは?


 見たことがない。


 全体的なフォルムは人間に似ている。大きさも同じくらいだ。ただ、生物にしては()()()()


 左と右で腕の長さが違う。目の大きさが違う。あらゆる部位が左右非対称だ。


 なんというか、生物として不自然だ。動物とも、ゴブリンやドラゴンなどの魔物とも違う。


 理解する。


 つまり、目の前のこの生物は――


 こちらに気づいた。ぐるりと振り向き、異様に長い左腕を上げて手をかざす。


 魔術の兆候。悪寒が走る。


 半ば無意識的に防御魔術を発動。金属の壁がせりあがり、俺を守る盾となる。


 暴風が、吹き抜ける。


 化け物の掌を起点として放たれた風は、木々をなぎ倒し、生成した壁を揺さぶる。


 風がやむ。何とか耐えきった。


 ファニーナの方を見ると、俺と同じ選択をしていたようだ。壁を作り、防御することに成功している。


 改めて化け物を見る。


 「ファニーナ、あれは」


 「ええ。あれは特異種(キメラ)ね」


 最悪の化け物が、そこにいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ