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 俺とファニーナは、放課後に第4訓練場に来ていた。


 第4訓練場には、他にも大勢の一年生がいる。放課後、第1から第4訓練場は学年別に自由に使用していいことになっているためだ。


「それじゃあ、あなたの固有魔術について説明してもらえる?」


 カミラとヴィクターに話したのと同じことを彼女にも伝える。その際に、彼女の手に魔術で作成した物体を載せ、<質量操作>を発動して実演した。


 ファニーナはあまり驚いてはいなかった。試合の時にあれだけ見せたのだから、魔術の内容が予想出来ていたのかもしれない。


「それで、使えそうか?」


「いえ。全く真似できる気がしないわ。今まで教わってきた魔術と比べて魔素の働き方が違いすぎて。しかも信じられないくらい複雑……。あなたはどうやってこの魔術を使っているの?」


 やはりそうか。師匠でも匙を投げるほどだ。自分でも、どうやって使っているのかわからない。


 魔術の問題点は、まさにこれだ。誰かに理論立てて教えることができない。ある一つの魔術を、いくつかの簡単な魔術に還元することはできても、魔術の発動の仕方()()()()は伝えることができない。どれだけ練習しても、電撃などの魔術が使えない人はいる。


「どう、って言われてもな。<質量操作(スピナ・ルティス)>を使うのは、例えるなら手足を動かすような感じだ。使おうと思ったら、既に発動しているんだ。コツとかを教えてやることはできない」


 ファニーナの顔が引きつる。期待していた魔術の習得がすぐに絶望的になったのがの耐え難いのだろう。……こうなることは大体予想していた。


「うそを言っているとかじゃないわよね……?」


 すがるような目つきでファニーナは問いかける。


「残念ながら」


 彼女は無言でうなずき、そしてため息をついた。ジト目でこちらをにらんでくる。


「こうなることがわかっていたから、安易に請け負ってくれたんでしょ」


「それは否定しない」


「肯定ってことね。まあいいわ。どうせ突然降ってわいたものだったんだから」


 何の気なしに言うが、本心は落ち込んでいるだろう。彼女の強さへの執着は、まだ消えていないのだから。


「黙っていたのは不誠実だった。すまない。代わりと言っては何だが、俺に何かできることがあるなら手伝うぞ。できることがあれば、だが」


「それじゃあ、一つ頼んでもいい? 最近森での死亡者数が多いのは知ってる?」


「ああ。協会支部の受付嬢から聞いたよ」


「それで協会は調査隊を派遣したんだけど……全滅したんだって」


 彼女の表情が真剣味を帯びる。


「事態を重く見て、協会は大英雄ドゥルーグである私に調査を依頼したの。あなたもついてきてくれない? もちろん報酬も出すわよ」


「それは、ファニーナ一人で十分なんじゃないか? 調査隊が全滅したっていうのは気になるが、ファニーナの手に負えないほどとは思えないな。ただの魔物なんて束になったってファニーナにはかなわないだろう?」


「でも、いやな予感がするの。西の国境もいつもと違う状態だって聞くし……何かが起こる気がする」


「何かってなんだよ」


「それはわからないけれど……お願い。念のため、ついてきてくれない? 他に頼める人がいないの」


「……一応聞いておくけど、いくらもらえるんだ?」


「それは、――よ」


「わかった。一緒に行こう。期日は?」


 彼女から提案された報酬金額はかなりのものだった。調査隊の全滅は気がかりだが、彼女の不安は杞憂だろう。せいぜいオーガなどの強力な魔物がいくらか外から入ってきた、くらいに違いない。


「二日後の休日よ。予定は大丈夫?」


「ああ。その日は特に何の予定も入っていない」


「朝8時に校門に集合ね」


 これで終わりかと思ったら、違った。


「せっかくだし、手合わせしない? 剣と<身体強化>のみで。先に一撃入れた方が勝ち」


「……しょうがないな。一戦だけだぞ」


 ファニーナと試合をした。


 負けた。


「もう一戦、頼む……!」


「あれ、一回だけじゃなかったの?」


「ぐっ」


 ファニーナはだいぶご満悦のようだ。やはりファニーナは強い。大英雄ドゥルーグの称号は伊達ではない。


 もう一度、ファニーナと試合をする。


 また負けた。


「もう一回だけ……!」


「三本勝負でも私の勝ちよね? 今日はこれまでにしとこうかしら」


「そこを何とか!」


 結局俺が勝てたのは、さらにもう2戦した後だった。


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