皆はどうしていた?
満身創痍で荒野を立ち上がっていれば、既にアンティゴアの戦場も色々と済んでいるようであり、ノーマンを探れば山の中で号令をかけて忙しくしていた。
そこで私は彼の邪魔をしないようにと、ベイル達がいるはずのアランドーラ号の船長室へとテレポートした。
そこには当たり前だが船主のちびこと船長がいたが、ちびこのナイトのはずのベイルは一緒にいなかった。
「まあ、リガティア様。お怪我は大丈夫ですの?」
「ああ、大丈夫よ。ボロボロなのは服だけだから。それで、もう全てが終わったのかしら。この船にアシッドも新女王様もいない所を見ると。」
アランドーラ姫はおかっぱの髪を揺らしてうふふと笑った。
「はい。アシッド様達は王位譲渡を戦闘後で気持ちが高揚している今こそするべきだって行ってしまいました。ベイルはこの船の操舵室には通信装置がありますから、それでバルモアのイーサンと話し合い中です。」
「まああ。そう。イーサンと相談してくれるなら安心ね。リヴァイアさんでローエングリンに飛んでいっちゃうかもと心配していたから。」
「ええ。ですから捕獲して操舵室に監禁しています。」
私はちびこにありがとうと言うべきなのだろうが、ベイルの心の為にはお礼を言ってはいけないような気がした。
いや、心ではなく未来の為にか?
「で、どんなふうに収束したのかしら。直接この部屋に飛んできたものだから。」
アランドーラ姫は笑顔ではなく美しい顔をクシャっと歪めると、船長室の大きな窓から見える風景を見ろと言う風に指を差した。
私は振り向いて、ああ、やっぱりと溜息を吐いた。
「何が起きたのか口で言いたくありませんから、過去映像を呼び出します。」
「何となく想像がついたからいいかも。」
「そうおっしゃらず。彼が自慢して来たら、知っている、で流せますわよ。」
面倒が嫌いな私は素直に映像が映し出された四角い画面をのぞき込んだ。
フォルモーサスとギルドの連合は、ノーマンという戦術には長けた血も涙もない男によって劣勢極まりなかったが、そこに最強兵器男の自称竜王様が参入すれば戦場は混乱どころか一時停止だ。
いや、ちびこに与えた船よりも大きく、一目で兵器搭載型とわかる古代船で乗りつけられれば、砲弾程度しか装備のない武装船など全艦帆を下ろして白旗を掲げての降参するのは火を見るよりも明らかなのだ。
――――――
映像の中の雫型のような流線形の美しい銀色の船は、停泊中の今と違う、まるでカマキリが羽を広げたかのように攻撃的な姿となった。
「てめえら!俺の可愛いちびこの船を囲って何をする気だよ。おい、全部藻屑になるか?いいぞ、片っ端から沈めてやる。勇者という名のフリーターなんぞこの世にいらねぇんだよ。責任も無くふらふらしやがって。責任だらけで身動きとれねぇ俺へのディスりかよ!」
冒険が出来なくなった元勇者様は後輩達に思う所がありすぎるようだ。
海上のギルド船は全てジークの旗艦に対して恭順の意を示し、するとジークはついでという風に山頂にまで激を飛ばした。
凄いよ、古代技術。
船から飛ばした球体がフォルモーサス軍の指揮官の上に辿り着くや、そこからジークの怒声が響き渡ったのである。
「おい、俺の友好国に何する気だよ。俺とやるか?」
凄いな。
ジークのその一言で退却命令がフォルモーサスの指揮官から出たのだ。
かなりの兵の被害者も出していたが、フォルモーサス軍は引き時という風に軍を纏め上げると撤退し始めた。
「おうい!ちっと待てよ!ごめんなさいもせずにさようならかよ!いいか、フォルモーサスもギルドも、俺がアンティゴアにいるうちにごめんなさいの誠意を見せろよ!俺が納得しない誠意だったらなあ、俺が直接に取り立ててやるからそう思え、いいか!」
フォルモーサス軍からも逃げて行くギルド船からも了解を示す旗信号がぱたぱたと返信された。
ここに映像がある以上、彼等は賠償責任から逃れられないだろう。
――――――
「素晴らしいでしょう。私のお父様は。凄く人情的。」
アランドーラ姫の声音は、投げやりというか、物凄く棒読みだった。
「ちびこちゃん。あなたは子供なんだから無理をしなくていいのよ。」
 




