水はそこにあるか
「ぐふ、はああ、はあ。」
詰めていた息を吐くようにして私は咳き込み、それで私の意識は戻り、戻ったからには相棒を捜さなければならない。
杖ではない。
ハルメニアだ。
「ハルメニア、ハルメニア!どこ!」
立ち上がる体力がなくて私は四つん這いにしかなれず、その自分の状態だからこそ返事のないハルメニアの状態が心配で不安に陥った。
私はハルメニアも連れ帰ったよね。
一緒にここのどこかに転がっている筈だよね。
「ハルメニア!どこにいるの!」
しばらくのそのそと四つん這いで這いまわっていると、生暖かい大きなものにぶつかった。
「ハルメニア!」
彼女は生きていたが、彼女は両手で顔を覆って泣いていた。
「ハルメニア。」
「何をしてもダメ。あの子達の上に大雨は降らなかったけれど山は崩れた。死んだ者は絶対に取り戻せないのね。ああ、私が芋の苗を配って歩いたばっかりに!これは沢山の人を殺してしまった私への罰なんだわ!」
「ハルメニア、やっぱりアンティゴアの不幸は私の両親のせいかしら。」
ハルメニアは顔から両手を下ろすと、涙の溜まった瞳のまま私を見返して、それからゆっくりと頭を振った。
「ええ、違う。ええ違う。ええ、私だって、ええ、私だって神様でも無いから世界で起こった事が私のせいでは無いわ。ええ、自分が許せないだけ。赤ちゃんの顔を見て欲しいと言った娘の頼みを断った自分が許せないだけ。ああ、抱いてあげなかった私の大事な孫。どうして会いに行って抱いてあげなかったのだろう。どうして娘を許そうと考えなかったのだろう。死んでしまったら許すも許さないも無くなってしまうというのに!」
私は何も言えずただハルメニアの横に転がって彼女を抱き締めていた。
今の私にはもう何もすることが無いのだから。
さらさらと水の流れる川の音が私達の成功を讃えている。
それならば、自分勝手な時間を過ごしたっていいだろう。
母のような親友と過去を慰め合う。
これは今しかできないのだから。




