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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
私達は手を繋ぎ襲いかかる暗黒を掃う
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ヴァルプルギスの夜

 戦場においてのノーマンはあっさりしたものだった。

 ベイル達が無事にバルモアの古代船に乗船し終えたと見るや、戦闘の第二行動の狼煙をあげた。


 酷い男だ。


 要石が無くなって川の源流だったものが地中へと注ぐようになり、アンティゴアを潤していたノイエ川は枯れてしまった。

 しかしノーマンは川の源流の辺り、それも崖になっている所を破壊する事で地下に流れ込んだ水を表に出せるかもしれないと事前に杭を何本も刺していたのだ。

 その杭を抜けば水が迸り、枯れた滝を甦らせ、さらには溝だけとなったノイエ川へと注ぎ込むだろう事は確実だ。


 それではなぜ実行しなかったのか。


 山脈の一部が、大きいものではなくほんの一部だが、確実に崩れるからである。


 彼はせっかく崩れるならば世界情勢を鑑みて、人でなしにも一番良い機会に杭を抜こうと計画していたのである。


 それが今だ。


 下草ばかりの枯れた川は侵略者たちには素晴らしき道筋となる。

 枯れた滝に打たれた杭に繋がれた鎖や綱は、山から下りてくる侵略者達には素晴らしき縄梯子ともなったであろう。

 蟻が砂糖で作った道に群がるように、フォルモーサスの兵隊が次々と蟻のようにそこに集まりアンティゴアに侵略の一足を掛けたところで、ノーマンは杭に仕掛けてあった古代兵器の爆弾を破裂させた。


 その後はフォルモーサスの軍にどのように戦を仕掛けるのかは知らない。


 私は彼を信じているし、彼が戦死しなければそれでよい。


 私にはやるべきことがあるのだ。


 長い年月をかけて枯れてしまった川筋に水が流れ込んでも、次々に乾いた川底に吸い込まれて下流にまで水がまだやっては来ない。


 私はその水を呼ぶ。


 私が立つ場所は、アンティゴアの以前は大穀倉地帯だった場所の真ん中であり、枯れて放棄された悲しい荒野の真ん中でもある。

 山脈にはフォルモーサス軍のかがり火が、港の方角にはギルドの船によるかがり火が煌々と燃えたち、これこそ魔女が集まり跋扈するヴァルプルギスの夜そのものであろう。


 私は大きく杖を振り回し、地面にどんと杖を刺した。


「さあ!水を呼ぶわ!地面を潤す大雨を呼ぶわ!私は第三王子アイゼンの娘、リガティア・エレメンタイン。父の願い、母の願いを今ここで叶えるわ!豊かな緑の土地をここに呼ぶのよ!」

「うふ、それは素敵ね。でも、どこから水を呼ぶの?海水を呼んでしまったらここは死の土地になる。」


 私は両手で杖を掴んだままビクリと固まった。


「ハルメニア!邪魔をする気!」


 私の真後ろにいる魔女は、私の両肩にそっと彼女の両手おくと、私の耳元に顔を近づけて囁いた。


「協力する。とっても沢山水を生み出せる世界を私は知っている。あなたの力でその世界とここをシンクロさせて、そして、その世界の水でノイエ川を満たすのよ。一度満たされた川ならば源流のあの量の水流でも枯れやしない。ぐねぐねと蛇のようにアンティゴアを横切るノイエ川は流れが遅いの。川の水が海に排出されるまで時間がかかるのだから大丈夫。」


 私の肩にある手は私の両手を包み、私はハルメニアに背中に貼り付かれるそのまま、彼女が私に送ってくるイメージに目を瞑った。

 緑が多いが砂漠や荒野も多く存在する私達の住む世界と似ているようで違う世界が頭の中に浮かび、真っ青でキラキラした海に浮かぶようにした国が見えた。

 その国は王城や居住地などを高い塀で囲っていた。

 ただし、今のアンティゴアと違って城壁は壊れてはおらず、滔々と川が流れる豊かな世界のままである。

 いや、所々に薪の後や壊れた柵も見えるし、城壁は壊れていなくとも城門は完全に壊されて門扉などどこにもない。


「これは過去のアンティゴアね。占領されたばかりのアンティゴアね。ここの水を呼ぶの?呼んでしまったからここはこんなになってしまったのでは無いの?占領で破壊されたのでは無くて、今の私が彼等の生活を壊したってこと?」


「水が消えたのは違う理由。アンティゴアを占領した人達が攻撃装置の試し打ちをしたの。ほんの冗談でノイエ川と穀倉地に向けて。一瞬で水は干上がって穀物は枯れてしまったわ。それで脅えた人達は要石をそれぞれに手に持って国に逃げたの。ブートの人達は国が無いからアンティゴアにそのまま残り、数年後に惨殺された。ええ、あなたの見ているこれは過去の映像。もうすぐに発射されるわ。それに合わせて水をここに全部引き寄せるわよ。」


「でも、水を引き寄せたから乾燥して。」


「水は蒸発してお終いじゃ無いの。どこかで降るのよ!大雨として!産まれたばかりの子供を抱いて幸せに暮らしていた人達を襲う大雨にだってなるの!」


 ハルメニアが私を異世界に干渉できることを望んだ本当の理由が、死んでしまった赤ん坊とその家族の救済、それだったのか。

 私はそして彼女の望んだ大技が出来るようになった魔女として、その大技を使いこなして見せるという意地のもと、両手に持つ杖にぎゅっと力を込めた。


「さあ!ハルメニア!誘導をお願い!完全に重なった世界ならば砦の光線も受けるかもしれなくてよ!途中でちびるんじゃないわよ!」


「あらお下品ね。どうして私があなたを後ろから抑えていると思っているの?臆病なあなたを逃がさないためじゃない!」


 私達は笑いあい、そして互いに干渉しながら魔法を発動し、アンティゴアの過去と現在を完全にくっつけた。

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