愛と夢を叶えるために
人はそれぞれ夢を持っており、それを叶える事こそ幸福への間違いのない道なのだとアンティゴア女王の配偶者予定様は唱えた。
ノーマン達は今夜ギルドとフォルモーサスの大軍に国を襲われる事で爺様連中に誇りのまま戦って鬱屈した思いを昇華してもらおうと考えており、いや、ドゥーシャが爺連中こそ前線に敷いたので積極的に華々しく散って貰おうと考えているに違いない。
が、私とちびこにはそんなあけすけには説明できまい。
そして、過去に縛られている者がいなくなったその時に、バルモアの船からアンティゴアを救う女神が現れて、彼女によってバルモアの古代船が戦力の違うギルドとフォルモーサスに一撃を与える。
彼女はそこで叫ぶ。
「私は正当なるレイザンの第一王女にしてこの国の女王です!ノーマンよ、我が不在によくぞ国を守ってくれました。」
ノーマンは青王子として彼女に跪き、彼女にアンティゴアの王位を手渡す。
そういうシナリオだったらしく、そのシナリオに沿って現在ディーナとドゥーシャが奔走している。
そして私は要石の制御室に固まって種明かしをアシッドから聞いているのだ。
「みんなが叶えたい夢はなんでしたっけ?俺は永遠に誰かのヒモになること。ノーマンは何も考えずにリガティアとの恋愛に生きること。ベイル君はお父さんイーサンと魔城でキャッキャウフフと末長く生活できる事。それからディーナはアンティゴアを忘れて世界を旅したいようだし、ドゥーシャは転々と旅を続けるよりも少しでも早く腰を落ち着けて妻と子供と遊びたい。あのおじさん、本気で泣いていたからね。愛娘にごきげんようおじ様と挨拶されて。」
「うふ。わたくしもお父様にやってみましょう、それ。」
「ちょっとちびこちゃん。ジークも本気で泣いちゃうわよ。」
「そして俺は俺を蔑む爺連中を海の底に落としたい。」
私達の囁き声に被せる様にしてアシッドの言葉に続けたのはスティールだ。
彼が麻薬中毒だったのは事実であるが、彼を麻薬に追い詰めたのは奴隷だった過去というよりも親族達からの蔑みだったそうだ。
彼の肌もアンティゴア人にしては褐色に近く、彼の母親もブート人の血を引いていたのである。
「ああ、俺は憎んでいた。ブート人を。それよりも前にアンティゴア人がブート人を同じように人以下の扱いをしていた事も忘れてね。これはブートの復讐だと知っていた。アンティゴア人が住む何百年の前はここがブート人の国だったのだからね。そして俺が辛くとも爺さんを思い切れなかったのは、爺さんだけが孫の俺を白伯爵家において愛してくれたからだ。」
宰相一族となる白伯爵家の一員でもあるスティールは、ブートの血を引くという事で白伯爵家親族の中では下の扱いをされていた。
しかし、占領の際には皮肉なことに当主であるドゥーシャとスティールをペアにすれば高く売れると判断され、当主であるドゥーシャこそ殺される事を免れたのだという。
そして彼らは左右に対象になるような刺青を入れられて、南方のギルド幹部が主催する闘技場に売られて使役されていたのだという。
「ドゥーシャは親友だ。いや、俺の失った理性かな。俺はアンティゴア奪還の時にブート人を殺しまくったからね。ああ、麻薬に溺れていたとしても自分のした事は許せない。いや、許せないから麻薬にさらに溺れたのだ。」
「でも、あんたはあたしを助けたよね。」
「脅えた目が虹色だった。俺達は王に仕える身だ。王に剣など振るえるはずは無い。爺さん連中のようになれるわけ無いんだ!」
スティールは縛られたモーガンのすぐわきの石の床を蹴りつけた。
彼が祖父を蹴ることができないのは、彼がモーガンに愛されていたという事実があるからに他ならない。
モーガンは歪んでいたとはいえ、その歪みは大事な孫が汚され壊され、そして、幸せだった世界を粉々にされた思い出によるものだからだ。
ノーマン達が爺様連中の歪みの中でも爺様連中の気持ちを大事にしていたのは、彼等がディーナやドゥーシャそのものを蔑んでいたのではなく、愛しているからこそ彼等の受けた辱めが許せないと嘆いていただけと知っていたからだ。
しかしどんどんと互いに歪みが出来ていき、ノーマンが十年かけても全ての石が集められなかったのは、きっと彼自身全ての石を集めたくなかったからだろう。
フォルモーサスの姫の一件があるまでは、彼自身フォルモーサスの近衛兵として生き、アンティゴアの地では生き辛いディーナやドゥーシャを手伝いと称して他国に呼び寄せてしまおうと考えていたのかもしれない。
そして、ノーマンのその行為がリゼルの命をも繋げるものとなった。
ただし、蔑まれ、下女としてこき使われる日々であったが。
それを壊したのがアシッドだ。
上に立つ者は全てを知っておくべき、というジーナの教えを守る彼は、アンティゴアに着くなり全ての召使や要人の顔と職務を覚えこんだのだそうだ。
「そしたらさあ。台所に可愛い子がいるの。もう、俺好みの。手がカサカサなのに一生懸命働いているのよ。」
そのアシッドの言葉に、彼がただ異国でかわいこちゃん探しをしていただけのような気もしたが、リゼルが嬉しそうに頬を赤らめたので余計な事を言うべきではないと私は口を閉じた。
「それで瞳もノーマンと一緒の虹色でしょう。俺は早速ノーマンに相談だよ。虹色の目はアンティゴアではよくあるのかってね。」
ノーマンはこの作戦を立てた本人であるのにかかわらず、アシッドに話を振られてもむすっとしたままであり、彼の代りにスティールが答えた。
「王か青王子にしか授からない瞳だからね、それを知ったノーマンが俺を訪ねて来たんだよ。そこの黒伯爵だけでなく、赤伯爵と白伯爵までも引き連れてね。そして、白伯爵は知りたい事を知ると俺を枯れ井戸の中に放り込んだんだ。薬を抜けってね。あいつは赤伯爵に兄と慕われるだけあって残虐非道な奴だよ。それで、薬の抜けた俺達は仲良く悪巧みをして、まずリゼル殺しだ。リゼルはバルモアに匿われていたことにする。死んだのはリゼルの双子の妹。二人で一人と勘定される事もある双子だったら同時に虹色の目が発現していてもおかしくは無いし、ノーマンまでも虹色になっていたことを突っ込まれても適当にごまかせる。」
スティールの言葉の後に、リゼルはもじもじと恥ずかしそうに私に目線を寄こした。
「どうしたの?」
「あの、あのさ。あたしはリゼルと名乗れなくなったじゃない?だからさ、あんたの名前を名乗っていいかな。リガティアって。リガティアもアンティゴアの王族の由緒正しい名前なんだ。光り輝くほど美しかったと有名な女王様の名前。」
「まあ!父の名付けにも意味があったのね。」
「リジー。そんな言い方は亡くなったお父さんが可哀想だよ。」
ボソッとベイルが呟いた。
おや、ベイルもしょぼんとしているのはなぜだろう。
「あのさ、いいのかな?ええと、あんたの名前を貰っても。」
「ああ、名前ね。ええと。」
実は嫌だ。
私は私だけのものだから。
「それは止めて。リガティアはリガティア一人だ。」
ようやくノーマンが口を開き私の想いを代弁してくれたが、不貞腐れた風の彼でも私関連のセリフだけは会話するという点は嬉しかったけれど、今はもっと大事な話し合いをしているのだから加わって欲しいと考えると、彼が馬鹿っぽくて情けなかった。
そしてノーマンの言葉によってリゼルはしょぼんとしてしまったが、ノーマンはやっぱり王たる人として今まで生きて来ただけあった。
「君はこれから俺を玉座から追い払って新生女王になるんだ。初代女王のリゼリアはどうだ?レイザンもそのつもりで君にリゼルって名付けたのだろう。リゼリアの愛称がリゼルだったからな。」
リゼルは嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔は本人が私よりも綺麗な筈と言い張った通り、とても彼女が美しいと思わせる笑顔であった。




