人柱の棺
「何をしているんだ!リガティアに何をしているのだ!」
私の意識を再び呼び覚ましたのはノーマンの怒号で、私は彼の声を聴くや彼の姿が見たいと反射的に瞼を開けようとした。
ああ、体が物凄く重い。
細目が開いただけですぐに瞼を閉じる事になったが、私はどろりとした温かな水の中に立った姿で漂っていたという状態は確認できた。
真っ白な生贄が着る様なドレスを着ていた事には、誰が私に服を着せ替えたか考えるよりも真っ裸でないことにこそ感謝していたのでどうでも良い。
「お静かに陛下。これはエレメンタイン様の為です。」
「モーガン!」
彼の大声で私の瞼は再びピクリと動き、動いた事で私の口から水泡がごぼりと立って私の頭までも上へともたげさせた。
私はぼんやりとだがノーマンが見えた。
宴用の黒地に色とりどりの刺繍がある長袖の上着を羽織り、真っ赤なローブを体に巻き付けているという姿で、私が似合わないと思った姿のままだった。
ノーマンはモーガンに対して私をこのガラス瓶に入れた事に対してかなりの怒りを見せて向かい合っており、私は彼に大丈夫だと微笑んで見せようとした。
モーガンの言う通り、このカプセルは私の為になるのよ。
だってこれは、古代技術によって作られた生体培養カプセルだもの。
――――――
バルマンが生きていた頃にとある小国でのクエストがあり、そのクエストの舞台となった洞窟でジークが見つけ出し、彼はそれが何か自分だけ納得するとバルマンをそこに放り込んで閉じ込めたのである。
ちょうどその頃、バルマンの顔には沢山の吹き出物が出来ていたから。
閉じ込められて怖かったのか、バルマンはカプセルの蓋を蹴り飛ばしながら飛び出して来たが、カプセルから出てきた彼の顔には吹き出物どころか昔の刀傷の後だって残っておらず、ジークのようにつるっとした肌となっていたのである。
――お前!何を壊してんだよ!せっかく見つけたお宝だろうが!
――お前が説明もなく閉じ込めるからだろうが!いい加減に説明してから行動するようにしろ。古代遺物の使い方がわかってんなら、俺にこそ仕様説明しろよ!どうするんだよ!壊れちゃったじゃないか!
――いや、お前が壊したんじゃねえか。まあいいよ。エレがいるしな。エレ!お前なら直せるだろ。
――私に回復魔法が使えないの知っているくせに!治せるかって嫌味だわ!
――いや。ちがう。お前に回復されるなんて、そもそも怖くてされたくねえよ。お前は出来るだろ。魔法陣をぐるぐる回してさあ、この機械の修復がよ。
――――――
「できるわけ無いじゃない。いえ、あの時のジークは私がそう言った時に物凄く驚いた顔をして見せた。出来たの?私にはできたの?」
「要石の棺にどうして勝手にリガティアを入れたのだ!」
え?
生体培養カプセルじゃないの?
だって、私の刺された傷が塞がっているじゃないの!
「陛下。要石の人柱になれば死にません。残念ながらエレメンタイン様はリゼルに刺されて亡くなられております。いえ、人柱の棺に安置しましたことで生きた様にしてそこにおわすのです。」
モーガンは芝居がかったようにして私に掌を向けて指し示し、ノーマンは今度こそ私を見つめた。
彼こそ息が詰まって死んでしまいそうな表情だった。
私は彼に違うと叫ぼうとして、再びごぼりと肺に溜まった空気を吐きだした。
「ああ、リジー!ああ!畜生!どうしてリジーが!」
「さあ、陛下。要石を。四つの石がここで回ればエレメンタイン様は本当に亡くなることも無く、永遠にこのお姿であなたの傍にいられます。さあ、陛下。」
ノーマンはローブを剥ぎ取り、ほとんど破り捨てる様にして上着を脱ぎ去ると、
腰に下げていた短刀を引き出して何のためらいも見せずに自分の心臓に向けて差し入れた。
「やめてええええ!」




