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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
彼の故郷であり私の原点であり原罪の地
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アンティゴアという名の廃城と荒野だけの国と想い人との再会

 バルモアの船はアンティゴアの港にするりと入ったが、港はボロボロの漁船ばかりが並ぶ活力を失っているように見えた。

 そこに豪華絢爛でもないが、ジークが愛娘の為に衣食住と防衛と攻撃にまで心を配って選んだ船は、場違いな程にその風景に浮いて輝いている。

 いや、ここが寂れた港でなくとも、白銀色のこの船は勝手に輝くだろう。


 いくら娘が心配だろうと、古代兵器船を引っ張り出すとは何事だ。


 とりあえず、船が着岸するやいなや、私はノーマンが出迎えてくれていると船から飛び降りた。


「ノーマン!」


 ノーマンに飛びつこうとしたが、私は彼が別人に見えた。

 彼は一国の王として私達を出迎えていたのだ。

 私は彼に恥をかかせていけないと、彼を陛下と呼びかけ、エレメンタインが滅多にしない腰を落とす礼を彼に捧げた。


「君がそんなことをする必要は無い。」

「ノーマン?」


 ノーマンの服装は豪華だが寂しいと感じられるものだった。

 私達を出迎えたノーマンとノーマンのお付きの老人の衣装は、数十年前は新品だっただろうというものである。

 絹に刺繍がある素晴らしいものでも、アンティゴアの過去を思えば涙を誘うものでもある。

 そして、そんなお仕着せを着せられたノーマンこそ、過去の栄光にだけしがみ付いている国であることを恥じらっているようだ。


 彼の気性として、過去の遺物を着て客人に挨拶をするよりも、彼は質素だろうが清潔で新しいものを着て人前に出たいはずだ。


 さらに私から言わせてもらえば、彼が大昔の人間のように一枚の布を巻き付けて私の前に出て来たとしても、彼の素晴らしさが際立ちこそすれ今の衣装のような気まずさなど無いだろう。


「どうしたのかな、リジー。」


「いいえ。あなたが海を後ろに白い布一枚で現れた姿を思い浮かべてしまって。」


 嘘ではない。


 アンティゴアの港は錆びれていても海の美しいコバルトブルーの色は褪せることなく、赤みがかって輝くアンティックゴールドの髪をしたノーマンが白い服を着て海をバックに立ったらどんなにか絵になるだろう。

 先程の衣装問題を考えた時に、私の脳みそが勝手に想像して私に差し出した夢想という映像だってあるのだ。


 ああ、想像ではなく実際に見てみたい。


「やろうか?今すぐに。」


 私はノーマンが獣王族だった事を忘れていた。


 公園で出会った犬に餌をやってしまったばかりに結局私がしばらく飼う事にもなったのだが、その犬を雨上がりの外に放した時の大喜びの顔とノーマンの笑顔はよく似ていた。


 わぉ、今日は思いっきり走り回っていいの?

 そんな感じだ。


 実際に彼は隣に立つ老人の視線などお構いなしに本気でお仕着せを脱ぎ出し、私は彼の為に黄金の魔法陣を呼び出して彼の為に最高のシルクを取り出した。


「ダメだよ!それは片して!そんな素晴らしい布は君が俺の為に纏うべきだ!」


 私は素直に最高級シルクを魔法陣に片付けると、白い木綿だが最高級のものを取り出して彼に手渡した。

 もちろん金糸を組み込んで編まれた腰紐というサービス付きだ。


「さあ、古代の王様のように身に纏って見せて!私の王様!」


「ははは。どうしたの、君は。ああ、いいでしょう。お客人の仰せのまま、私は最高のお客人の為に何でもいたしましょうとも。」


 うわお!

 ノーマンが全部脱いでしまうとは思わなかった。


 私は古い上着さえ彼から脱がせる事が出来れば良かっただけなのだが、彼は本気で昔の王様の格好になるべく下着までも脱ぎ去り始めたのだ。

 一応は私から背を向けて着替えてはくれたが、船を降りたのは私だけではなくディーナもベイルも、そして一番大事な事だが、バルモアの幼い姫君と姫君を守る護衛官だってそういえばいたのだ。


 ハハ、私こそノーマンの顔を見て全部を忘れてしまっていたじゃないか。


 とりあえず自分の船旅仲間を振り向けば、ディーナは私によくやったという風なウィンクをして見せて、ベイルはアランドゥーラ姫の目隠しをして私に何をやっているの的な目線を投げかけており、姫の護衛官は全員後ろを向いて肩を揺らして笑いに堪えていた。


 しまったと、再び正面を向けば、既に着替え終わったノーマンが私に腕を広げており、私は再び周囲を忘れて彼の腕の中に飛び込んでいた。


「ああ、あなたは何て素敵な人なの!」


「ハハハ。君を腕に抱ける果報者だからでしょう。さあ、今度は俺の頼みを聞いてくれ。さあ、港から移動して寛げる場所に行こう!」


 それは全員で?それとも私達だけで寛ぐのかしらとノーマンを見上げた時、彼の肩越しで私を睨みつけていた老人と目が合った。

 モーガン・パッキアと名乗ったアンティゴア国の首相は、にらみつける視線の中で私を確実に排除してやると語っていた。

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