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大団円には程遠い

 異世界の時間の流れがこちらと違う事でアランドーラ姫は三年分くらい成長してしまっていたが、彼女が戻ってきたことには変わりがないと母親であるフィレーナは涙を流して彼女の生還を喜んだ。


 喜びが大きければ次に催されるのは宴会だ。

 宴会の会場は勿論ジーク一家が住む場所だ。


 瓦礫となった王宮の代りにジークはフィレーナが別居時に住んでいた離宮を王宮に定めたが、そこはジークから全てを奪う目的でフィランドゥが自分の王宮にするべく準備していた場所でもあるので、死んだフィランドゥには皮肉どころでは無いだろう。


 彼の下準備のお陰でジークは王宮が壊れても大事な国政の記録を失わず、それどころか滞ることない執政が可能だったのである。


 さて、そんな元離宮、ドゥドゥ宮殿という間抜けな名前も持つ宮殿だが、今や大宴会をするための準備の大騒ぎが行われており、客人でしかない私達は準備を手伝うどころか邪魔をしないようにと部屋に引っ込んでいる。


 いや、私は連れ込まれて監禁されている、といった方が正しいかもしれない。


 記憶力の良いノーマンは、魔城で私が彼と愛し合いたいと叫んだ事をしっかりと覚えており、宴会の夜の後に私と言葉通りに愛し合えるように下準備をしているのだ。

 宴会前に私を口説き落とす、という下準備だ。


「あからさま過ぎない?」


 私は何もしないと約束した男によって何もしないと約束した男のベッドに転がされており、何もしないはずの男が私の隣に転がっているという状況だ。


 もっと詳しく言えば彼の左腕は私の腕枕となっており、側臥している彼の身体は仰向けの私の右側にぴったりと密着しているのだ。


 ああ、それだけでなくて、彼の自由な右手は勝手気ままに私の髪を弄んでいるのである。


「うーん。俺は俺が傍にいることを君に慣れてもらいたいだけなんだ。俺は君にキスがしたいしその先がしたいが、君が少しでも怖かったり嫌だったりしたらと考えると足が竦んで動けないんだよ。」


 いや、いろいろとしてますよね、今。

 私は緊張しすぎてあなたが怖いのですけれど。


 でも、キス、という行為を試してみる事には賛成だ。


 だって、ジークとフィレーナが再会した時のキスは素敵だと思ったし、実は異界のジャングルで首筋に受けたキスによって肉体に起きた、ぞわ、をもう一度体験したくもあるのだ。


 ノーマンの温かい体が私の右側面を温めて微睡みを誘うから私の頭が動かないのかもしれないが、彼の温かい体に溶けた様になりながらキスを受けるのはどんな感じなのだろうと考えてしまうのである。


 ベッドの上ならば腰が抜けても安全であるし。


 私は私の頬を撫で始めたノーマンの指先の動きにうっとりとしながら、そっと瞼を閉じた。


「あなたのキスは受けたいわ。」


 彼は私の心や体がうっとりとしてしまう低い声を立てて笑い、私の方へと上半身を動かした。


 瞼を閉じていても彼の動く感覚が手に取るようにわかるのは、彼の形の良い唇が私の唇をさらっと厭らしさを感じないように掠めたからだろう。

 私は私からキスを待つように私の唇に触れる程度で唇を止めているノーマンにクスリと笑うと、私は彼を私に引き寄せるべく彼の頭に両手を回した。


「はい。ここでお終い!」


 私の瞼はパッと開かれ、私の目に映った場景は私に覆いかぶさっているノーマンとノーマンの上から私達を見下ろすようにして屈んでいるジークだ。

 ジークは眉間に皺を寄せたかなりの変顔をしていた。

 そして背中にジークの視線を受けているノーマンは、ベイルよりも子供のような顔で右手に拳を握って悔しがっている。


「ああ!あと一秒ぐらい!」

「あと一秒許したらエレが傷物になるじゃねえか。」


 ノーマンは後頭部がジークの顔面にぶち当たればいいぐらいの勢いで体を起こしたが、最強の伝説の英雄がぶち当たるわけもない。


 ジークはノーマンを小馬鹿にした表情でニヤついていた。


「言っただろう!俺はリジーを絶対に妻にする。遊びでは無いと!」


「じゃあさ。妻にしてからやりなさいよ。うちの祈りの部屋を使って結婚式をしてやろうか?王様の俺が宣言すればお前とエレの結婚は成立するぞ。お前はエレしか妻に考えていないというならばね、結婚できるだろう。そんで、結婚したことを内緒にしておけばいいじゃないか。お前が永遠の独身王を振舞うつもりならばね、俺の目の前で永遠の愛と誓いをエレにしても良いはずだ。」


 ああ、そうだ。

 魔女と王様、魔族と王様が公に結婚できないと私も考えているからこの状態でも幸せだったが、ノーマンが私と結婚したいと考えているならば秘密の結婚をしてしまえば良いだけなのだ。


 秘密の結婚でも結婚をした夫婦の子供ならば、それは祝福された子供だもの。


 いや、だめだ。


 私と彼の間に子供が出来れば、それが結婚という正当な間柄であるならば、私の子供には王位継承権が付いてしまう。

 父と母がメイゼルで隠れ住むしかなかったように、私達も人から隠れて愛を語らうしかないのであろうか。


「お前はエレを愛しているかもしれないが、エレに真心やお前の持つすべては手渡したく無いのだろう。お前はどこぞの姫と結婚するという未来を、アンティゴア復興のために捨てることはできないのでしょうよ。」


 ノーマンはぐるっとジークに振り返った。


「違う!違うんだ!ああ、リジーが俺にぞっこんじゃないとリジーを俺の国に連れて行けないんだよ。赤伯爵家に煩い婆が多数いるようにね、俺にも婆と爺が付いているんだよ!彼等に会わす前にきっちりと相思相愛になって置きたかっただけだ!」


 ジークはノーマンの告白を聞くと、くひひっと厭らしい笑い声を立てた。

 そして、人を小馬鹿にするようなスマイルマークみたいな笑顔のまま私を見返し、私にアンティゴアへ行け、と言い放ったのだ。


「ひどい男だよ、ノーマンは。自分に惚れ切って傷物にされた女ならば虐められても逃げないって考えている。お前はアンティゴアに行って真実を見てこい。そんで、虐められたら俺の家に戻って来い。フィレーナがお前のお姉さんになりたいって言っているから気兼ねなんかするな。」


 私はのそっとベッドから身を起こし、ジークという私の兄の気持ちでしかない男と目を合わせ、彼の瞳に本気で私を心配している色を見つけた。


「ジークの言う通りにする。」


 ノーマンは畜生と顔を覆い、私はアンティゴアではアンティゴアを破壊したそのものでしかなかったと今更に気が付いたのだ。


「え、えと。石を回す生贄にはならない。それだけは約束する。あなたは私を生贄にして生きていける人では無いものね。」


 彼は自分の顔から両手を外すと、私を強く引き寄せて抱き締めた。


「それは当たり前だ。君が生贄になったら俺は城壁そのものをぶち壊す。そもそも俺の身体から石を出さないからそれは絶対ない。ただ、ああ、俺は確かめたかっただけだ。純粋に俺を君が愛しているのか。」


「ええ。純粋にあなたを愛しているわ。」


 私はジークの見ている前だがノーマンを抱き締め返した。

 けれど、ジークは私の両手首を掴んでノーマンから腕を離させた。


「ジーク。」


「よく考えろ。こいつは国の復興の為なら何でもするぞ。俺の領土にガーディアンを連れて来たりな。」


 ジークは私が大事な妹だからでなく、過去にガーディアンと戦わせられた事をしつこいくらいに根に持っているだけみたいだ。

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