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アランドーラ姫

「君は何を言い出すんだ!」


「何も。普通に求婚です。あなたが彼女の傍にいられなくなったら僕が彼女を見守ります。ですから心配なさらずに皆で元の世界に戻りましょう。」


 ジークはベイルの堂々としたさまと提案に言葉を失い、私は胸の前で手を組んでベイルの素晴らしさに感動していた。


 この場面は絶対にイーサンに報告してあげなければ!

 こんなにベイルが素敵だったわよって。


「あなたは王子様なの?」

 蜘蛛はくぐもってはいるが可愛らしい声でベイルに尋ねた。


「ええ。王子様です。」


「白いお馬さんに乗っているの?」


「いいえ。僕の馬は茶色です。戦場で白い馬は目立ちすぎますから。」


「まああ。そうですわね。あの、こんな場所からでごめんなさい。でもわたし、お洋服が無いから外に出られないの。」


 私達は全員が寝違えた様に首を捩じってしまったと思う。


 姫様の言葉で私達は一斉に蜘蛛を見返したのだ。

 その蜘蛛は乗り物でしたか?と。


 私は首の骨が折れる勢いでジークを見返して、彼を罵倒する勢いで彼に聞きたい事をぶつけていた。


「ちょっと、ジーク。あなたは古代兵器を娘にあげたりしていた?あれはちびこの変形では無くて乗り物?乗り物だったの?」


「いや、え、兵器なんてあげてないってか、いや、古代遺物はあげた。でも、ちびこにあげたのはウサギさんだよ。ウサギさんの形をした文鎮みたいなの。」


 ジークは文鎮みたいなのと両手の指先で必死にウサギさん文鎮の形を宙に描いていたが、役立たずの父親の代りに娘の方が私達に説明してくれた。


「私はあの男を切り裂いたの。左手が熊手みたいになったのよ。そうしたら大きな太った魔女が私の左手を切り落としたの。そしたらウサギさんが守ってあげるって左手に入って、ほら、蜘蛛さんになったの。私はこの子に乗って宿屋から逃げたの。」


 ジークは娘の説明を聞いた後は数秒黙り込み、それから物凄く低い声でどんな魔女だと娘に尋ねた。


「まっしろのぶよぶよ魔女だったわ!」


 私はジークに生首があった場所に転がるもう一体の死体を指さした。

 彼は私の指さした方向を見つめると、すぐにのしのしとそこまで歩いていき、やはりスカアハで切るというよりも叩きつける感じで死体損傷に勤しんだ。


「よし、完了。悪い魔女もやっつけた。怖くないぞ!ちびこ!出ておいで!」


 私はローブを脱ぐと自分のチュニックを脱ぎ去り、再びローブに袖を通してからチュニックをジークに投げつけた。


「お前!下着姿を男の前で見せるとは何事だ!」


「裸で困っている子がいるのだから良いのよ。さっさとそれを渡してあげて。」


「ああ、ありがとう。ところでお前。もうすこし飯を食え。胸が貧相すぎる。」


 私はジークに殴りかかりたかったが、私の両脇はノーマンによって抱え込まれ、彼は私の耳元に彼が最高と思う声で囁かれた。


「俺は君の身体は綺麗だと思う。あれから何度も夢を見ている。」


「こ、この!すけべい!」


「ええ!助平?君が体を見せてくれたんじゃないか!」


「い、いまゆうことですか!」



 ガコン。


 何かが開く音に私達は口を閉じて蜘蛛を再び見返したが、蜘蛛の腹部分からぴょんと舞い降りて来たのは三歳児では無かった。


 なんと、姫君は六歳ぐらいに成長していたのである。


 しかしそんなことはお構いなしにジークは娘に飛びつき抱き締めた。


「ああ、ちびこだ!ちびこがお姫様になっている!」

「お父様ったら。」


 磨かれたオーク材の輝きのような艶やかな茶色の髪と水色に緑色が混ざり合った宝石のような瞳は母親譲りであろうが、顔かたちはジークをもっと繊細にしたような人形ともいえる美しいものであり、彼女の姿を見た誰もが大きく溜息をついた。

 ただし、私が渡した青いチュニックから突き出ている左腕は二の腕から下は無く、美しくあどけないからこそ負わされた傷跡に対して私を含めた全員は腹の底から怒りが湧き出ていた。


「うさちゃん。私の腕を返して。」


 ジークに抱きしめられているアランドーラ姫が腕のない腕を伸ばすと、蜘蛛にピンク色の光が走り、そのすぐ後に蜘蛛は粉々に崩れて形を失った。

 地面の上に残って転がっているのは子供の左腕だけだが、その腕はひゅんとアランドーラの元へと飛んでいき、アランドーラの腕にピタリとはまり込んだ。


「うさちゃん入りのこの左手は色々と使えますのよ、お父様。」


「俺に君と同じそれが出来ないのが悔しいぐらいだよ。」


 私はジークの嬉しそうな姿にほっとして、私を抱き締めるノーマンに体を今よりも持たれかけさせた。

 ノーマンは私の動きに嬉しそうな息を吐き、私をもっと強く抱きしめた。

 そしてついでのように私の耳の下に彼は吸いついて、そして舐めもした。


「きゃひっ。」


 私は下半身から力が抜け、耳元で本気で嬉しそうに笑うノーマンの低く素晴らしい笑い声でさらにぞくぞくと追い立てられることとなった。

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