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お姫さまには王子さま

 死体を真ん中に沈黙だけの私達のところに騒々しい男が戻ってきたが、彼は私達の姿に一瞬驚いた顔をした後に、俺はいいからさっさと帰れ、と言った。


「あなたを待っていたのに。」


「待たずに帰れって、ノーマン。君は皆に伝えてくれるって約束でここには誰もいないはずだったよな。何をしているのよ!」


「ジーク様。どうして帰れって。ちびこちゃんは見つかったのですか?」


 ジークは自分の頭を右手で乱暴にかき上げると、ベイルに答えた。

「見つかった。」


「では!」

 言いかけてベイルは口ごもった。

 ここに来る前に見せた映像を彼は覚えており、ジークが戻らないというならば哀れな姫君は元の世界に戻せる状態ではないという事なのだ。


「知っていたか、君も。そうだ、俺は当初の覚悟通り娘とここに残る。だが朗報だ。俺は娘と死ぬつもりだったが、ぎりぎりまでここで生き抜く事に決めた。ほらエレ喜べよ。お前は俺を殺さなくて良くなったぞ。殺したいと思っていたかもしれないけどね。」


 私はやはり騒々しくなっていくジークと、最終の決断をしなくて良い事にほっとはしていたが、彼を残して戻るなど出来るわけ無いと自分に認めた。

 彼は私の大事な兄で、ちびおやフィレーナには大事な大事な唯一の人なのだ。


 さらに言えば、あなたこそ一人ぼっちが辛い人でしょう!だ。


 それでもジークを思い切らねばならないと顔を上げて、ジークの顔を一生覚えていようと彼をまじまじと見つめたが、私は彼の顔よりも彼の後ろに聳え立つ薄ベージュ色の影にこそ視線が釘付けになってしまった。

 水晶球で見たよりも大型で体高がジークの背ほどもあり、胴体部分は意外と大きく、野営に使う寝袋二つ分ぐらい容量はありそうだ。


 三歳の子供が変化するには大きすぎるのでは無いだろうか。


「この子が、…………ちびこちゃんなの?」


 ジークは後ろを振り返り、自分の真後ろにいる蜘蛛に対して愛おしそうに目尻を下げて、そうだ、と私の問いに答えた。

 私は立ち上がると蜘蛛の前に出て、胸に手を当てて腰を落として挨拶をした。

 エレメンタインがあまりした事は無い、高貴な人に対して行う礼だ。


「はじめまして。ちびこちゃん。」

「あなたはだあれ?あなたはあの魔女の仲間なの?」


 蜘蛛からはくぐもった少女の声が発せられ、私はちびおと同じ年齢でありながら単語を三語並べただけ以上の言葉が話せるアランドゥーラに驚き、ミミリアもそういえばおしゃまだったと思い出した。

 ノーマンだって時々信じられない馬鹿になるのだから、きっと女の子の方が賢いだけに違いないわ。


「あの魔女?お前は魔女にひどい目にあったのか!」


「お父様。私とアランドはお父様がいるという宿屋でお父様を待っていたの。アランドはフィランドゥに連れて行かれちゃって、その後すぐに剣を持った男の人が押し込んできて、私を守る人達を殺しちゃって。ああ、その男よ!私を別の宿屋に連れて行って、私の服を破いて裸にしたの!」


 蜘蛛は前足の一本を人間の腕のようにしてノッド・レイリーの生首を指し示し、ジークはその生首のところまでずかずかと歩いていくと、彼の愛刀スカアハでもって生首を完全に粉々にした。


「よし。完了。お前を怖がらせるものはいない。父様がこれからずっと一緒だから、お前はもう何も心配するな。」


「お父様。お母様はお元気でいらっしゃる?アランドは生きているの?」


 私は再びちびこらしい蜘蛛に対して違和感を抱き始めていた。

 この子は三歳児にしては言葉どころか精神がしっかりしすぎではないだろうか。


「ねえ、リジー。この子は本当にちびこなの?一つ上のミミリアはもう少し赤ちゃんだったよ。」


 ぼそっとベイルが私の耳元に囁き、私もベイルに同意の頷きを返した。

 するとベイルは何を考えたのか、蜘蛛の前に進んでいき、まるで王子がお姫様に求婚するように跪いて右手を差し出したのだ。


「はじめまして。アランドゥーラ姫。僕はベイル・ローエングリン。今は母の国に亡命してのアンティゴア人であり、アンティゴアの王位継承権一位の王子です。僕と婚約していただけますか?」


 恐らく、この場にいた誰もがベイルの行動に呆気にとられたと思う。

 ジークさえも。

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