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赤伯爵様

 私達の戦闘が終わってすぐにノーマンだけが私達の所に戻ってきたが、私が木の幹に貼り付いたままの姿でいることにノーマンはすぐに訝しく思ったようだ。


「あれ、リジーは一体どうした……。」


 私はディーナのした事を言う訳にはいかないからどうしようと慌てたが、ノーマンは私達が積み上げていた死体の山を見て勝手に納得したようだった。


「ああ、ノッド・レイリーの首が落ちている。ディーナか。怖かったね。」


 ノーマンは木の幹に貼り付いたままの私をべりっと剥がして自分の腕に抱きしめたが、彼の甥のベイルのどうしてよいのかわからない顔や、ディーナが物凄く不機嫌な顔をして私を睨みつけている事で自分の納得が思い違いだと気が付いたようだ。

 ノーマンは私を自分の胸に押し付ける様にして抱き直すと、私の耳元に何があったと囁き声で聞いて来たのだ。

 私は何も言う事が出来ないと、何も、と答えた。


「そうね、何もね。私はいっぱしの男ではないのだもの。私にキスされて気持ち悪いと思っても、誘惑されたとは決して思わないわよね。」


 私は自分が動けなくなったことをディーナがそのように受け取ったのかとびくりと震え、でも、彼のキスに感じてしまったなどとノーマンのいる前で告白などできないとディーナを見返した。

 そして、ノーマンこそディーナの告白を効くや首が折れる勢いでディーナを見返し、地獄の底から聞こえる様な低い声を出してディーナに聞き返した。


「キスをした、だと?」


 ディーナはふふんと笑い、自分の首筋の私にキスをした場所と同じ部分を指先でさらっと撫でた。


「柔らかくてとっても素敵だったわ。」


 私はぱっとノーマンの両腕から解放されて地面に尻餅をつき、私を手放したノーマンは腰から剣を引きだしてディーナに向かって行くではないか。

 ディーナも自分の長剣を抜いた。


 私はノーマンの足にしがみ付いた。


 私に気持ち悪い事をしたからと考えて、ノーマンがディーナを切り殺そうとするなら真実を伝えないといけない!


「待って!止めて!だって仕方がないじゃない!首にキスなんて初めてなんだもの!キスされて腰が抜けちゃうなんて知らなかったの!無防備だったって反省してます!今後はあなた以外の人にはキスされないようにするから怒らないで!」


 カキーンとノーマンは固まり、ゆっくりと私を見下ろし、そして数秒私を無表情で見つめた後に彼は再び大きく動き出した。

 ノーマンに振り払われた格好となった私は今度は地面に転がった。


「畜生!ディーナ!ぶち殺してやる!」

「ええ!どうしてそうなるの!」


 そして、なんと、ディーナは私を見返していたが、先程の表情とは打って変わっていつもの柔和な魅力的な微笑を浮かべていた。

 いや、いつもよりも清々しいような、女性性など一欠けらも感じ無いただの青年にしか見えない表情だ。


「ああ、なんだか今ここでノーマンに切り捨てられてしまいたい気持ちだ。今日こそ自分が男だって思えた日はないよ。」


 ノーマンはピタリと動きを止め、ディーナはノーマンが動きを止めたことに対して少し寂しそうに微笑んだ。


「君は俺の赤伯爵だ。何があっても俺を支える男だ。」


「あなたはそうでも、赤伯爵家の誰も私には期待していない。いいえ、赤伯爵家の伯爵位は不在のままでいい。アシッドが継いでくれた黒伯爵家のように別の者に継がせるべきです。奴隷に落とされて愛妾にされていた当主などいない方がいいのですよ。」


 ディーナは剣を収め、ノーマンは荒々しく剣を地面に打ち込んだ。

 私はディーナの不幸に涙を流さないようにと唇を噛んだ。

 同情や憐みこそ誇り高い彼には侮辱行為にしか他ならない。

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