アイシュ・アイア戦
どうして私がギルドのアイシュ・アイアの登録に詳しいのかは、彼女も私と同じくギルドの高額賞金首だからである。
「ふふ。わたくしは百億なのね。あなたは、ああ、あんなにもギルドに貢献したあなたは億に満たない数字なのに、ああ、可哀想ね。」
真っ白いだけの女は初めて頬に血をみなぎらせた人間的な表情を作り、私は彼女の剣を握りながら私の血に命令もしていた。
私の血は剣をつたってアイシュ・アイアの手を、袖口をつたって彼女の弛んだ白い肌に流れ込み張り付き、そこで私が呼び出した茨によって皮膚も肉も突き破られた。
茨は彼女の骨そのものを拘束し、彼女の神経に入り込み、血管を侵し、心臓を内臓を脳みそを拘束して、ぐしゃっと潰した。
彼女は叫び声もあげずに私に脅えた顔を見せたままそのまま絶命した。
「リ、リジー。大丈夫なの?」
「ああ、あなたって恐ろしい魔女ね。もう、私はあなたの虜だわ。」
ベイルの脅えた声にディーナの恍惚とした声が重なり、さらには彼が倒したばかりの獲物の生首をアイシュ・アイアの死体にぶつける様にして投げて来たことで、短剣に貫かれている私もここで死にそうになった。
意識がふうっとディーナへの恐怖で消えそうになったのだ。
彼は冗談めかしているが本気で怒っており、私のした事に対して褒めながらも絶対に許さないと言うように目を吊り上げている。
彼はそのままづかづかと私の真ん前に来ると、私に杖を出せと言った。
「杖を出して完全回復魔法の準備をして。いいか、私がその剣を抜くから、抜いたらすぐに魔法を使いなさい。」
「ええ。でも、大丈夫なの。でも、剣は抜いて。アイシュの真似をして魔法で肉体を作っただけだから、薄皮一枚傷ついていないわ。ただ、魔法の身体に感覚を繋げているから痛いし動けない。ああ、手の傷は魔法で閉じたからそこも大丈夫。お願い、ディーナ。早く抜いて。」
しかしディーナは剣を抜かなかった。
彼は私を抱き締める様にして私の肩に顔を埋めて、私の首すじがぞくぞくするほどの深い深い溜息を出したのである。
「ディーナ、ごめんなさい。あなたに心配をかけてしまったわね。」
「――いいわ。いいの。でもちょっとまって。あなたの可愛いかすれ声で、名前を呼ばれて抜いてって言われると、ああ、私も男なんだって思っちゃっただけよ。」
「え?」
彼は私の首筋に齧るようにしてちゅっと口づけ、それから私から離れて私を戒める剣を抜いた。
だけど、剣が消えても私は木に貼り付けられたまま動けなかった。
だって、首筋のキスだけで体が動かなくなってしまったのだもの。




