旅の仲間追加
当たり前だがベイルは私達についていきたいと駄々をこねた。
だが、イーサンをバルモアに縛り付けて国政の立て直しを押し付けたいジークにはベイルこそバルモアに縛り付けないとイーサンが動くと知っており、今回は古代兵器戦と違って首を縦に振らなかった。
奴が色々とベイルを取り込んでいたのは、イーサンをバルモアの宰相か何かに祭り上げてしまおうと画策をしていたからに違いない。
面倒くさがりのジークは、使える者は何でも使う。
イーサンもそろそろジークの思考回路が理解できたようで、物凄い眼つきでジークをねめつけている。
「わかりました!じゃあ僕は魔城に帰ります!僕は自国を捨てた人間です。他国の国政に関わることこそ一番してはならない人間なのです!」
青い瞳を輝かせて言い切った少年は彼の意思を変えることは誰しも不可能な程に凛とした風情で、だが、王様よりも酒場の酔客な風情のジークは自分の都合の良いように自分の言い分を簡単に変えられる人だ。
「わかった。君は俺と一緒に俺の娘を助けてくれ。そんで、俺の為にイーサンにここで俺の出来ない国政立て直しをするように頼んでくれ!」
「え?」
純粋なベイルはジークが必要としていたのがイーサンだけという事実に気が付いて真っ青になったが、それでも冒険に出たい少年の気持ちが勝ったらしく、ジークにわかりましたと答えた。
「ありがとう!いやー、君を置いていった方が国民は言うことを聞くと思ったが、そうだね、君も男だ。冒険に行きたいよね。よし、一緒に行こう。娘も君がいる方が酷い目に遭っていてもそのことを忘れるかもしれない。」
「え、どういうことですか?」
「え、君は普通に他の人の気持ちを解せるでしょう。カリスマって言うのかな。俺がいない間に君が大丈夫って国民に微笑んでくれたら、俺の国民は全員が大丈夫だって安心すると思ったんだよ。俺がいない穴は君にしか埋められないってね、俺は君に甘えてしまったのさ。」
「え、では、僕は残った方が……。」
「いやいやいや。ついていきなさい。君には冒険の経験が必要だ。大丈夫、わしは伝説の賢者だ。わしがちゃんとこの馬鹿王様の後始末はしておくからね。ああ、大丈夫だ。戻ったらすぐに魔城に帰ろう。ほら、帰らないとジーナに城を乗っとられるだろう。」
イーサンはベイルがバルモアの国民のアイドルになってしまう可能性を考え、そうしたら魔城に帰れなくなると慌ててしまったのである。
そうしてイーサンのお墨付きも貰い、ベイルもちびこ捜索隊の一員となった。
「どうしてリジーがちびこちゃんの居場所を探ら無いのですか?」
隊員となったベイルはすぐに捜索について疑問に思っていたことを私に尋ねて来たが、私はベイルに水蒸気で作った水晶玉のような球体を覗かせた。
中を覗き込んだベイルは溜息をついて私を見返し、私は自分が作った球の中を覗き込みながらベイルに真実を伝えてやった。
「ちびこは異界にいるの。私達は彼女の送られた異界に行って彼女を見つけるのが第一目標。第二目標はこっちの世界に戻って来ることだけど、それが不可能であればジークは家族ごと異界に留まるつもりなの。その時にはちびおだけでも私に預けたいとも考えているけれど。あなたは彼等を見捨ててこっちの世界に帰る事になっても大丈夫?」
「大丈夫では無いですけど、絶対にこんな場所からちびこちゃんは助け出します。あの子はまだ四歳にもなっていないのでしょう。」
「ええ。でもよく見て。あの子はこの世界が大丈夫なの。」
「え、水晶球には四本足の蜘蛛のような化け物しか。」
「ええ。彼女は生き残るためにメタモルフォーゼしてしまったのよ。ずっとこの姿のままならば、ジークは彼女とこの世界に留まるつもりなの。」
緑色のジャングルのような世界で薄いベージュ色の体色の四本足の蜘蛛はのしのしとその世界を闊歩しており、完全に人の姿を失っている彼女の姿を見ても生きている事だけを喜んだジークは私に酷い頼みをしている。
「ちびおとフィレーナは絶対に連れ帰ってくれ。ちびおには母親が絶対に必要だ。俺はあいつらと過ごせる数日間だけでもあればこの世界を思い切れる。ちびこと一緒に滅ぼしてくれ。」
子供だった哀れな蜘蛛の動く様を見つめるベイルの両目は涙で一杯だ。
私は彼の手を力づけるように握ったが、実は私の方こそベイルの温かさで力づけられたい気持ちだった。
ジークが私に頼んだ最悪な事態を迎えた時、私はどうなってしまうのだろう。




