幼女はどこに消えた!
バルモアの王宮は完全に崩れ落ちたが、ジークへの国民の信頼は揺るがないどころか、地下に隠されていた古代兵器の存在を知っていた人々には彼が救世主として心に残ったようで、近日中に英雄譚の一つとして記録される事となった。
だが、ジークは国を出る決心なのだそうだ。
「俺の大事なちびこを見つけるまで国に帰らない。」
ジークの子供達は玉座を狙うフィランドゥによって誘拐されており、古代兵器の生贄にされる予定だったアランド王子はその場に居合わせた私達によって救われたが、お姫様であるアランドゥ―ラの行方が全くわからないのである。
娘を捜しに行くぞと言い張るジークは素晴らしい父親だが、私が彼から聞いていた事情を考えれば彼の行動は認められないのでは無いのだろうか。
「ちょっと待ってよ。あなたがいるからバルモアが他国から侵略を受けないから自分はバルモアに居続けるって設定はどこ行ったのよ。」
「うるせえよ!俺が家族持ちの幸せさんだからって喧嘩売る気か!大体、俺には大事な家族が欠けてんの。ちびこがいないのよ。ちびこ捜しに数週間国を離れるぐらいいいだろうが!伝説の賢者を国政立て直しに置いておくし、カリスマ星人のベイル君もいる。ついでに言えばお前のノーマンとディーナには俺が俺の家族の為の護衛として給金も出すって話はついているだろうが!」
「ああ!あなた。そんな言い方はエレメンタイン様に失礼だわ。ごめんなさいね。彼はアランドゥーラが心配でたまらないだけなの。妹のようなあなたに甘えているだけなのだから彼の暴言を許してあげてね。」
ジークの隣に座っていたジークのお妃であるフィレーナが私の方へと身を乗り出すと、私の手を取ってにっこりと微笑んで見せた。
私が十二歳の頃に出会ったフィレーナは胸と臀部が丸く大きいだけで他は細いという男性の理想とする美女だったが、物凄く私には意地悪だった。
だが、魔法が解けたという胸と臀部以外にも肉がついているぽっちゃりとした体型の可愛らしい女性は、その外見通りにとてもやさしい女性となっている。
彼女は自分が醜くなったと言い張るが、彼女の生来のものである茶色の髪にトルコ石のような瞳は普通に美しいものであるし、立ち居振る舞いは王族らしく優雅であり、目立たない地味顔かもしれないが微笑めば誰もが好感を寄せる顔立ちとなる。
ついでに言えば、ジークは彼自身が完璧な顔立ちなので他人の顔かたちに実は無頓着であり、彼が気にするのは相手が心優しいかどうか、さらに言えば、人と違う彼を絶対に愛し続けるという要素を持っているかどうかなのだ。
まあ、私も人の事が言えないが。
ドゥーシャに言われた通り、私は自分に好意を寄せてくれた人を無条件に受け入れてしまうようなのだ。
これは、命の危険があるほどに嫌われて追い払われながら生きてきた幼い頃の反動だと思う。
そしてきっとジークも私と同じような生育環境だったに違いない。
だから私達は分かり合えると一時は恋をしたのだ。
「フィレーナ。俺が甘えるのはお前にだよ。そしてお前が甘えるのは俺だ。」
「ああ、ジーク。ええ、いくらでも甘えて下さいな。そして、甘えさせて。わたくしはもうあなたから離れたくありません!一緒に娘を助けに行きましょう!」
ジークはハハハと嬉しそうに声を上げて自分の妻を抱き締め、ウンザリしている私は私の隣で転がっているちびおを抱き上げた。
寝ていたちびおは私に抱き上げられた事で私の腕の中で猫のようにもぞっと動き、私は温かくて湿っている小さな可愛らしい子供の頭を撫でた。
私がノーマンの子供を産んだら、その子はどんな風だろうと考えながら。
そして、そんな日が来るのだろうかとも考えながら。
「小さな子供に旅は過酷じゃ無くて?私とノーマンが必ずアランドゥ―ラを連れ帰るから、あなたは奥様とちびお君とここに残ったら?」
「俺の大事な娘を俺が助け出さなくてどうする?お前ばっかりいいとこどりか?あ?古代兵器戦はご活躍でしたものな!」
ジークは私に物凄く憎々しい目線を向けてきた。
彼は一昨日の古代兵器戦の事を根に持っているのだ。
と、言う事は、彼は娘にかこつけて世界に飛び出したいだけかもしれない。




