魔宮
バルマンとジークと私のパーティだったあの頃ならば、私達はどのようにしてこの兵器と戦ったであろうか。
「ノーマン。君は俺を補助するべく動いてくれ。俺が突っ込む。エレが俺達に障壁を作ってくれるが、こいつの障壁は攻撃魔法を変化しただけのものだから俺達にはとても危険だ。エレの魔法には巻き込まれるなよ!」
え?
「了解。楽させてもらいますよ、バルモア陛下。」
ジークはハハっと笑い声をあげると全身を再び戦闘形態に変形させ、すぐさまぐんと兵器へと切り込んでいった。
しかし彼には古代兵器が光線の照準を定めており、私は彼の進行方向に壁を突き出して彼を壁によって照準外へと追い払おうとしたが、彼の方が避けてくれた。
「あ、あぶねえ!見たか、ノーマン。エレの方が危険なんだよ!」
「ありがとうでしょう!馬鹿正直に特攻したあなたが光線で穴だらけになるところだったわよ!」
「お前の攻撃で首が飛ぶところだったよ!まあ、この調子で頑張れ。」
「もう!」
ジークによって古代兵器よりも危険物扱いされた私は少々むっとしながら、昔のように次々と彼等の為の障壁を作り出す事に専念することにした。
魔法壁を作っても古代兵器の攻撃を防ぎきれるわけがない。
しかし、攻撃を逸らす事は出来るのだ。
殴りかかってきた人間の腕を下から跳ね上げるだけで拳を受けずに済むように、今回の私は兵器の触手攻撃の力の方向をジークやノーマンに直撃しないように土の壁を床や壁から突き出させていた。
ノーマンは事前にジークから説明を受けていたからか、私の障壁が突き出る場所を上手にかわし、さらにその障壁を利用しながら触手に痛手を負わせていた。
彼の力自慢的な剣は古代兵器の触手の一本を既に使い物にならないほどに切り刻んでおり、兵器の頭部破壊だけを考えているジークを兵器から目くらましさせる良い存在となっている。
「うわ!」
彼の足元に光線によって大穴が空いた。
「ああ!ノーマン!」
あと数ミリでノーマンの足は焼き切られていただろう。
私は無事だった彼にほっとした。
ズウン。
「え、何の音?」
パラパラと天井から小石が落ちて来たことで、私はこの王宮が崩れ落ちる予兆の音なのだと気が付いた。
「ノーマン!エレ!お前らは一時退却!ここが崩れる!」
「ジーク!あなたもよ!」
「バカ野郎!俺はこいつをここに埋めてしまえるかの実験だ!ちびお達には俺が海に帰ったとでも言っておけよ!」
「ジーク。こいつが逃げ出さないように抑えるのは君一人じゃ荷が勝ちすぎるんじゃないのか。」
「ハハハ、言ってろよ、この荒野の王が。で、俺達はそう言う事だ。エレ、お前だけ一人で逃げろ。」
崩れ落ちる王宮の瓦礫で押さえつけるつもりであると、兵器を逃がさないための戒めに自分達がなると言い張る自己犠牲の男達は、私一人をそのパーティから追い出した。
彼等は私が大好きだから!
「ああ!あなたって、あなた方ってどうしてそんなに馬鹿なのよ!」
私は彼等に大声で叫び、絶対に彼等を手放したくないと、この世界を包むドームを頭の中に思い浮かべた。
「よっしゃああ!バトルフィールド!」
「ああ、本当だ。異世界だ。この賽の目模様の床がまた素晴らしい。」
「まさに魔宮って感じだよね。空にはきれーな星空もある。さあ、目の前のグロテスクちゃんをさっさと壊してこの世界を堪能しよう。」
「も、もう!私を煽ったのね!あなた方のどや顔をあの機械に見せてあげたい!」
半分冗談で大型の鏡を裏切り者のジークとノーマンの頭上に翳したのだが、そこに映った彼等の姿に向けて機械は最大級の光線を発射した。
どおおおおん。
光線は鏡に反射された。
驚いて角度を古代兵器に動かしてしまったこともあって、反射した光線は機械の胴体部分を直撃し、物凄い爆発音をあげて機械は粉々になった。
茫然とする私達の前には燃え燻る古代兵器の破片と、ごろりと床に転がる兵器の頭である。
「えれ、お前さいってい。俺に二度とその面を見せるな。」
「ジーク言いすぎだ。気持ちはわかるけど。」
え?
「ああ、もう!もう少し俺が思いっきり戦ってから鏡攻撃をやってよ。せっかくのバトルフィールドじゃ無いの!ああ!俺はもう少し体を動かしたかった。」
「わかります。ああ、わかる。俺も三日もかけてこの地に来て、命を賭けてって腹をくくっていてのこの結末ですからね。ああ、君の気持ちがわかりすぎるほどにわかる。」
私は彼等をここに置いてきぼりにして、仲間外れにされたと泣きながら一人で帰ってしまおうか。




