目覚め、そして大混乱と戦闘に
ぐんと伸びた触手がノーマンに襲いかかり、しかし彼が避けたために触手は階段を直撃した。
地上へと続くらせん階段の下部は粉々になり、天井からもその衝撃でパラパラと破片が次々と落ちてきている。
「どうして。眠りについたのでは無かったの?」
「ばかやろう。死体が多すぎるだろ。眠気眼のガキは寝かしつけ直せるが、完全に目を覚ましたガキは疲れさせて寝かしつけるしか無いんだよ。」
「ほう、さすが親父殿。」
「うるせえよ!俺はお前より若い!自分の娘並みに若い女に執着しているお前よりずっと若いよ!エレなんてガキじゃねえか!この変態が!」
「なんだと!俺はまだ二十八だ!そしてリジーは結婚適齢期だろうが!あ、十二歳のリジーに騙されていらっしゃいましたね。王様。」
「てめえ!」
剣を抜いている二人はお互いを切りたいと向かい合った。
そんな二人を目掛けて仲良く襲ってきた二本の触手。
ジークもノーマンも再びの攻撃に対して大きく飛び上がって避け、的を失った二本は壁に打ち込まれて建物自体を大きく揺らした。
「はっ、意外と単調だな。次は三本か!」
妻と子を抱きながら高く飛び上がっているジークの声が頭上で響き、その嬉しそうで高揚感溢れる声に水を差すようだと思いながら私は答えた。
「いえ。六本よ。」
床は下から打ち上げられ、鉛色の硬質でありながら軟体の生き物のグロテスクさを失わない六本の触手が床から生える柱となった。
私の茨の魔法は解いたが、逃げ遅れた四人は地下の高い天井に触手によって押し付けられて潰され、イーサンとディーナに切り捨てられていた親衛隊も同じ運命を受けていた。
ディーナは当たり前だが完全に触手を避けており、ベイルはイーサンによって攻撃を受けずにすんでいた。
いや、ベイルが剣を既に抜いている上に、イーサンに抱えられていない所を見ると、彼は一人で古代兵器の攻撃を避けることが出来たのだ。
「すごいわ、ベイル!」
「俺こそ褒めてよ!」
「あなたは二度目でしょう。ベイルは初めてよ。」
「そうだよ!俺は二度も避けたんだよ!」
私は古代兵器に遭遇した回数を言ったのだが、ノーマンは避けた回数と勘違いしたようだ。
そして、その間違いを訂正するのが面倒だと、私は次の行動を取った。
「ベイル!メリー・アンを呼ぶわ!それに乗って地上に行ってちょうだい。」
「メリー・アンですか!あれに乗れるなら喜んで!」
「メリー・アンは禁止!ベイル!君はリヴァイアさんを呼び出せるって言ったな。そっちを君が呼び出して君が制御して、君が戦えない者達を守ってくれ。」
「こんな場所じゃリヴァイアさんが混乱して危ないわ!」
「お前がここからメリー・アンを制御する方が危ないよ。お前は目の前の化け物だけ集中していろ!できるな!ベイル!」
「はい!」
物凄く嬉しそうな声でベイルは応えると、水棲生物を呼び出せる簡単な召喚魔法をすぐに唱えだした。
「おとたま!おしゃかなです!」
「うん、お魚だね。うわお。エレが呼び出す時よりも綺麗な奴になっているじゃないか。」
私も驚いた。
リヴァイアはカジキマグロの頭部はそのままだが、トンボ風の羽の枚数が半分以下に減ってはいたが骨だけだった全身には肉や銀色の鱗もついており、つまり、どこから見ても羽を持つ美しい魚の姿になっているのだ。
「はい!僕が呼び出すと、彼女はいつもこんなに綺麗な姿なんです!」
「まあ!素晴らしい事よ!さあ!私が兵器を抑えている間に、急いでちびおちゃん達を地上に連れて行ってちょうだいな!」
この間にも触手は私達を襲おうと繰り出されているが、私は土の魔法で作った壁を突き出させることで触手の軌道を逸らしているのだ。
「お前わかりすぎ。ちょっとプライドが刺激されたな。」
「うるさい!さっさと攻撃に戻ってよ!」
「はいはい。じゃあな、フィレーナ。息子と娘とお前自身を頼んだよ。俺は一人ぼっちの家に帰りたくないんだからな。」
「ああ!ええ!待ってますわ!」
ジークはリヴァイアに妻と子を乗せるとすぐにぴょーんとジャンプをして私の作り出した壁の上に立ち、ベイルはリヴァイアにディーナとイーサンがしがみ付いたと見るやリヴァイアをふわっと宙に浮かせた。
「さあ!壁を壊しながら先に進むぞ!行け!リヴァイアさん!」
ベイルの掛け声とともに彼等は消えたが、頭上で大きな壊れる音が連続して起きている事でベイルは本気で城を壊しながら階上へと進んでいるようだ。
古代兵器と戦うつもりだった男は自分が煽ったベイルの行動の結果に戦うことを忘れ、壁の上からベイルの進みゆく先を茫然と見守っていた。
私はそんなジークにちょっと意趣返しできた気になったが、ノーマンはジークとフィレーナの邂逅にこそ刺激されていたらしく、私はノーマンに強く抱き締められて抱き上げられた。
いや、抱きかかえられるやぴょーいと私達は宙に舞ったのである。
私のいた場所は石の床が溶けて大穴が空いている。
「あ、ありがとう。ノーマン。本気で助かったわ。」
「どういたしまして。これからの俺は自分が精いっぱいになるだろうから、今のうちに格好つけておかないとね。」
残った私達は完全に目覚めてしまった古代兵器を一斉に見つめた。
幼児のような顔をした禍々しい像は目を見開いている。
色のない瞳を持つまっしろの眼球の真ん中には黒い点が出来て渦となり、ぐるぐると回りながら真っ黒い瞳へと変化していく。
「エレ、ノーマン。あいつの瞳が黒くなった時が次の攻撃だ。」
「見りゃわかるよ。」
あれをなんとかしないと私達には幸せがやって来ないが、ノーマンとジークもなんとかしないと。




