女の嘘には慣れている
ジークの脅しに対してフィランドゥは高らかに笑い声をあげると、自分の親衛隊の一人へ頷いて見せた。
親衛隊の一人は私によって茨の戒めを受けいている者達の傍へと歩いていき、そのまま自分の剣をその一人に打ち下ろした。
「ハハハ、これで私が支配者だ。さあ、目覚めよ!そして、ここにいる弑逆者たちを殺せ!まずはお前の目の前にいる男だ!」
私は戦慄とともに古代兵器へと振り返り、遅いと思いながらも兵器へと叫び声をあげていた。
「やめて!悪い男はこの男こそだわ!」
私は無意識にフィランドゥを指さしており、じゅんっという音と共にフィランドゥの胸には大きな穴が空いてしまった。
フィランドゥは自分の胸に開いた穴に不思議そうな表情を作り、そしてそのままばたりと前に倒れた。
「え?」
茨の兵士達の所にいた親衛隊の一人が被っていた兜を捨て去った。
「ノーマン。」
彼は私ににやっと微笑むと、彼の剣に殺されると思い込んで気絶した男の頭を持ち上げた。
「ほら、白目をむいて気絶しているだけ。まだ死んでいないよ。よって、今のところは君があの魔像のお母さんだ。」
「まあ!」
「さあ、立てますか?ここからまず出ましょう。ここは瘴気が篭っていて危険なのでしょう。僕と一緒に娘さんを助けに行きましょう。」
ベイルがフィレーナを助け起こしていた。
彼が誰にも邪魔にされないのは、親衛隊姿のディーナとイーサンが他十数人の本物の親衛隊を切り刻んでいたからだ。
「よっし。ディーナ、イーサン、ベイル。急いで地上に戻ろう。今からジーク殿の娘御の捜索と救出活動を始める。」
「ああ、頼む。君達は急いで上に行ってくれ。俺は後始末をしてからにする。」
ジークはフィレーナの所に歩いていくと、彼女にちびおを手渡した。
彼女は受け取った自分の息子をぎゅうっと抱きしめ、ジークはそんな彼女の額に軽く口づけをした。
フィレーナは誰の目にもわかるくらいにびくりと身震いをした。
私は彼女の所作にジークから聞いていたことを思い出した。
四年前に子供を産んだ日から、フィレーナは室内でもベールを被りジークから姿を隠すようになったという話だ。
「赤ん坊に俺と同じエラがあったという事で、俺とフィレーナが違う種族だって脅えてしまったのかも。誰だって半魚人は嫌だものね。」
彼は冗談めかしていたが、フィレーナの怯え具合をみるとそれは事実だったのかもしれない。
では、ノーマンもいつか私を気味悪がったりするのだろうか。
「俺に触れられるのは嫌だろうにすまなかった。それでも、俺は久しぶりに会えた君にキスがしたかった。今日を限りに君の前に現れない事にするが、君が俺に子供を与えてくれたことには一生感謝し続けるだろう。ちびおは俺に似ていくだろうが、こいつが十三になるまでは大事に育ててやってくれないか?」
「嫌です!」
「――いやか。」
「ええ、十三歳までなど嫌です!私はこの子を一生大事に育てていきます!ああ、あなた。私があなたに触れられて嫌な事など一つもないわ。ただ、ただ、ああ、私はこんなになってしまった。いいえ、この姿こそ本当の姿なの。あなたを手に入れるためにって、私は魔法で美しい姿を与えられていただけなのよ!」
彼女は自分の子供の腹に自分の顔を押し付けて泣き出した。
「ああ!子供を産んだら魔法が解けてしまった。あなたをこんなに愛しているのに!醜い姿に戻った私にはそんな資格が無くなってしまった!」
ジークは呆れたように大きく息を吐くと、自分の妻を乱暴に立たせて自分の胸に押し付けるようにして抱きしめた。
両親に挟まれた格好となったちびおがむぎゅうとなってしまったが、ちびおはジークに中身も似ているようで、両親に挟まれて潰される事こそ喜んでいるのだからいいだろう。
「今のお前は醜くは無いし、俺は結婚した時のお前が嘘の姿だったって聞いても平気だよ。俺は別の女に嘘の姿で騙されていた事もあるからね。ついでに言えば、お前はこれからも俺の子供を産んでくれるし、俺を愛してもくれるんだろ。だからいいんだよ。」
「ああ!もちろんですわ!もちろんです、あなた!あなたに愛されなくても、私は一生あなたを愛していきます!」
「俺もお前を愛しているって。」
ジークの腕の中でフィレーナがきゃあと叫んで気を失った。
「え、俺に愛されるのがそんなに嫌だったのか!俺に愛されないってポジションこそ好きだったのか!」
ジークは妻を抱えてあたふたとし始め、私は嬉しさが大きすぎて気を失った妻とそんな彼女の状態もわからない夫という物凄く間抜けな夫妻に見切りをつけることにした。
「ノーマン。みんなを一時に上に連れて行くから、気絶している人達を集めて頂けるかしら。」
「お安いごようだ。」
しかし、古代兵器は自分の前から逃げようとする者を許さなかった。




