私達はいつも行き当たりばったり
ノーマンは私の寝室に入ってくると、椅子に掛けてあったローブを取り上げ、毛布のようにして寝間着のままの私に包んで着せ付け始めた。
「風邪をひくだろう。」
「あ、ありがとう。」
「そういう俺は君を抱き締めたいだけだがね。」
「ノーマンったら。」
「おい、俺を無視か?俺に物申した後は俺を放置か?」
ノーマンはその後も嫌がらせのようにジークを完全に無視をして私を抱き締めたりしていたが、私の寝室の戸口にディーナどころかイーサンとベイルまでもが現れたことで大きなため息をついてから私から離れた。
「王なら他にする事もあるでしょうよ。民の避難誘導とかね。」
「ああ、それは君達に頼む話だ。なあ、ベイル。君は俺の民を誘導することを受け持ってくれたんだよね。」
戸口にいるベイルは決意のみなぎった顔と、憧れの人から受けた頼みを全うして見せるという気概を見せて大きく頷いた。
「え、ベイルは古代兵器戦には参加しないのか?」
イーサンが素っ頓狂な驚きの声をあげた事を見れば、彼があんなにもベイルの身を案じて胃に穴が空きそうなほどだったというのに、彼は完全にベイルとジークに蚊帳の外にされていたらしい。
「はい!僕はジーク様に何度もお手合わせをしてもらって、まだ古代兵器戦に挑めるほどじゃない事を学びました。でも、僕にはかなり見込みがあるって!それで、頼りになる僕が民の誘導を引き受ければジーク様が思いっきり戦えるからとジーク様にお願いされれば、僕は、ええ、受けるしかありません。」
私はジークが人あしらいが上手だった事も思い出し、ジークに頼りにされたと喜ぶベイルの溌溂とした顔を見つめながらちょっと悔しいと舌打ちをした。
私とイーサンがどれほどベイルの身を案じていたのかジークに教えてやりたい。
そして、息子が即死する可能性がゼロになったはずのイーサンこそ、喜ぶどころか苦虫をかみつぶしたような顔でジークを睨んでいた。
「イーサン。補助にディーナを付ける。バルモアの兵士にベイルの邪魔をされたら敵わないからな。この場合はベイルが兵を切るわけにいかないし。」
「そこは後で話し合ってくれ。俺は今すぐに城に戻りたい。俺が今すぐに戻らなければいけない事情は立ち聞いていたんだろ。お前ら全員。」
「ええ!あなたがティアを夜這いにかけるつもりだってノーマンが勘違いしてくれたおかげで全部聞けたわ。あなたは五年前と変わらずに国を第一に考える素敵な王様なのね。」
「うるせぇよ!お前のせいで俺はあの日は必死でガーディアンと戦う羽目になったんだからな!お前が言うな!」
ジークはディーナを罵倒すると私の腕をがしっと掴み、今すぐ!と吼えた。
私は彼の望むように彼の城に飛ぼうとしたが、イーサンのついていくぞという号令の後の出来事に目を丸くするしかなかった。
ノーマンが私に抱きつくのは想定内でも、ベイルがジークの腰に抱きつき、ベイルにはディーナ、そして号令をかけた本人のイーサンがディーナの腰と、大きなカブを引っこ抜くときのように全員がくっついたのである。
「あ、ちくしょう、こいつら。いいよ、もう行っちゃって。」
「ええと!とにかく行きます!」
結局私の寝室になだれ込んでいた全員がジークの城の応接間へとテレポートしたが、ジーク以外の寝間着の彼らが武器など持っているわけはなく、私は繰り返されるデシャブにウンザリしながら金の魔法陣を展開させると、そこから彼等の衣服と剣を取り出して手渡し始めた。
そんな私達に目もくれずにジークは居間を出て行き、私こそ寝間着にローブ姿のままだったが、着替え始めた仲間を後ろに残してジークの後を追いかけた。
真っ暗な誰も住まない王宮は暗く、しかし住人であったジークは灯りなど無くとも地下への扉へと進み、彼の目的を果たすために地下の扉に手を掛けた。
「畜生、遅かったか。」
ジークは扉を開け放つと勢いよく中に潜り込み、風のようにして地下の階段を降りて行った。
私はジークを追いかけようと扉をくぐるところで、携帯用のランタンが壁にかかっていなかった事に気が付いた。
「誰かが先に入っている?」
「あいつは言っていただろ。古代兵器に血を与えれば命令をする事が出来るようになると。あの兵器を奪いたい奴はごまんといるだろう。」
「ああ、ノーマン!私は先に行くわ!あれは私達の失敗の結果なのだもの!」
「リガティア!」
私は地下の扉を潜り抜けて真っ暗な地下への階段へと躍り出ていた。




