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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
ゴンドラの竜の置き土産
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ゴンドラの竜と古代兵器と私達の愚かさの結果

 ゴンドラの竜はあの兵器を我が子のようにして守っていた。


 現在全長十メートルのあれは見つけた当時は確かに全長二メートル程の大きさでしかなかったので、あの油膜のように七色に輝く鱗を持った竜には自分の卵に思えたのかもしれない。


 実際、あの兵器が供えられた周囲には、竜のものらしき卵の殻や化石化した幼竜らしき骨も散乱していたのである。

 この世にたった一匹だけ残っていたあの雄の竜は、もしかしたらあれを彼の伴侶が残した最後の卵だと思っていたのかもしれない。


 そして、あの兵器があの場所にいた時は殆ど無害なものだった。


 竜の守る秘宝の中から見つけ出した時は瘴気など纏ってはおらず、何よりも六本の手足がまだ人のような形であったので、あれを古代に滅んだ民が信奉していた神様の像だと思ったぐらいだ。

 何しろ、目を瞑った赤ん坊のような顔は安らかで、可愛らしさや美しささえも感じられる造形であったのだ。


 ただし、ジークがあれに触れた時にあれは瞼をそっと開けて、岸壁を溶かして大きな穴を開けたのである。

 それはすぐに再び眠りについてしまったが、私達は見つけてしまった古代兵器の威力に驚き慄き、これの存在をギルドや世界から隠すべきかと共通の不安で目線を交わした。


 その気の緩みがバルマンをこの世から退場させてしまったのだ。


 竜を岸壁の空間内に閉じ込めてていた呪い、古代兵器をそこに隠した者による最後の仕掛けが岸壁内で弾け、まず、仕掛が動いた事をいち早く察したバルマンが私を突き飛ばした。


 私は助かり、彼は私が受けるべきクリスタルの矢に貫かれた。


 それを合図に次々とクリスタルの矢は私とジーク、そして死にゆくバルマンへと降り注ぎ、それだけでなく竜と兵器があった空間さえも砕く勢いでそこらじゅうの岩壁にさえ撃ち込まれて行ったのだ。


 なぜ私とジークは生き残ったのか。

 どうしてバルマンとの別れが静かな空間の中での出来事なのか。


 あの時の私達は崩れ落ちる竜の穴倉にいて、でも、そこにいなかったのではないのか。


 過去に魔族と虐められる私が逃げ込んだのはどこだったのか。



――辛いのならばやめましょう。

――いいえ、大丈夫。私の過去をなぞる行為なだけだわ。


 ゴンドラの竜の過去の一場面とリャンの宿屋での一場面が重なると、それは風を現わす大きな魔法陣として私の目の前に扉のように出現し、私はその魔法陣に次々と色が重なり、文字が追加されていくのを見つめながら、ハルメニアが私をエンシェント・ウィッチだと言った時の言葉を思い出した。



――すべての魔法、あなたの欲しい回復魔法だって、あなたがエンシェント・ウィッチになれば使いこなす事が出来るのよ。エンシェント・ウィッチは全ての時空を超越できる至高の存在なのだから。



 前半はハルメニアの嘘であったが、後半は本当なのではないか?


 今ここで、私の目の前で、次々と過去が重なっているではないか。


 全ての色を取り込んで魔法陣は透明になって消え、代わりに私が今も会いたいと願う失ってしまった人の姿を形どった。


「リガティア、俺にキスをしてくれ。」


 私の目の前には傷一つないバルマンが微笑んでいる。


「ああ、バルマン。いくらだってあなたにキスをするわ。」


 私は久しぶりの、私よりも一つ年下になってしまった若々しいあの頃の彼に抱きつき、彼はあの頃と同じ好ましい笑い声と彼の腕で私を抱き締めた。

 私を抱き締める彼の腕は力強く、それどころか蛇のようにして私に絡みつく。


「バルマン!」


 私を抱き締めて私を見下ろすのはあの古代兵器で、それは顔を歪めて笑顔のような表情を私に見せつけた。



 私は燃やされる。


「エレ、起きろ。俺を城に戻してくれ。」


 私がパッと目を開けると私の枕元にはジークの影がそびえており、表情は部屋の暗さでわからないが彼の声にはかなりの緊張感が篭っていた。


「どうしたの?」


「――忘れていた。餌の時間だ。血という睡眠薬を与える時間なんだよ。三か月に一回。ほんの一リットルほど。」

「あなた、一リットルって、死んでしまうじゃ無いの。」


「普通の人間でもそのくらいじゃ死なないよ。」

「でも。」


「いいんだよ。俺が甘すぎたんだ。俺の知らぬ間に馬鹿があれに生贄を捧げて、あれの目覚めを引き起こしたんだ。」

「ジーク?」


「いいか、血を与えればあれは目覚める。目覚めたあれはしばらくは血を与えた者の命令を聞く。俺が三か月ごとに俺の血を与えてやれば、あれは次の血を与えられるまで俺の待ての命令は聞いている。今のところはね。」


 そこで彼は自嘲するようにハハハと笑い声をたてた。


「ジーク。」


「数人の生贄の血であれは大きくなったが、俺の血で奴はさらに成長したんだよ。血を与え続けて奴の体がまた大きくなれば、俺の血はもっと必要になるだろう。そのうちに俺が確実に死ぬ血の量が必要になる。俺は奴を抑えるつもりで奴をさらに育てた上に、もうすぐ世界にあの破壊の神を解き放つ事になるんだよ。」


「それで破壊を望んでいるのね。」


「ああ。諦めていた時にお前が来てくれて良かったよ。無理なら女房とちびどもを連れて逃げてくれ。」


「本当の頼みがそれだったの?あなたは私に自己犠牲をするなって叱るくせに!あなたこそ自己犠牲の塊じゃ無いの!」



「俺は王なんだ。」


「そうだ。お前は王。王が民を捨てるのか?」


 静かだが揺るがない声が私とジークをびくりとさせた。

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