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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
ゴンドラの竜の置き土産
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最終兵器と悪党

 テレポート魔法の応用によって異空間を作り出せるか。

 空間を捻じ曲げるのであれば捻じ曲げられる空間はあるはずだ。

 そんな考えで何度か実践してみたが、テレポートの中途停止で送るべきものを歪めた空間で止めることは出来たが、そこに留めて置く事など出来ないばかりか、実験で送った小さな箱や人形は全て空間の中で圧縮されて粉々になった。


 これが人間だったらぞっとするという結果だ。


「ああ、どうしたらいいのだろう。」


 私はテーブルに突っ伏した。

 三日たっても私には解決策など見つけられないのだ。


 あの馬鹿勇者は自分の案に頑なに拘っており、出来るまで待つよと気軽に言い放って魔城に勝手に住み着いてもいる。

 古代兵器を見張るために彼一人が王城に残っていたという設定だったのではないのだろうか。


 それを尋ねた時、適当な英雄はやっぱり適当に答えたな、と思い出した。


         ――――――


「城内に入れば古代兵器の瘴気で死んじゃうか、赤ちゃん型化け物に変身するって国民は知っているから大丈夫。逆に他国に盗まれたらそこの国ごと破壊してやればいいからそれも問題ないだろ。大丈夫。」


「でも、あなたは王様なんでしょう。国に戻らなくていいの?」


「よそ者の俺はお飾りだよ。ああ、ありがたや。大事な国政は女房の従兄様が俺のいない場所で取り仕切って下さっている。」


 彼は義理の父という王様が崩御した事で本当に王様になっていたらしいが、王が生きていた頃と違って国政から全く蚊帳の外にされてしまった事に憤懣やるかたない状態でもあったのだ。


「一時の激情に君も流されるんじゃないよ。人の心は変わっていくんだ。変わっていかなければそれは死んでいる。だからね、自己犠牲ってするもんじゃないんだよ。わかっているか?」


 不可能な案の実現のために私に自己犠牲を強いている男に言われたくも無いが、ジークこそ古代兵器の封印の為だけに冒険を止めた勇者なのだ。

 最強の勇者がいる国を襲う者などいない。

 つまり、バルモアが古代兵器を他国に使う必要など無いという事だ。


「返事!」


 ジークは偉そうに私に声を上げ、私はその時は了解しましたと答えた。


         ――――――


 思い出して、むかむかした気持ちになっていた。

 今の私はバトルフィールドなど作れない憤懣と、ジークの身の上の真実と、それからノーマンへの気持ちなどがぐしゃぐしゃになっているのだ。

 溜まりに溜まったそのまま、ジークにその時は言わなかった本当の気持ちを机に突っ伏したまま叫んでいた。


「わかっているわよ!でも、白髪になっても答えが見つからなくて一緒になれないのなら、今思いっきり愛を確かめ合いたいの!ノーマンと愛し合えるなら生贄になる選択も私には魅力的なのよ!」


「一緒に答えを探しながら、常に愛を確かめ合うのはどうだい?」


 私は大好きな声を聞けた嬉しさに飛び起きそうになったが、数秒前の自分のふしだらな叫びを聞かれた事の恥ずかしさで恐る恐ると顔を上げた。

 まあ!

 戸口に立つノーマンは、無精ひげだらけという埃塗れの旅装束姿だった。

 それなのに、彼はとっても光り輝いて見える。


「まあ!あなたの虹色の瞳がピンク色に輝いて見えるわ!」


 私がこんなに誰かを幸せにできるのかと驚く程にノーマンは満開の笑顔を見せており、私は椅子から立ち上がると夢ではない現実の恋人に腕を広げた。


「お帰りなさい!」


 彼は戸口から私に飛び掛かるようにして私の前に来て、私を彼の胸元に押し込める勢いで強く強く抱きしめた。


「ああ、リガティア!ああ、君を愛している!」


 幸せのため息交じりという擦れた声で私の名前と愛を口にした彼は、私を抱き締めていた腕を一本だけ緩めて私の頬をその手で触れた。

 私はそれだけで体中がしゅんとなったのに、彼の手は私の頬を羽のようにそっと撫で下ろして私をさらにぞくっとさせた。


「ああ、ノーマン。私も愛しているわ。」


 彼の指先は私の顎を優しく持ち上げ、彼の唇を私の唇に重ねようと彼は私へ顔を近づけた。


 パシンと、大きく手を打ち鳴らした音が戸口で響いた。


 私達はゆっくりと音がした方へ顔を向けた。

 戸口に立つのは怒りのオーラを発散させているジークだ。


「じーく。」


「はい、そこでお終い。君がアンティゴアのノーマンか。エレと今すぐ結婚が出来ないのならば今すぐエレから離れてもらおうか。俺はジークィンド・クレイモア。この世で最高の英雄で勇者だ。馬鹿なこいつを弄びたいのならば、まず俺を倒してからにしてもらおうか。倒せるならね。」


 私達の邪魔をしたどころか、ジークは完全に私の保護者の気持ちになっているらしく、私達を咎めるためにずかずかと室内に入ってきた。

 ジークはノーマンが私から離れる様にノーマンをねめつけたが、ノーマンは私から手を離しはしても私を手放すどころか私の肩を抱いて自分に引き寄せた。


「はなれろ、と言ったのだがね。」


「俺達には君の知らない事情があるんだ。そして俺はリガティア以外の女性と結婚するつもりはない。したがって、遊ぶつもりなど一切無いのだから、俺達が離れる必要もない。」


「生贄無しで要石を動かすにはどうしたらいいの?俺に傷つけられて俺の顔も見たくは無いはずのエレが俺の所に来たのはそれが理由だ。お前はその時何をしていた?今日の今まで何をしていた?荒野で王様ごっこか?」


 ノーマンは私を抱く腕に力を込め、私はジークの酷い言葉に息をのんだが、私がジークに言い返す前にノーマンがとても静かな声を出した。


「ええ、荒野で王様ごっこです。今の俺は民に荒野しか差し出せない。」


 ノーマンはジークの言葉を返しただけだが、ジークはなぜか表情を少しは友好的なものに変え、なんとノーマンに右手を差し出した。


「それで新しい事が出来るとイーサンの誘いに乗ったのか。ようこそ、古代兵器討伐隊へ。だが、大丈夫か?古代兵器討伐隊ってことは、今回の戦闘は古代兵器相手だよ。古代兵器を君は壊した事があるのかい?初心者には荷が重いクエストだよ、大丈夫かい?」


 敢えて気遣うそぶりを見せたジークの言葉にノーマンはかっと頬を赤らめ、私はジークがわざと盗賊連中を怒らせて死体の山を築いた過去を思い出した。


「あ、ノーマン!ディーナやアシッドも来ているのかしら。ドゥーシャはお子様たちに再会できて?さあ、ベイルもあなたに会いたいと思うわ、居間に行きましょう!」


 私がノーマンとジークを引っ張って居間に行ってみれば、そこで私達を待っていたのはディーナ一人だけだった。

 今回ノーマンが帯同したのはディーナだけだったのだ。

 その理由は、再会した幼い子供達に父親であることを忘れ去られていた事でドゥーシャが使い物にならなくなったからであり、アシッドが来れないのは彼がディーナの身代わりに赤伯爵家の婆達の餌に放り投げられたからだという。


 ノーマンの簡単な説明にディーナは天真爛漫風に笑った。


「しょうがないじゃない。ドゥーシャが家族団らんしたいのに、ドゥーシャの母の気持ちのあの婆達が始終邪魔ばかりするのだもの。私からの優しさよ。」


 私はアシッドこそ優しさを欲しがっている気がした。

 そして、ジークはディーナの美しさや彼の素晴らしい笑顔に勘違いした普通の男達のように赤くはならず、それどころか畜生とだけ呟いた。


「何が畜生?」


「こいつを見たことがあったと思ったら、バルキアの糞野郎だ。」

 ジークは憤懣やるかたない様子でディーナを指さした。


「糞野郎って、面識があったの?」


「五年前だよ。こいつはバルキアの古代兵器を持ってバルモアの領地に侵略に来たんだよ。で、こいつは俺を見るや俺に剣を向けるどころか持ってきた兵器を置いて逃げた。何が、暴走しちゃったの、ごめんね、だ。」


 ディーナは嬉しそうなニヤニヤ顔をジークに向けていたが、ジークは当時の事を思い出して憤怒が吹き出したのか、ガツンと一人掛けのソファを蹴り飛ばした。


 ソファはノーマンの眼前に吹っ飛び、しかし、彼にぶち当たることなくソファは綺麗に二つに割けてノーマンの両脇にそれぞれが落ちた。


 ノーマンの力自慢的な剣技だからなせる業である。


 ノーマンは剣を振り下ろした姿のままジークと目線を合わせると、やって見せたという風に口角をあげてニヤリと笑った。


「バルキアの半壊はお前の仕業か!もともと古代遺跡に町を重ねて作っていた国だったが、ある日突然老朽化による瓦解なんぞ不可思議だもんなあ。俺が壊したあの兵器は町の根幹を守るガーディアンだったのか!」


 ノーマンはディーナがしているような嬉しそうな顔を作り、虹色の両の瞳を晴れ上がりの虹そのもののように煌かせた。


「さあてね。俺は古代兵器には疎いもので。」

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