古代兵器討伐隊
バルモア王宮地下で古代兵器と戦う事に私はしぶしぶだが承諾してやったのに、王宮が自分の家でしかないジークは、家が壊れたらとっても困ると私に無理難題を言って来た。
「バトルフィールドの作成を頼む。ほら、古代遺物ごと別空間に移動させてだな、そこで解体処理ってどうかな。無理だったらその異空間に置いてきぼりでいいんだし。ハハ、俺って冴えているよね。」
「冴えている?思いついた事を取りあえず言ってみただけよね?寝言は寝てから言ってくれる?」
「君は大魔女だろ。ハハハ、大丈夫、やれる。やれるって。」
ジークは大物っぽく私の肩をバンバンと叩き、今日やるべきことはやったような顔で、自分ちではない魔城の居間のサイドボードにある酒瓶を勝手に取り出して飲み始めようとしている。
ノーマンが私をそこいらの小魔女ぐらいに考えて必死に守ろうとすることに憤慨ばかりだったが、出来もしないことをやれと言い張る英雄を目の前にして、ノーマンの心遣いに対して反発していた自分を殴りつけたい気持ちばっかりが湧き出ていた。
いや、殴りつけたいのは私の美化された思い出を斜め下に修正ばかりさせる生きている伝説に対してか。
「ねえ、リジーはこんな感じで冒険していたの?あの英雄譚は実はいつもこんな感じだったの?ジークさんがあんなんだから、あの人の英雄譚はどれも奇想天外で他にはない内容なの?」
ジークの英雄譚を読み漁り、実はジークにかなり心酔していたらしきベイルは、世界が壊れた様な不安そうな面持ちで私のローブを引っ張ってきた。
私は今ならベイルをこの戦闘から除外できるような気がした。
彼は自分も古代兵器の破壊に加わりたいと言い張ったのだ。
ジークとバルマンが今のベイルと同じ十三歳位で冒険者となったという事実を持ち出して、自分だって自分の力を試したいとまで言い切ったのだ。
その時イーサンは彼自身も十三歳で初陣を迎えた過去を指摘されてベイルを止める事が出来ず、彼はベイルを抑える望みを私にかけた。
イーサンの頼みが無くとも私こそベイルを止めたいと説得を試みるつもりだったのでそれは構わないが、私が反対をした事でベイルが尚更に引くものかという気概を見せてしまったのは皮肉なことだ。
「いいんじゃないの。壊し屋エレは回復魔法が使えないからね、死んでもいい覚悟があるなら参加しなさい。俺は君を守らないし、エレにも君への配慮はさせない。君の命は君だけが責任を持つんだ。それでも行くか?」
瞬発力だけで飛び出して私とバルマンが必死で補助していた過去をすっかり忘れ去っている男は先達者らしいことを口にして、そして純粋無垢な冒険者志望の少年は真っ青な瞳を決意に輝かせながら適当男に頷いたのである。
「行きます!」
イーサンはベイルを煽っただけのジークに殺気を向けていたが、私こそベイルに何かあったら最終兵器男をぶち壊してやるつもりだ。
「ちょっと、君。俺をあんなんって酷いよ。」
「目を開けているのに寝言しか言わない男にはあんなんでいいのよ。」
「なにおう?」
私のローブはベイルに引っ張られ、ベイルは私の横からジークの前へと出た。
「すいません。あなたをどう表現していいのか僕は時々わからなくなりまして。」
「普通に素晴らしきジーク様って言っておけばいいよ。じゃ、エレは頼んだよ。で、君は巨大な化け物と戦った事は無いね。よし、俺が対巨大人外戦を仕込んでやるからおいで。」
「はい!ジーク様!」
純粋な少年は体を動かしたくなっただけの適当な男に連れ去られ、私には無理難題だけが残された。
ああ、結局ベイルを説得するタイミングをまた逃してしまった。
「バトルフィールドは作れるのかな。」
「そんなもの作った事は無いので少し時間が必要です。」
「出来そうってことか?凄いな。」
「出来るか探る時間がまず必要。それから出来ない場合のジークの説得時間が必要って事です。」
「あんな感じで君達は冒険していたんだ。」
「ふふ。ベイルと同じ質問ですね。ええ。でもあの頃はバルマンがいたから。彼がジークの暴走を止めていたから何とかなったのでしょうね。」
イーサンはジークを止められない事でうーんと唸った。
彼は息子になったベイルに髪の毛一筋の怪我が出来るのも許せないぐらい、ベイルに対しては過保護この上ないのだ。
だからベイルは尚更に戦いを望むのだろうか。
「ご安心なさって。完全回復魔法がハルメニアのサービスなのか杖に一つだけ入っていました。それに、ベイルに何かあればすぐに彼をこの魔城にあなたと一緒に送ります。ハルメニアを絶対に呼びよせられる自動魔法をベイルの身体にはかけてあります。」
「ああ。君は本当にありがたい。ああ、少しはホッとした。ただし、あの子がたった一撃の攻撃で即死してしまう事だってあり得るんだよね。」
「ええ。あなたもご存じなように古代兵器戦ですもの。」
「リジー。君にはすまないが、わしは勝手にノーマンを呼んだ。ベイルの補助の為の戦闘依頼で一億バイツでね。」
「彼の到着は?」
「三日後だ。」
「わかりました。」
「怒らないのか?彼の身の危険もあるのに、わしは勝手に呼び寄せたのだぞ。」
なぜかイーサンは私が怒る方を期待しているような言い方をした。
「君には一欠けらも彼への心が残っていないのか?」
「え、だって、彼は国の復興しか考えていないもの。復興資金の為に危険な傭兵仕事に出るか、黄色の石の為にフォルモーサスの攻略に行くでしょう。あなたの依頼で彼にお金が入って、そして、私が彼を守れる場所にいられるのなら、ええ、彼に会えるのに私が怒るはずなどないでは無いですか。」
イーサンは私に驚いた顔を見せた。
「君はノーマンを捨てていなかったのか?奴は自分から別れ話をしたくせに君に捨てられたと酷く落ち込んでいたぞ。」
「あら、生贄じゃない他の方法を見つけるって私は彼に言ったはずじゃあ……。」
「それはわし達も聞いていたが、君はメテオを落とし始めるや完全に姿をくらませて消えてしまっただろう。彼は一週間はここで君の帰りを待っていたんだよ。」
「あ。まあ。あら。」
しまった、私はメイゼルへのメテオ落としでかなりハイになっていたかもしれない。




