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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
ゴンドラの竜の置き土産
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初恋の人

「さいあく。国際指名手配の暗黒魔女様を俺が引き受ける事になるなんて。もと英雄の戦士様の剣にかかりに来たのかな。俺は君に二度と顔を見せるなと言ったはずだけどね。」


「覚えているから昔の恨みを晴らしに来たの。十二歳の女の子を弄んだ勇者様だなんて、あなた、世界中に喧伝されたくは無いでしょう。」


 赤っぽい金髪に金の混ざった緑色の瞳をした美男子は目玉をぎろりと動かして、私に対して全く友好的ではない睨みを利かせた。


「ふふん。怖くは無くてよ。あなたはただの勇者様。私は人ならざる者の力を持った大魔女様ですもの。ええ、戦ったらあなたが勝ちますわね。でも、この王宮を粉々にしてしまうぐらいはできます事よ。」


 私はくすくす笑いながらジークを揶揄ったが、揶揄いながらハルメニアの猿真似しかできない自分を情けなく思ってもいた。

 しかしジークは私に怒りを持った視線をしばし向けていたが、すぐにニコッと、それは英雄時代に行く先々で全ての人を誑し込んでいた笑顔を作って見せた。


「まあ、考えれば美味しい話だ。俺はどうやら君をようやくいただけるって事だね。十九歳の今の君はあの頃の君が成り切っていた仮面の女性よりも美しいよ。ああ、バルマンは今の君の方が好みだろう。」


 私はやっぱりハルメニアになどなれなかった。


 ジークの口にしたバルマンの一言で私の両目は涙を吹き出してしまい、私はジークにハルメニアがするように嫌がらせをするどころか、彼に涙を流しながらごめんなさいと謝るしか無いのである。


「あ、ああ、ごめんなさい。あなたの大事な人を死なせてしまってごめんなさい。ああ、私が大人の振りなどしなければバルマンは死ななかったのよね。」


「ああ!ちくしょう!」


 ジークは激情のまま叫ぶと、なんと、私を抱き締めた。


「ジーク。」


「ああ!畜生!俺は君を愛していた。五百歳の魔女が本当は十二歳だって?ああ、君には落ち込ませてもらったよ。だが、あの時の俺だって十八歳だ。やりたい盛りを除けば君を数年待つぐらいなんてことは無かったさ。ああ、俺は君を恨んではいない。それなのに、バルマンを失った辛さを幼い君にぶつけてしまった。」


「ごめんなさい!私はずっとあなたに謝って許されたかったの!」


 ジークの私を抱き締める力は強く、しかし抱きしめられながらもジークの腕も肉体も私に性的なものは無いと気が付いていた。

 私こそジークの腕の中ではノーマンに感じる胸のときめきも無いのだ。

 愛だ恋だと言っていたあの時だって、命を賭けて一緒に戦った私達は家族のような間柄でしかなく、私達の中核となったバルマンを失った事で私達家族はばらばらになっていただけなのだ。



 私達は初めてクエストが失敗した時のように、悔しさで三人で泣いた時のように、彼は十五歳の少年でもないし私は九歳の幼女でもないのに、あの日と同じ子供のようにしてわあわあと声を上げて泣いていた。

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