天道虫のお導き
てんとう虫は菜の花の茎についたアブラムシを食べながら、のそのそと上へ上へと登っていく。
そうして天辺に辿り着いた時に、それはお天道様目指して飛び立つのだ。
高みへと、さらなる高みへと。
「あなたは本当にてんとう虫が好きね」
私の上に影と優しい声が落ち、私は母へ顔を上げていた。
逆光になって顔がはっきりと見えないが、影でしかないこの女性は私の母だ。私にとって一人だけの家族であり、彼女しか私の世界には存在していなかった。
私と彼女しかいない世界でも、私は彼女が大好きだから全くかまわない。
彼女の言葉に返事をする行為だって嬉しくて堪らない程なのだ。
「ええ、好きよ! だって、てんとう虫って、小さくて真っ赤な体に可愛らしい水玉まであるのだもの」
「そうね、でもあなたは太陽に弱いのだから、絶対にローブを脱いではいけないわ。白い肌が火傷をしてしまう」
私は真っ黒な闇夜のようなローブを肩に再び掛け直すと、渋々という風にフードまでも深くかぶり直した。
ああ、こんな風に地面で黒い団子になるのではなく、私もテントウムシのように太陽に向かって飛んでいきたいと思った。
「いいこと? 絶対にローブは人前で脱いではいけないのよ」
厳しさも含んだ声音に私はぞわっとして母親を見返したが、彼女の姿は消え去っていた。
「おかあさま」
私は母の姿を捜し、ぐるりとあたりを見回した。
世界が変わっていた。
菜の花畑も黒く茶色く焼き払われている。
ああ、私と母だけの世界は、見たことも無い沢山の人間達によって粉々に壊されていくのだ。
母の肉体は火柱の中にあった。
――――――
私はパッと目を開けて、自分の両目が涙を流していたと両手を頬に当てる。
そして私の目が捕らえるのは宿の天井だと知って、私はほっと溜息をついた。
どこまでが夢でどこまでが本当かわからなかったが、私が宿屋のベッドの中にいるのは事実である。
ハルメニアが薦めた通りに、ノーマン達を次に目指させるのは私の生まれ育った家でなければいけないのも、違えてはいけない事だと認めるしかなかった。
「そうよね。私が木の股から六歳くらいで生まれない限り、私はどこかで生まれて私を育てた親だっていたはずなのよね」
――ローブは絶対に脱いではいけない。
私は守っていた。
ずっとローブは着ていた。
バルマンが亡くなってからした事は、フードを深く深く被って顔を隠すようにしたことだけだ。
私は母の言いつけを守り、母の魔法の掛かった魔法のローブをずっと着ていたのだ。
知らず知らずに私は魔法を手に入れたわけではなく、母の形見のローブには、母の魔法がダウンロードされていたのだ。
母の形見のローブから、私は魔法を引き出しながら魔法を習得していたのであったのだ。
「みんなを私の過去に連れて行ってどうなるのかわからないけれど、ハルメニア、あなたはそうしないといけないと言っているのね」
葉っぱの化石の入った琥珀の指輪は母の形見だ。
いや、違う。
あれは父の形見のはずだ。
死んだ父の指輪だと、母は左手の親指にその指輪を嵌めていたじゃない




