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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
エンシェント・ウィッチ
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魔女は人の人生に手を加える者

 この世界の兵士というものは給与を支給されてもいるが、その実それは国民としての兵役という義務の延長でしかない。

 義務でしかないのならば給料は雀の涙ほどでしかなく、兵士という職で食べていくには進軍先での略奪や軍功をあげての褒美に頼るしかなくなる。


 貧しい国の一つであるガベイの国であるならば、兵士達が好戦的であるのは、生きるための略奪行為を必要としているからこそだ。よって一歩国外に出たならば、奪えるものを奪えなければ国に戻るはずは無い。


 ガベイはその略奪行為があることを知っていたからこそ気を付けて進軍をさせていたが、荷物持ちだと兵士が連れてきた村民が虐殺された村の生き残りであったとは気が付いていなかったそうだ。



 宿に戻って彼の怪我を手当てしようとした私に手当はいらないと断り、だが涙を流しながら彼は自分の愚かさを告白し始めた。

 私も一応は元ギルドの魔法使いで、ギルドのポータルを使って様々な国の戦場に足を運んだこともあるので、ガベイの語ることは普通に理解できた。


 ノーマン達がこの世界の基準で行けば高潔だと言えるのだろう。


 しかし、こっそりと要石を盗んでいたことや、兵隊では一番許されない隊から離れるという行為を繰り返していた事を考えれば、彼等はフォルモーサスの兵隊が単なる仮の姿でしかなかったとも言える。そんな彼らが普通の兵と同じ行動を取るわけが、そもそも無い、のだ。


 けれども、ノーマン達を高潔だと感銘を受けた王子様は、略奪に明け暮れるだけの国に戻りたくないと言い張るのである。


 王子ならば自分の国を立て直すべき、という考えのノーマン達には一番言ってはいけない言葉だ。だが、植物を育てるだけで外を見たことが無かった純粋な王子様には、自国兵による虐殺は、耐えられない現実であるのだろう。


「僕には自分の国をどうしていいのかわからない。あなた方と一緒にいれば国をどう変えて行けるかわかるかもしれない。あるいは、国が豊かになれば略奪などしなくなります。我が領地でも育てられる食物をあなた方の旅についていくことで手に入れたい」


「ハルメニアにそれを頼んだらいかが?」


「今すぐは駄目です。この状態でハルメニアから食料を得れば、もっとあるはずだと国は侵略に動きます。今回だって、ハルメニアの苺が食べたいと妾の一人が父に囁いた事で起きた進軍です」


 貧しい国と言いながらも、妾が数人もいる国王にはぞっとしない。くたばれと思う。ガベイを王にしたら、意外と良い王になるのではないかしら。

 いや、もしかしたらこれこそハルメニアの仕掛けなのだろうか。


 今後もベザールからハルメニアの領地へ進軍する兵は何度も出るだろう。

 その度に好戦的で略奪の好きそうな王子とベザールの国庫の中身を減らしていき、ベザールが疲弊しきった所でガベイを救世主としてベザールに戻す。


 ハルメニアにとっては安全で友好的な国が増えた事になり、ベザールはハルメニアが後押しをするガベイによって食に関しては確実に満たされる国となる。


「うわ、きっとそうだわ」



「どうしました? ティア?」


 私はノーマン隊の脳みそであるドゥーシャの袖を引いて部屋の隅に連れて行くと、彼の耳に自分の考えを囁いた。


「どうかしら? 穿ち過ぎ?」


「おそらく、あなたの考える通りでしょう。では、我々は彼女のシナリオ通りに動くかどうかという選択肢で、ええ、あの女狐、選択肢は彼女の思惑通りに動くしか無いのですね」


 ドゥーシャはアンティゴアを再建した後のことを考えて、やはりガベイと同じく食べ物のことを第一に考えたのだろう。

 アンティゴアの大地で育てられて金になる植物の苗を手に入れられれば、その食物の代りにアンティゴアは国民の為の小麦などを手に入れられるのだ。


「陛下、ガベイをしばらく同行させましょう」


 ノーマンはドゥーシャの言葉に眉根を潜め、だが、ドゥーシャではなく私に対して歪めた顔を見せつけた。

 顔には、お前は何を考えているんだ、と、しっかり書いてあった。


「いいじゃない。世界を見ることはいい事よ。恐らく、このまま彼を国に戻したら自殺しちゃうでしょう。あるいは処刑されるか。寝覚めが悪いじゃない。だから、ちょっとだけ適当に連れまわしてあげましょうよ。その後はどうでも、いい夢見せてあげたって気になれるじゃない?」


 ドゥーシャはブッと吹き出すや口元を押さえて後ろを向いたが、激しく肩を上下させていることで笑いの発作に耐えているのだと一目瞭然だ。

 ノーマンは、お前は何を考えているんだ、と書いてある顔を再び作って私に見せたが、今度の顔は私を責めるよりも私が信じられないと言ってもいるような顔だった。


 ガベイを散々いたぶった悪人に更なる悪人認定をされたようで少々悔しい。


「まあ! さすがティアだわ。私はあなたのそういう真っ黒ちゃんな所が堪らなく好きよ。純粋な悪い子って素敵だわ。ほら、ごらんなさい。あなたを信じてあなたを命綱に考えていた男が、いまや絶望の淵にある」


 ディーナが指さした先は当たり前だがガベイであり、ガベイは、ががーんという文字が読める表情を顔に浮かべていた。


「あら、まあ。でも、私の目の前で裏切り行為をしたらそれなりの戒めはするつもりですわ。ええ、私が彼を監督するつもりですから、最初に従うべきは誰かを知った方が良いのかもしれないわね」


「ああ、本当にぞくぞくするぐらいな悪い子ね。ノーマン、私は賛成。私がティアのガベイ監督の補佐をする。悪さをしたら私がビシバシするから大丈夫よ」


「あ、俺もそれに参加したい! リガティアの判断基準が知りたい! 俺達には怪我一つしないでって言うくせに、敵には物凄く冷酷ですからね。その線引きはどこからなのか知りたいじゃないですか!」


「え、アシッド、私はそんなに酷かったかしら?」


「ひどいですよ。私も言ったでしょう。あなたの行動から私は今まであなたが利己的な人間にしか見えなかったと」


「まあ。私はやっぱり自分の行動規範を見直すべきなのかしら」


 冗談めかして私は言っていたが、言葉通り私は自分の今までの行動を見直さねばならないと感じていた。ハルメニアが望むように、私はエンシェント・ウィッチとして力を行使できるようにならなければいけないと強く思うから。



――完全なる魔女になった時、あなたは全ての魔法を手に入れる事が出来る。


 彼女は本当に魔女だ。

 たった一言の囁きで私の人生の手綱を私の手から奪ってしまった。



 私は百の攻撃魔法よりも、たった一つでも回復魔法が欲しい。

 回復魔法を持っていたら、バルマンは死ななかった。

 きっと。

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