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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
彼は王の旗を背負うもの
32/106

ノーマンを救わねば!

 私はレンズを北側一面に散々に浴びせ、そして、ディーナへの攻撃手が増えないようにと、瓦礫を積み上げて炎の壁を大きく燃え立たせた。


「さて、次はノーマンこそね。どうして彼等はこんなにも地上の騒ぎに無頓着なのよ!」


 私が憤るの当り前だろう。


 ノーマンの担当らしき拷問官、三人もいてそれぞれが体重も身長もノーマン以上にあるという大男どころか巨人のような彼等は、他人を痛めつける事だけが楽しみであるようで、厭らしい笑い声を立てながらノーマンを牢から引き出した所だった。


 両腕を鉄の輪で繋がれたノーマンはなすすべどころか、牢から引き出すために鎖を外す時に鳩尾を強く殴られていたので意識を失っているのだ。

 彼は子供のように拷問官の一人に抱きかかえられて、彼を戒める処刑台らしき歪な台へと誘われているのである。


 遠視している私はぎりっと奥歯を噛みしめた。

 私はここから動けない。

 逃げてくるディーナとノーマンの脱出用の扉とならねばならない。

 私がここにいて防御ともなる空気の圧を青の魔法陣によって維持しているから、私の待つここはフォルモーサスの兵士が立ち入ることのできない安全地帯なのだ。


 ディーナは牢の一階に馬ごと乗り込み、ああ、一瞬でそこにいる兵士達を切り刻んだ。


 私は彼の安全のために彼が侵入した入り口を茨で覆った。


「ありがとう。ティア。さあ、馬鹿大将の所に向かうから、この子の安全もお願いね。ノーマンを乗せて逃げる役割があるんだから。」

「ええ、任せて!」


 地下への扉が大きく飛び跳ねる様に開き、侵入者であるディーナを殺戮に来た兵隊が飛び出した。

 しかし、ディーナはその三人も風の一陣が起きた様な剣技で切り刻むと、自らがその奈落への階段を駆け下りて行った。


「頼むわ。ディーナ。」


 私は再びノーマンへと意識を向けた。



 ああ、彼は無理矢理に処刑台に立たされている。

 彼をその台に完全に戒めようと皮のベルトがノーマンの胴体に巻き付けられ、いや、そこで起きるはずのない事が起きた。

 ノーマンの胴体を縛ろうとしていた男が、大きな風が起きたかのようにしてノーマンから弾き飛ばされたのだ。


「あなた。意識があったのね。」


 ノーマンは自分の両腕を戒める鉄の輪を武器とした。

 彼はその鉄の輪が付いている腕によって、拷問官の無防備な顎をしたたかに打ちのめしたのだ。

 しかし、拷問官は三人もいたではないか。

 残る二人は昏倒した仲間の為にいきり立ち、一人はノーマンの肌を裂いたものだろう鞭を取り上げ、一人は大きな松明の中に入れていた焼き鏝を手に取った。


「ああ、彼の両腕を楽にしなければ!」

「これで頭の皮も剥いでやる!」


 ぎゅんとしなった鞭はノーマンを直撃した。

 が、その鞭はノーマンを打ちのめす前に粉々に砕け散った。


「ああ、どうしたんだ!」


「ああ、こいつは魔法使いのはずでは!」


 ノーマンは白い炎が燃え立つようなオーラに包まれており、それだけでなく、長い髪をした美しい女性体の白い精霊が彼を守るようにして彼の後ろから抱きついていた。


「まあ!凍らせた鞭をその鉄の腕輪で殴って砕いたのね。では、私は焼き鏝を持つ人でなしを受け持ちましょう。」


 焼き鏝を持つ大男の足元に真っ赤な小さな魔法陣が一瞬瞬くや、焼き鏝の先はさらに熱されたようにして真っ赤に染まり、ぐんにゃりと溶けた鉄が拷問官の手に降りかかった。


「ぎゃあああああああ。」

「ああ、ちくしょう。」


 未だに無傷な拷問官は仲間二人が使えなくなったと知るや身を翻し、室内にあった太い紐を強く引いた。

 ガランンガランガランガラン。

 錆び付いた大きな金属の鐘の音が鳴り響き、拷問官は鐘の音に負けない位の大きな声で叫び声をあげた。


「反乱だ!罪人が暴れ出した!」


 拷問部屋の扉は拷問官の叫びと共に開き、深くローブを被った新たな拷問官と剣を持った兵士がそこから室内に飛び込んだ。

 深く被ったフードの下からでも右側の顔に太いリボンの模様のように様に掘られた紺色の刺青の模様は隠しようがなく、また、彼の隣に控える剣士の宝石のような瞳の緑色の輝きも隠し通せるものでは無いだろう。


「ああ、お前達!なにも――。」


 拷問官はその先は言えなかった。

 二メートルはありそうな丸太のような拷問官の胴体が、突進してきた剣士によって一刀で両断されてしまったのだ。

 アシッドのその細身の身体では想像できない剣技である。


「陛下。俺の背に。」


 ドゥーシャはローブを脱ぐと、しゃがみこんでノーマンに背を向けた。

 子供を背負おうとしている親のような姿に、やはりノーマンはプライドが刺激されたのか納得できないという風に顔を歪めた。


「ダマスクス、いや、歩ける。それから、国も無い男を陛下って呼ぶな。もう隊長でもないしね。ノーマンでいいよ。」


「いいえ。こんな馬鹿なことを相談も無く今後なさらないように、御身をもっと大事にしていただくために陛下と呼ばせてもらいます。さあ、背に。」


「ちくしょう。」


 ノーマンは口では大丈夫と言っていたが、実際には立ってもいられないぐらいに打ちのめされていたのだろう。

 彼はドゥーシャに促されるままに彼の背中に覆いかぶさり、ドゥーシャは彼を背負うと彼を隠すようにしてローブを羽織り直した。


「さあ、行くぞ。クレス、露払いはお前に任せる。」


「いや、俺は後ろがいいですね。切り込み隊長の登場です。」


 戸口には敵の血で真っ赤に染まった真っ赤なディーナが丁度到着した所で、彼は仲間との邂逅を知ってにやりと鬼気迫るほどの笑みを浮かべた。

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