ベッドの中の傷ついた男
私は自室のドアを静かに開けた。
目が覚めていれば、と考えていても、かなり痛めつけられた状態のノーマンが休んでいられるのならば、休ませてあげたいとも考えているからだ。
けれど、数センチ開けて見えた部屋に中の様子によって、私はかなり乱暴にドアを開けてしまっていた。
「何をやっているの!あなたは!」
紫色に赤色と青色に黄色もと、内出血して腫れているカラフルな色合いの顔をした男は、顔と同じぐらい色とりどりどころか鞭によって皮まで剥けている体に、自らも体に鞭打って起き上がっていた。
そして、そんな体でどこに行く気か、彼は服を身に着けようとしているという最中だったのである。
ええ、裸に服を着るのは構わない。
だが下着姿の彼が手にしている服は、金属で編まれている鎖帷子だ。
振り向いたノーマンは私に見咎められてしまったという表情に顔に歪め、だが直ぐに私から顔を背けると私に背中を向けたまま、俺は行かねばならないなどと口にして格好つけた。
私は彼に大きく呆れたと息を吐くしかない。
本当にこの人は王様属性の何者でもなかったのだ。
彼が欲していたのは美姫なんかではない。
フォルモーサス城を支えている石の一つ、アンティゴアにあったはずの要石を盗み出そうとしていたのだ。
あの恋煩いだけが人生のペネローペ姫によって地下牢獄に落とされる事も計画のうちであり、近衛連隊長にまでなった人間への扱いは通常の罪人に対するよりも甘いと見越して、通常だったら降りる事の出来ない地下牢獄にわざと彼は落とされたのであろう。
「こんな怪我して終わりって、俺の十年の意味が無いだろう。俺はアンティゴアの石を取り戻す。取り戻さなければいけないんだ。」
「この馬鹿者が!想定以上に痛めつけられて死ぬところだったんじゃないの!十年待ったのだから、あと少しぐらい待てるでしょう!」
「待てないんだよ!俺の民はもう半分以下に減ってしまった。生き残っている者達は半分以上が奴隷のような扱いだ!奴隷に落とされたディーナやドゥーシャは生き延びてくれたが、彼等は一生の傷を負っているじゃないか。土地は戻ってきた。あとは石だけなんだよ!俺の民はもうギリギリなんだよ!」
「あなただってギリギリじゃ無いの!あなたこそギリギリじゃ無いの!」
私はノーマンを叱り飛ばすどころか、金切り声で叫ぶだけだった。
私は数時間前の彼の危機を思い出したからだ。




