過去と現在と未来でのあがき
人間は神によって作られ、神の御心にそって生きるのがこの世の理だ。
つまり、神が人に望む以上の力や技を手にした者は神の意から外れた存在でしかなく、神に仇なす魔でしかないという事になる。
対象者の神への愛の大きさなど全く加味されない。
無力かそうでないか、それだけなのだ。
私は幼少時より魔法力に発露があり、誰にも教わらずに様々な魔法をすぐに使いこなす事が出来た。
外見と魔力の組み合わせによって魔物として追われるのは仕方がない事であるが、その能力の為に何時でも生き残り、それほど飢えることも無く生きて来れたので、私は自分の能力に関しては捨てたいと思った事は一度もない。
能力が無ければ簡単に殺されていただろうし、銀灰色の髪がただの金髪で、青紫の瞳がただのブルーだったら、初潮を迎えるや売春宿かどこぞの金持ちの妾に売られていただろう。
同世代の後ろ盾のなかった少女達のそういった不幸を様々に目にしてきたのだから、私は疎まれるこの身の上で良かったとさえ考えてもいる。
それでも、バルマンが身を挺して私を守って死んでしまった時には、私はどうして自分はこんな人生なのだと生まれて初めて神を恨んだものだ。
バルマンは最後の口づけを私に望み、私はそれを彼に与えた。
ジークとは一度もキスなどした事は無かったのであるからして、私には生まれて初めてのキスだった。
自分を生んだ親の顔も知らない孤児だったのだから、これは本当のファーストキスだったと言えよう。
彼は幸せそうに最後の吐息を吐いて力を失ったが、私も彼の死によって自分自身にかけていた魔法が解けてしまった。
彼の死を嘆く私は十二歳の子供の姿でしかなく、当り前だがジークは私が彼を騙していた事をその場で知った。
ジークにキスも何も許さなかった理由を知っただけではなく、私が十二歳の姿のままでいればバルマンは死ななかったと私を責めたのだ。
「私がいたからドラゴンを倒せたくせに!私がいなければあなたはドラゴンを倒せなかったくせに!」
「君が子供だったら俺達はドラゴンを倒しに来なかった。そんな危険な冒険に子供を連れてこなかった。俺達は君が大人になるまで守っていたよ!」
「あなた方に守られなくとも、私は自分の身は自分で守れたわ!私はあなた方と会う前から大魔女エレメンタインだったじゃ無いの!」
私はあの時「ごめんなさい。」をジークに繰り返すべきだったのだろう。
彼は私への愛も親友も失ったのだから。
でも、幼い私はジークに裏切られて傷つけられたとしか思えず、バルマンならば無条件で自分を許してくれそうだと考えて、ある考えに固執したのだ。
すなわち、蘇生の法。
人がやってはいけない禁呪だ。
私は首が完全に切り離された遺体は無理でも、剣が刺さって死んだばかりの人であるならば連れ戻せるかもと賭けに出た。
魔法を重ねていける私ならば、もしかして、だ。
ラガシュ城主、ハルバート・ラガシュをこの世に呼び戻すのだ。




