依頼を受けたら行くしかない
旅費も出す、一緒に旅行をしてくれるだけでいい。
浅はかな私はノーマンの申し出を受けてしまっていた。
中立都市とも呼ばれるこの町シュクデンはクロ―ドリア近接であり、今すぐに旅立っても明日の昼には戻って来れるとノーマンに言い張られれば、私は仕方がないと受け入れるしかない。
実は、酒場を出た後に彼は本当の依頼を私にしたのだ。
「クロードリアの国境に俺を入れるまで二時間ぐらいでしょう。その後は君は好きに帰っていい。俺はクロ―ドリアに入りたいだけなんだ。」
「そうね、私は行って帰って丁度四時間ね。ええ、最初からそう言う依頼ならって、違うわね、あの国は女性同伴で許されざる恋に関して結婚証明を与えることで外貨を稼いでいるから、あなたと私が恋人同士である必要があるのね。」
他国の有名な魔女と王族を守る任につく近衛兵など、許されざる過ぎる組み合わせであると言えよう。
「そう。お願いだ。まず前金の五千バイツを君に渡す。残りはクロ―ドリアに俺が入った後に。」
彼は銀貨二枚の入った小袋を私に手渡し、私はその小袋を受け取った。
「よろしくてよ。四時間の依頼をお受けします。」
私の返事が当たり前のように車輪の音がガラガラと響き、私が断るわけ無いと分かっていたという風にノーマンはその馬車のドアを開けた。
「さあ、乗って下さい。」
彼は私に対して本当の恋人に差し出すように右手を差し出し、私はこれ以上ない位に真っ直ぐに見つめる男性の手に自分の右手を差し出した。
すると、ふわっと私の身体は宙に浮くようにして支えられて馬車に乗りこまされており、近衛兵という王子や王女、あるいは美しき王の寵姫たちをもエスコートして来ただろうノーマンの一面を見た様な気がした。
彼は騎士としても最高なのかもしれない。
こんな魔女風情に対しても敬意を持ってくれるのだから。
ただし兵士としては、どころか、普通の男としても最悪だ。
馬車の内部は女心の何一つ加味していない、自分の目的だけで作られているというものだったのだ。
「このあからさまな戦争に行きますって状態はなんなの?もう少し隠すって事を考えたらいかが?」
「え、隠していますよ。」
私はもう一度馬車を見回して、あからさまに隠し扉です!な引き出しや、無駄に布で覆っていますな剣の束を指摘してやった。
「国境で馬車内を検分されるのは常でしょう。あなた方は何をしているの?」
ノーマンは無邪気な笑いを顔に浮かべた。
「ハハハ、すいません。時間が無かったものでいつものようにはいきませんでしたが、ハハ、バレバレですか。ああ、そうだ!そこは魔女様のお力でなんとかなりませんか?俺と一緒に牢屋に入るのはお嫌でしょう。」
「あなたは、隊長になるだけあるのね。私を契約で四時間拘束して、あとは私の魔法の使い放題を企んでいたなんて。ええ、いいわよ。四時間だけね。契約の四時間だけはあなたに付き合いましょう。契約ですもの。」
「ええ。あなたの魔法は困っている下々の為にある。頼みます。」
私はよろしくてよ、とは返せなかった。
ノーマンの言った台詞は、私がギルドと袂を分かった時の捨て台詞なのだ。
この男は、私を調べ上げた上で私に依頼を持ってきたの?