推しのトライアングルはおいしい
「MIXTUREで『white town』。どうぞ」
アナウンサーの前フリで、パッと画面が切り替わる。薄暗いスタジオに佇む三人は、イントロと同時に激しく踊り始めた。
(ひゃああ、かっこいい……!)
木下 ゆりが今もっとも推しているアイドルグループ、MIXTURE。彼らが出演した番組はすべて録りためている。それを休日に繰り返し見るのが彼女の日課だった。
この番組もすでに十度は見返している。
(はあ、もうほんっとこの曲サイコー。カップリング曲だからテレビでやるの珍しいんだよね……ああまじで感謝美月美しすぎる……!)
エースの柳 美月がゆりのイチオシだ。中性的で冷たい面立ちの美人。愛想ゼロのつれない対応なのに歌もダンスも一級品なのがたまらない。
この曲は美月がセンターで歌っており、曲調とダンスがとにかくセクシーなのだ。そのため、ファンのなかでは不動の人気曲となっている。
(ああでもエロすぎて地上波では放送しちゃだめだよお)
サビにさしかかると、皆本 大河と西尾 元気が左右で両手を広げて翼のようなフリを披露する。大河は長身で大柄、いっぽう元気は平均くらいで体格が全然違うのに、一糸乱れぬシンメぶりだ。彼ら二人は、デビュー前から二人で行動することが多かったので、息ぴったりなのである。
(たいげんコンビもおいしすぎるううう)
大河が元気を見つめる瞳は優しさでいっぱいで、聖母かと疑うレベル。イケメンがこんなに優しい顔を振りまいていてときめかないわけがない。金髪とB系ファッションの見た目はゆりのタイプではないが、こんなに温和な表情を見せられてしまっては好きになってしまう。
元気はというと、自他ともに認める平凡顔。でも、名前のとおり元気いっぱいで、このグループのムードメーカーだ。歌がとにかくうまくて、美月とハモるサビが美しい。
(ああ、美月が微笑んでる……!)
無表情が基本の美月だが、元気と絡むときはいつもニコニコしている。尊さのあまり、このシーンを見るたび、テレビに向かって拝んでしまう。
曲が終わったので、ゆりはトークの場面まで早送りした。家のようなセットにアナウンサーと並んで座り、近況などを話している。その流れで、メンバーに対してどう思っているかという問いがあった。
「大河は中学生のときからの大事な親友、美月は俺がアイドルを目指すきっかけになった大切な先輩です!」
元気のニコニコしている表情がどアップで映る。見切れている二人をぎゅっと引き寄せて、画面に三人映ったところでピース。両手に抱えたイケメンたちにも負けないくらい、元気の笑顔がまぶしい。
ただ、大河はぎこちない笑顔を浮かべている。美月はむすっとしていた。
「………元気のそういうところ、嫌い」
「は?」
「どっちのほうが好きなの。ちゃんと選んで」
美月が眉をしかめて顔を寄せると、大河はそのおでこを抑えて引きはがす。
「元気を困らすなよ。続きは楽屋でやろうぜ」
(あああもう、やばい、本当にやばい、何度見てもやばい)
元気を奪い合うこのやりとりは、放送当時SNSでかなり話題になった。楽屋で何を話したんだ、と界隈がざわついたのだ。
(やっぱり好きだわ……)
デビュー当初はファンに甘い言葉をささやくことが多かったのに、最近では元気を取り合う姿ばかり見せるようになった。グループのイメージが変わったといって離れるファンもいたけれど、ゆりとしては、これはこれでおいしい。
(この取り合いも営業の一環だとは思うけど………美月も大河も目が笑ってないんだもん、本気カモって気になっちゃうんだよねえ)
たいげんコンビもみつげんコンビも応援したいけれど、もうしばらくはこの奪い合いを見ていたい。結論、三人でわちゃわちゃしている姿が最高に尊い。一生推せる。
一通りトークコーナーを見たゆりは、次の番組を再生すべくリモコンを手に取るのだった。
~END~