94回 やって来たのを生かして帰すわけにもいかない 9
副長達がゴブリン相手に突破を計ってる頃。
ユカリ達も危機にさらされていた。
周囲に潜んでいたゴブリン達が出てきたのだ。
それらが道を行く手を塞ぐ。
道に出て通行を止めようとしてるのはもちろん、弓矢による遠距離攻撃も仕掛けてくる。
それらが先に進むことを許そうとしない。
その場から逃さないという意図が見てとれる。
そんなユカリ達に、町の方から追撃がかかる。
開いた門からゴブリン達が。
その先頭には人間の男が一人。
それらがユカリ達に向かってきた。
「挟み撃ちか!」
足止めしてる間に増援を呼ぶ。
典型的な手段だ。
前後、あるいは左右から攻撃を仕掛け、相手の意識を分散。
その上で各個撃破を計る。
もとより人数における不利はあったが、ここにきてそれが更に拡大した。
まして敵に人間がいる。
ゴブリンよりもおそらくは戦闘能力が高いだろう。
そんな者が出てきたのを見て、ユカリは自分達が相当まずい状況に陥ったのを感じた。
しかし、それはそれとして好機でもあった。
数の上ではユカリ達が不利だ。
しかし、先頭に立って向かってくる人間を倒せば形勢逆転になるかもしれなかった。
おそらくではあるが、それがゴブリン達の指揮官であると思ったからだ。
通常、ゴブリンは能力が低く、責任ある立場を任される事はない。
たいていの場合、他種族がいればそれに率いられているものだ。
そうでないのはゴブリン同士で連れ立ってる場合くらいである。
今回もそうであるならば、先頭に立ってる人間を倒せば指揮系統が乱れる可能性があった。
統率者がいないゴブリンなど烏合の衆でしかない。
(ならば……!)
やってみるしかなかった。
やってきた人間を倒す。
そして、隙を作ったこの場から脱出する。
今はその可能性に賭けるしかなかった。
挟撃の形に持ち込み、最後の一手を加える。
そのつもりで出て来たユキヒコは、自分に向かってくる女を見て感心した。
捨て鉢なのか、何か考えがあるのか。
それは分からないが、ここに来て立ち向かってくる度胸は素晴らしいものだと思った。
ただ、それが敵なのがいただけない。
味方が旺盛な戦意なら嬉しいが、敵だったらありがたくない。
その敵がこちらに向かってくるのを見て、うんざりした気持ちになる。
とはいえ、逃げるわけにもいかない。
やむなき事だが、真っ正面から迎え撃つ事にした。
(けどなあ……)
心配があった。
相手がどう見ても手練れに思える事だ。
動きや武装からもそれが見て取れる。
厄介だと思った。




