93回 やって来たのを生かして帰すわけにもいかない 8
「なんだ、これは……」
道をふさぎ、森からもあらわれるゴブリン。
それを見て副長達は驚いた。
迅速に手際よく動くそれらは、彼女らが知るゴブリンとは違っていた。
また、隙の無い動きは確かな訓練が見て取れた。
統制の取れた軍隊らしいものだ。
義勇兵だからこそ、そういった事が分かった。
おまけに数が数だ。
明らかに副長達七人を超えた数がいる。
とはいえ、それ自体は大した問題ではない。
ゴブリン相手ならば、数が多少劣っていてもどうとでもなるからだ。
これが10人や20人なら、包囲されたとしても簡単に撃破できただろう。
しかし、彼女らを囲むように展開してるゴブリンはそれ以上だ。
ざっと見ただけでも100は超えていた。
「くそ……」
どうにか突破したいところだが、それも難しいだろう。
何せ、道に陣取ってる連中が最も分厚いのだ。
そこを突破するのは難しい。
さりとて左右に迂回しようにも森が阻む。
ゴブリンがいない隙間を狙うにしても、そこには草木が生い茂っている。
そこを抜けるのも手間がかかる。
「副長!」
「どうします?」
配下の者達から声が上がる。
とはいえそう簡単に打開策が出て来る訳がない。
しかし、悩んだり迷ってる暇もない。
森にいるゴブリン達が、矢や石を飛ばしてきたからだ。
それを盾で防ぎはしたが、浴びせられ続けるわけにもいかない。
「……森に入る。
そのまま敵を突破する」
副長はそう指示を出して先頭に立って走っていく。
それを見て、残りの者達も彼女の後に続いていった。
すぐに動いたのは、遠距離攻撃から逃れる為だった。
その状態では一方的に損害を受けるだけになる。
それを避ける為には遮蔽物のある所に入るしかない。
その為に森の中に踏み込んだ。
進みにくくはなるが、射撃され続けるよりは良い。
それに、どのみち敵を倒していくしかない。
だったら、数が少ない所を選んだ方が効果的だ。
道にいるゴブリン達は、さすがに数が多すぎた。
正面からぶつかるのは危険過ぎる。
なので、多少は手薄な部分を狙う事にした。
それが森の中だったというだけである。
それでもまだ危険はある。
動きにくい森の中を進むのは難しい。
ゴブリンがやってくれば戦闘は避けられない。
どのみち多少の損害や犠牲は出るだろう。
だが、少しでも不利な条件を減らしておかねば、最悪の状況に陥る。
壊滅する事だけは絶対に避けねばならなかった。
突破を計る女義勇兵達。
それを包囲殲滅しようとするゴブリン。
圧倒的な人数差による戦いは、こうして始まった。




