90回 やって来たのを生かして帰すわけにもいかない 5
ユキヒコとゴブリン達がそんな対応をしてる頃。
ユカリ達は周囲を警戒しながら進んでいった。
といっても、周囲を調べながら進むというわけではない。
そこまでやっていたら時間が幾らあっても足りない。
せいぜい、速度を落として周囲を見渡しながら進む程度である。
それでも特に不穏な事も起こらないまま、ユカリ達は目的地近くまで進んでいった。
「あれだな」
森を抜けたところで町が見えてくる。
周囲が田畑になってるので見晴らしは良い。
おかげで町の姿がよく見える。
この時点で特別変わったところは見あたらない。
なのだが、警戒は怠れない。
見晴らしがいいから姿を隠す事が出来ない。
こんな状況で敵に遭遇でもしたら、逃げるか戦うしかなくなる。
また、弓矢で狙われたらどうしようもない。
視界が確保出来るのはありがたいが、これはこれで不利な状況ではある。
とはいえ、遠目に見ているだけというわけにもいかない。
ある程度接近して様子を状況を確かめねばならない。
出来れば町の中に入りたい。
連絡が取れなくなった者達がどうしてるのかを確かめられれば尚良い。
それが出来なくても、以上が発見出来れば充分である。
どのみち、木立から出て町に向かうしかなかった。
「二手に分かれる」
仲間に指示を出していく。
「町に行って様子を確かめる者と、ここで残って待機する者だ。
町に向かう者は、中の様子を確かめる。
少しでもおかしな事があったらその場で引き返す。
そのまま帰還する」
全員、静かに頷いた。
「そして、待機してる者達は、町に向かった者が戻ってこなかったらそのまま帰還してくれ。
町に入ったきり戻ってこなければ、それだけで異常が起こってるという証拠になるだろうからな」
少なくともそう判断する材料になりうる。
だからこそ、全員で町の中に向かうわけにはいかない。
確実に情報を持ち帰る者を残さねばならないのだから。
「それと、もし町に向かう途中で何かが起こったら、即座に撤退してくれ。
決して助けようとするな。
そこで巻き添えになって全員が倒れたら意味が無い」
非情の決断だが、これもやむを得ない。
仲間を助けようとして全滅するという事ほど悲惨な事は無い。
それよりは、何人かでも助かる方が良い。
「というわけで、町に向かう者は危険が予想される。
こちらは人数を絞っていく事にする。
全部で三人。
残り七人が待機だ」
かなり偏った編成である。
だが、それも考えがあっての事だった。
一つは町に向かった者だけに損害を抑える事。
その為、出来る限り人数を少なくしたかった。
しかし、一人だけで向かって、中で何かが起こったらそれも問題だ。
異常を外に伝える者がいなくなってしまう。
なので、確実に一人は外に出られるように、一人か二人は欲しい。
それを考えての三人である。
そして、残り七人の待機も、それだけいれば道中何があってもどうにかなるだろう、という思惑があっての事だった。
女だけとはいえ、いずれも武家の出身である。
任務や戦闘もそれなりにこなしてきた者達だ。
相手が二倍三倍くらいのゴブリン程度なら遅れをとる事はない。
最悪、それ以上の数がいても、突破するくらいは出来るだろう。
もちろん、全員が生き残るという事は無いだろう。
だが、一人か二人ならば、異常を伝えに町に帰る事は出来るはずである。
それを考えての編成だった。
それだけ町に向かう者達の生還を期待してない、とも言える。
「申し訳ないが、私と一緒に町に付き合ってもらいたい。
二人、出来れば志願して欲しい」
そう言って仲間を見渡す。
全員、顔を強ばらせていた。
しかし恐怖はない。
問題は多いのは分かってるが、それ以上にやらねばならない使命感も感じている。
そんな顔だった。
そんな彼女達から手が上がっていく。
六人が志願の意志を示した。
「そうか、ありがとう」
そう言ってユカリは、上がった手の中から二人を選んだ。




